02-10-夕焼けのせいではなかったというのなら

 最悪だ。もう最悪。

 行きつけのスキルブックショップをパリピ連中に知られたうえ、


『わたしたち、ここの斜め向かいの宿屋に住んでるんですよぅ』


 なにひとつ考えなしに喋るアッシマーのせいで寝床までバレてしまった。さらに言えば、


「藤間くんと足柄山さんはいまからどうするんだい?」


「へへーん。あたしら全員【採取LV1】買ったし! あんたらも採取行くっしょ? どっち? 草? 砂?」


 こいつらはエペ草とライフハーブが必要らしい。なんでもレベルアップに必要だとか。


「……砂」


 だから、そう答えた。こいつらがついてこないように。


 我ながら性格悪いと思う。

 心が痛まないわけじゃない。


 ……おいおい、なにを考えているんだよ俺は。

 こいつらのことは、なにひとつ斟酌しんしゃくしないんだろ?


 こいつらは陽キャ、俺は陰キャ。

 太陽があって、影があって。

 光があって、闇があって。

 食うものと、食われるものがいて。


 食う側は毒がないか、棘がないかを吟味する。でも、食われる側は食うやつの腹のことなんて気にしないだろ?


 俺は食われたくないから暴れただけ。毒を吐いて、棘のように尖らせただけ。

 もう、これ以上、食われたくなかっただけ。



「おー! 夜の海ってのもいいじゃん!」


「わぁ……! マナフライが反射して幻想的……!」



 なのになんでついてきてんだよ、マジで。


──────

《採取結果》

──────

39回

採取LV3→×1.3

砂浜採取LV1→×1.1

砂採取LV1→×1.1

61ポイント

──────

判定→A

オルフェの砂×3

オルフェのガラス

オルフェの白い砂を獲得

──────


「うおあ、スキルってすげぇ……!」


 夜の砂浜一発目、肩慣らしと思って採取をしたら、難なくA判定を獲得してしまった。


 思わず口にしてしまったが、スキルってマジで凄い。今の俺は砂浜で砂を採取すれば、1.3×1.1×1.1=1.57の補正がかかっているのだ。


──────

《採取結果》

──────

43回

採取LV3→×1.3

砂浜採取LV1→×1.1

砂採取LV1→×1.1

67ポイント

──────

判定→A

オルフェの砂×6を獲得

──────


 やばい、楽しい。

 楽しすぎてパリピどもが近くにいることなんて忘れ、採取に励む。


 すごい勢いでマジックバッグに溜まってゆくオルフェの砂。


「アッシマー、オルフェの砂は俺のマジックバッグに入れてくれ。ガラスと白い砂はお前の革袋に入れるわ」


「らじゃですっ」


「マジックバッグってこれかい?」

「私もここにいれてくね? えへへ……D判定が出ちゃった」

「マジ? 言っとくけど伶奈、イーブンだかんね。あたしもD判定とったから」


 ……。



「……なあ」


 女子三人と距離があいたタイミングで、俺は祁答院にそっと声をかけた。


「もっぺん訊くわ。どういうつもりだ?」


「うん?」


「なんで近づいてくるんだよ。こんなの面倒なだけだろ?」


「そうかい? 俺は楽しいよ?」


 屈託なく笑い、首を傾げてみせる祁答院。

 その顔を見て俺が感じたのは、胸の痛みだった。


 この笑顔を信じられない俺の醜さと、この笑顔を信じてみたいという俺の弱さがい交ぜとなって、この胸を痛ませる。


「藤間くんもそう思ってくれると、嬉しいんだけどな」


 でも、信じてしまえば、こいつらは俺の憎むべきパリピでありながら…… 陰キャをしいたげないパリピだということになる。


 もちろんそういう奴らだっているだろう。もっとも、その背景には『こんな底辺に手を差し伸べる俺カッケー』というカタルシスがあるのかもしれないが。


 しかし、こいつらを信じるということは、俺は、見誤ったことになる。


 今日ここにいないビッチBとイケメンB、イケメンCはともかくとして、もしもこいつらが本当に良いやつだったのだとしたら。



 あれがもしも罰ゲームなんかじゃなかったのだとしたら。



 口の悪い高木はともかく、祁答院、そして灯里にした俺の仕打ちは……。



「藤間くん?」


「なんでもねぇ」


 白い光に視線を落とす。


 こいつらが最低じゃないのなら。


『私とつきあってもらえませんか』

『罰ゲームなら他所よそでやれ』



 もしも、あの日の潤んだ瞳が、灯里伶奈の頬の朱が、夕焼けのせいではなかったというのなら。




 ……最低なのは、俺だった。

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