02-09-なんだこのいやなハモりかた

 稼いだ金を持ってスキルブックショップに行くと、珍しいことにそこそこ繁盛していた。


 先客は六人。しかしよりによってそのうちの三人が……。



「あれっ? 藤間くんと足柄山さんじゃないか」


「げえぇぇっ……」


 クラスが誇る陽キャ、祁答院悠真、灯里伶奈、高木亜沙美の三人だった。


「藤間くんと足柄山さん…? こ、こんばんは……!」

「あ、ほんとだ。地味子と……なに木だっけ」


 出くわした瞬間、身体の右半分が熱くなった。俺の右にいるアッシマーの体温が急上昇したからだ。


「こ、こ、こんばんはですっ……!」


「高木、もしかしてその『なに木』っての、俺のことか? いい加減名乗るが俺藤間なんだけど。っつーか直前に祁答院と灯里がちゃんと藤間って呼んでただろ」


「そうそう藤間! いやーあたし人の名前覚えるの苦手でさー。もーちょっと覚えやすい名前になんない?」


 なんねーっつの。つーか、藤間ってそれほど珍しい苗字じゃないよね? 祁答院とか足柄山みたいなSSRはともかく、すくなくとも高木より珍しいぶん、多少は覚えやすいはずだろ。……と。


「えっ、えっ……? なんでふたりが一緒に……?」


 最近こういうことが多いんだが、灯里が俺とアッシマーを見比べて、なにやら驚いたような顔をする。


「えっ、えっ」


 なんでだよ、と思いながらアッシマーを見やれば、灯里の視線に気づいたように、今度はアッシマーもあわあわしていた。


「……じゃあな」


 混んでいるなら出直そう。当然の思考だ。しかしココナさんがほかの客に囲まれながら、


「にゃーーっと待つにゃ! せっかくお店に来てくれたのに、モノリスも確認しないのはあんまりにゃ! もうすこし待っててにゃん!」


 そう呼び止めてきた。にゃーっと待つってどれくらい待てばいいの?


──


「お待たせにゃんにゃん♪」


 自分のほしいスキルが手に入ったのか、三人組のいかつい冒険者がほくほく顔で店を出ていくと、ココナさんは俺とアッシマーにスキルモノリスを差し出してきた。


「え、お前らはいいのかよ」


「ああ……俺たちはもう買ったんだ。帰ろうとしたらちょうどふたりが来たから」


 いや用事が終わったんなら帰れよ。つーかなんでお前らがここにいるんだよ。


「あのね、じつは私たち、三人でダンジョンに潜ってたんだけど……」


香菜かなが居ないと、あたしら木箱の鍵、開けらんないからさ」


「そんなときココナたちが通りがかってね。パーティに加わってくれたんだ。……ははは、むしろ俺たちが入れてもらったと言ったほうが正しいけど」


「ココにゃんは開錠が得意だにゃん♪」


 で、そこで意気投合して、ココナさんがスキルブックショップを営んでいると知り、ダンジョンアタック後にこうして来たわけか。


 くっそ……こいつらと顔合わせる機会が増えるじゃねえか……。


 心の中で舌を打ち、スキルモノリスをタッチした。


──────────

藤間透

3シルバー10カッパー

──────────


▼─────ステータス

SPLV1 30カッパー

器用LV2(UP) 60カッパー

体力LV1 50カッパー

技力LV1 50カッパー


▼─────戦闘

戦闘LV1 30カッパー


▼─────魔法

召喚LV1 30カッパー


▼─────生産

採取LV3(UP) 1シルバー20カッパー

草原採取LV1(New) 50カッパー

砂採取LV1(New) 50カッパー

調合LV1 30カッパー


▼─────行動

歩行LV1 30カッパー

走行LV1 30カッパー

疾駆LV1 30カッパー

運搬LV1 50カッパー


▼─────その他

冷静LV1 30カッパー

我慢LV1 30カッパー

覚悟LV1 50カッパー


──────────


「うっお、めっちゃ増えた」


 増えたのは【器用LV2】【採取LV3】【草原採取LV1】【砂採取LV1】。どれもいいスキルに思えるけど。


「ココナさん、この【砂採取LV1】ってなんだ? 俺もう【砂浜採取LV1】持ってるんだけど」


「砂浜採取と砂採取は別物にゃ。砂浜だと砂だけじゃにゃくて『海水』とか『ソーンズ』って呼ばれるうにみたいにトゲトゲした素材も採れるにゃ」


「?? つまり【砂採取LV1】を習得したらなにがどうなるんだ?」


「簡単にゃ。砂浜でオルフェの砂を採取したら、【採取LV2】で1.2、【砂浜採取LV1】で1.1、【砂採取LV1】で1.1、つまり全部掛け算で1.45倍の補正がかかるにゃ。ちなみに砂漠で砂を採取するなら、砂浜じゃにゃいからそこから【砂浜採取LV1】の補正が消えるにゃ」


「ぐあ、強いな……。アッシマーはどうだ?」


「はいぃ……【錬金LV2】と【加工LV2】がありますぅ……」


 うーん、まいったな……。金は3シルバー10カッパーしかない。生えたスキルとアッシマーの2スキル全部を買えば4シルバー。全然足りてねえ。


「素材の在庫はどんなもんだ?」


「エペ草が六、ライフハーブが三、オルフェの白い砂が十二、ホモモ草が二ですぅ」


「白い砂ってなにかに使えそうなのか?」


「白い砂ふたつで『オルフェの白いガラス』、白い砂とオルフェの砂で『研磨剤』というのができそうなんですけど、どちらもスキル補正コミコミで成功率が50%以下なんですよぅ……だから怖くてさわってないんです」


 むう。オルフェの砂がいくつあっても足りない現状だと、オルフェの砂を消費する『研磨剤』に錬金するわけにはいかない。ならばふたつを組み合わせて『オルフェの白いガラス』を錬金するしかないんだろうが、それの用途もわからない。そもそも白いガラスってなんだよ。ガラスって透明じゃないとダメなんじゃないの?


 エペ草とかホモモ草とは違い、正直言って砂の在庫は邪魔だ。なぜなら保管に革袋を必要とするからだ。まさか砂を部屋の中に撒き散らすわけにもいかないしなぁ……。


 俺たちが所有する革袋は容量30のものが2つ、それに加えリディアから貰った『☆マジックバッグ』が1つ。こっちは容量50で重量が半分になる優れものだ。


 革袋のうちのひとつを白い砂を保管するためだけに使うのはいくらなんでももったいない。うーむ……。


「横から失礼するにゃん。『オルフェの白い砂』にはマニャマナが含まれているから、武器の強化エンチャントとか一歩上の調合、錬金でよく使われるにゃ。だから加工せずに白い砂そのままでも売れたりするにゃん」


「そうなのか? オルフェの砂は売れないって聞いたが……」


「白い砂のほうには価値があるにゃん。白い砂がほしくて採取する人は多いけど、ついでに砂も集まってしまうから、普通の砂だけ捨てる人とか、やむなくビンにして売る人が多いにゃ。だからちまたでオルフェのビンが安価で売られてるにゃ。そういうこともあって、ビンをわざわざ砂から採取してつくる人はすくないんだにゃ」


 マジかよ。俺、オルフェの砂を採取して「白い砂は要らねぇ……」とか言ってたんだけど。


「おにーちゃんとおねーちゃんは白い砂を使わないにゃ? もし良かったら、白い砂をココニャちゃんが買い取りたいんにゃけど……あんまり高くは買えにゃいけと……」


「そりゃ願ったり叶ったりなんだが……俺たち相場とかわかんないぞ」


「ギルドの買取価格は容量30と革袋を合わせて2シルバー30カッパーだにゃん。素材屋さんで買うときは革袋と合わせてだいたい3シルバー~3シルバー20カッパーくらいするにゃん」


 なんで革袋を合わせた取引なんだよ、と疑問を持ったが、よく考えたらそりゃそうだよな。保管が面倒なのと一緒で、一単位ずつ取引していたら面倒だもんな。汚れる可能性もあるし。砂だから。


 でもそれは困る。なぜなら取引のたびに革袋が一枚ずつなくなるからだ。まあアイテムショップで50~60カッパーで売られているから、売った金で買い足せばいい話ではあるんだが。


 革袋の購入費を差し引くと、ギルドへの売値は『オルフェの白い砂』一単位5.6~6カッパーということになる。


 対する素材屋での購入費は、革袋代を差し引けば一単位8カッパー~9カッパーになる。


「そこで提案にゃ。『オルフェの白い砂』を革袋付きで2シルバーで買わせてほしいにゃ」


 2シルバー。

 ってことは、ええと……。


 ……ん?


「おいコラ待て。なんでギルドよりも安く買おうとしてんだ。一単位5カッパーじゃねえか」

「その代わり、容量30の革袋を二枚つけるにゃ。全部が未使用じゃにゃいけど、ちゃんと綺麗で丈夫なやつをつけるにゃ。どうにゃ?」


 俺の指摘をココナさんが食い気味に打ち消した。革袋二枚?


「いまのおにーちゃんとおねーちゃんには悪くない話だと思うにゃ。……どうにゃ?」


 ……たしかに悪くない。むしろ革袋が不足している俺たちからすればありがたい。


 作業台やストレージボックスに素材を裸でほっぽっておかなくてもよくなるし、複数の革袋を持ち運べば宿と採取場へ行き来する回数が減って効率が上がる。


「良さそうだな。アッシマー、どう思う?」


「はいっ、わたしも素材を種類ごとに保管しておきたかったですし、革袋はほしいですっ」


 なら、決まりだな。


「取引成立だ。でも俺たちの革袋不足が解消されるまでだぞ。最初の納品は早くて明日だ」


「了解だにゃ! 改めてこれからもよろしくにゃん♪」


 ……とまあいろいろと脱線したが、アッシマーに1シルバー20カッパーで【錬金LV2】と【加工LV2】を、自分には1シルバー70カッパーで【採取LV3】と【砂採取LV1】を購入した。


「……」


 その様子を見て、そしてさっきからの会話をじっと聴いていた祁答院たち三人は面食らったようにこちらを見ている。


「んだよ」


「あんたらってさ、つきあってんの?」


「亜沙美ちゃん!?」


 高木のアホな質問に悲鳴をあげたのは、なぜか灯里だった。


「んなわけねぇだろ……」

「そんなわけないですよぅ……」


 俺とアッシマー、ふたり同時にあきれた声を出す。なんだこのいやなハモりかた。げんなりとしつつ言葉を続けると……。


「俺みたいのに彼女ができるわけねえだろ」

「わたしなんかに彼氏さんができるわけないですよぅ」



 さらにいやなシンクロが、ビルの隙間風のように店内を虚しく、かつ寒くした。しかし灯里は何故かほっとした様子だった。

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