02-13-他人のための勇気なんて、二度とふるわないって
「アッシマー、ここに革袋置いとくぞ。エペ草とライフハーブが十五枚ずつ入ってるから」
「はいっ、このマジックバッグ持っていってください。あっ、ごめんなさい……朝ごはんまだ買いに行けてないんです……」
「いいってべつに。俺、採取の帰りにでも買ってくるから」
「藤間くん、もう行くんですかぁ? すこしくらい休憩……」
「いやいい。八十単位あった砂はどうなった?」
「三十六枚のガラスになって、いまビンにしてるところですっ。成功数は確率どおりって感じですかねぇ」
「いい感じだな。じゃ、いってくる」
「はいっ。……えへへ、いってらっしゃいですっ」
アッシマーの言いかたに若干の照れくささを感じながら宿を出た。
確率でいえば、三十六枚のガラスは三十ほどのビンになるだろう。
問題は薬草とオルフェのビンを組み合わせる薬湯の調合だな。
……なんにせよ、夜までに7シルバーという目標は悠々達成できそうだ。
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《採取結果》
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34回
採取LV3→×1.3
草原採取LV1→1.1
↓
48ポイント
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判定→C
エペ草×3を獲得
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やっぱり砂より草の採取のほうが難しい。
さすがにもう白い光を完全に見失うほどの愚は犯さないが、砂ほどパターンが簡単じゃないから、思いっきり予想と違うところに出現するときがあって、それが時間のロスにつながっている。
「坊主、なかなか上手くなったじゃねぇか! ガハハハハ!」
「うっさ……」
採取をしているとよく絡んでくるこのオッサンは『ダンベンジリ』という名前らしい。
聞き慣れない名前。
人間ではなくホビットだ。ホビットは人間からすればすこし変わった名前が多いのだとか。
背は低く小太り。白い
戦闘力は低いが器用で、採取、調合、農耕などで生計を立てているものが多く、俺みたいな落第勇者との絡みも多い。
「どうだ坊主、そろそろ闘えるようになったか?」
「なんねえよ。もしかしたら今日明日に変わるかもしれねえけど」
「ほう? そりゃ楽しみだ」
「楽しみ?」
「じつはな、ここよりすこし南に行くと、マンドレイクが採取できる場所があるんだ。坊主が用心棒してくれりゃありがてぇんだがなあ! ガハハハハ!」
「ざけんな、調子いいこと言いやがって。……ん?」
オッサンのガハガハ笑う顔越しに見える、街とは逆のほうから迫り来るふたつの影。麻の服に毛むくじゃらの身体、犬の頭。なによりもそいつらは、両手に槍を抱えている。
「うおぉぉおぁぁああやべえ! コボルトだ!」
腹の底から震える声をあげると、採取をしているヤツらは俺の声に弾かれるように、街の方向へ一目散に駆け出した。
「「「「うわああぁぁぁあああ!!」」」」
もちろん俺を含めて。
「オッサン急げっ!」
「ぬおおおおおお! おっ?」
ドテッ。
俺の背中で、つまらない音が鳴った。
「オッサンっ!」
「ひっ……ひっ……!」
あのハゲ、コケやがった……!
「「グァウッ!」」
俺より後ろにいた全員……十人ほどが、うつ伏せに倒れ込んだオッサンに見向きもせず次々と俺を追い抜いてゆく。
「坊主、ワシに構うな! 行け! 回収だけ頼む!」
「ふっざけんなよゴルァアアアアア!」
回収ってなんだよ! ワシに構うなってなんだよ! 異世界から来た俺はともかく、オッサンは死んだら終わりだろ!
くっそおぉぉおおおおお!
「ぼ、坊主、お前……?」
「立てッ! 早くッ!」
オッサンの両脇を両手で引っ張りあげ、足がすくんで立てない身体を無理矢理起こすと、二体のコボルトはもう近くまで迫っていた。
ふざけんなよ、マジで何やってんだよ俺。
他人のための勇気なんて、もう二度とふるわないって決めただろ。
「行けオッサン! 振り返んな!」
「坊主……坊主……!」
「はやく行けっつってんだろおおおおおおおおッッッッ!!」
「ひっ……ひいいっ……!」
のたのたと遠ざかってゆく足音一つ。
獲物を定めて近づいてくる足音二つ。
「悪いな。お前らの朝飯は俺だけだ」
……さて、格好つけたはいいが、勝てる
つーか、マジでアホだよな、俺。
痛い目にあって、損するのなんてわかってんのに。
しかも助けたのは美少女でも金持ちでもなく、ホビットのオッサン……。
「犬っころども! 遊んでやるッ! 鬼ごっこだッッ!」
頼むぜ【逃走LV1】!
オッサンの逃げ道である南門には逃げられない。
俺はエシュメルデの東──砂浜へと、二体のコボルトを引き連れて駆け出した。
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