02-05-なんでお前らまでついてくるんだよ

 宿屋に戻り、まずは革袋の中身をふたつとも空にして、三十枚ずつのエペ草とライフハーブを担保に生活費から1シルバー20カッパーを引き出し、スキルブックショップへ。


「……」


 愛想もくそもないが、陰キャからすればそれが逆にありがたい。そんなゴレグリウスから【調合LV3】を購入し、アッシマーに与える。


「ふぇぇぇぇ……」


 恐れ入る彼女に「効率だ効率」と言い聞かせ、宿を出た。


「おかえり藤間くん、早かったね」


「荷物を置いてきただけだからな」


 祁答院悠真けどういんゆうま灯里伶奈あかりれな高木亜沙美たかぎあさみのハーレムパーティはまだ採取をしていた。


「ねー、藤…………間? エペ草の採取一回見せてくんない?」


「すげぇな、名前を覚えられてえらいな。でもいまの藤と間のあいだはなんだったんだろうな」


 皮肉たっぷりにそう言ってやると「あってた? うし、あたしって天才」とか言い出す。こいつは……。


─────

《採取結果》

─────

38回

採取LV2→×1.2

45ポイント

─────

判定→C

エペ草×3を獲得

─────


「「「おー……」」」


 でもなんだかんだ見せてやる俺氏、めっちゃふところ深い。


「一気にみっつとかあんたマジ? 地味子よりうまいじゃん」


「あいつより俺のほうが採取歴が長いからな。スキルレベルも高いし」


「参考になったよ。ありがとう藤間くん。亜沙美、伶奈、俺達も藤間くんみたいに両手を使おう。俺達は利き腕の右手しか──」


 …………。

 なんなのこいつら。何が目的なの?


 あんだけのことをしておいて、あんだけの啖呵たんかを切った俺になんでこんなに話しかけてくるの?


 俺も俺だよ。なに普通に喋ってんの? わかってるだろ?

 期待しても裏切られるって。

 期待したぶんだけ、裏切られたときのダメージがでかいって。



 え、期待?



 俺、期待してるの……か?



 もう普通にこうやって他人と喋るのとか諦めて、トップカースト連中を遠ざけて……それでも、期待してるのか?



「はっ……はあっ……やった……! やった!」


「伶奈、すごいじゃないか! 藤間くん、伶奈が初めてライフハーブを……藤間くん?」


 なんだよ。パリピ三人と陰キャひとりだろ? 俺は刺し身のツマとか弁当のバランとか、なんなら食いもんの中に入っちまった髪の毛だろ?


「……よかったな」


「っ……! う、うんっ……!」


 えへへ……とはにかみながら採取に戻る灯里と、彼女を優しげに見守る高木。祁答院はいろいろなことに戸惑う俺に視線を寄越し、嬉しそうに笑顔を向けてくる。


「……んだよ」


「ははっ、いやなにも? さーて、俺も頑張るかな!」


 なんなんだよ、マジでこいつら。

 やめろよ。いいやつのフリをするなよ。陰キャはこういうのに弱いんだよ。


 優しくされないから、こうやって接してもらえないから、諦めた。


 それでもたぶん、どこかで待ってるんだよ。俺みたいのでも。


 心のどこかで、願ってるんだよ。俺みたいのでも。



 あれだけ憎々しかった、陽の当たる、そのときを。


──


「俺、終わったから別の場所行くわ」


 三十分ほど経過しただろうか、袋はエペ草とライフハーブ十五枚ずつでいっぱいになった。

 一応、念のため、仕方なしに声をかけると、高木に呼び止められた。


「別の場所? ほかの素材でもとるわけ?」


「ああ。オルフェのビンっていうアイテムが大量に必要でな。それをとってくる」


「オルフェのビンってあのオルフェのビン? 5カッパーで売ってるやつじゃね? 買ったほうがいーんじゃないの?」


「お前らと一緒だ。売ってるものを買えば楽だけどそんな余裕はないんだよ。あとは採取の経験値もそっちのほうが上がるみたいだし、アッシマーの錬金と加工の経験値も稼がせてやりたいからな」


「ふーん……?」


 うっわこれわかってない顔だわ。


──



「うっわ海じゃん! めっちゃテンション上がる! 泳ぎたい! ねーねー悠真、あたし泳ぎたい!」


「ははは……水着なんて持ってないだろ? 裸にでもなるつもりか?」


「水着、かなり高いもんね……」


 んで、なんでこいつらまでついてくるんだよ。


「ははっ、そんなにいやそうな顔をしないでくれよ。こっちのほうが採取の経験が積めるんだろ?」


「まぁ、邪魔しないならいいけどよ……。ガラスの破片が落ちてるとこもあるから怪我すんなよ」


 昨日は無人だったが今日は数人の先客がいる。人の少ない採取スポットを見繕い、採取の拠点とした。


─────

《採取結果》

─────

40回

採取LV2→×1.2

48ポイント

─────

判定→C

オルフェの砂×3を獲得

─────


 ん、やっぱり砂の採取はライフハーブどころかエペ草よりも簡単だ。すこし気合を入れたらB判定もありえるな。


「っしゃぁ成功したし! さっきのより簡単じゃん! 楽しーっ!」


 約一名うるせぇけど。



「そういや、なんで今日は三人なんだよ」


 近くにいた祁答院に問う。


「いっつも六人で行動してるだろ。今日は別行動か」


「あ、それはね」


 ちょっとまて。なんで話しかけただけなのにそんなに嬉しそうなんだよ。


「慎也と直人はなんだか気分がのらないって。香菜は疲れたから今日は休むって言ってたよ」


「オフか」


「みたいだよ」


 この異世界、アルカディアは本当に気軽に来られる存在だ。

 寝る前、どう見てもスマホな携帯端末……『ギア』のアプリ『アルカディア』のON/OFFスイッチを切り替えるだけで、異世界に来るか普通に睡眠を取るかを選択できるのだ。


 すなわち、今日はビッチBと、いけ好かないイケメンBとCはアルカディアには居ないということになる。


「あと、すこし違うよ藤間くん」


「……あん?」


「俺達は三人じゃない。藤間くんを入れて四人だよ。さっきは足柄山さんもいたから五人だったけど」


 な、


 な、



 なんなのまじこいつ。


 なんでそんなくっさい台詞を簡単に吐けるの!? しかも自然なキメ笑顔で! あーやばかったわー。俺が女だったら落ちてたわー。イケメン怖いわー。



「うぅっ、もうちょっとなんだけどな……」


 戸惑いを隠すように視線をやった先で、灯里がもう少しでD判定が獲れそうだと悔しがる。


「うっし! 二十六回! 新記録だよ伶奈ー。あたしのほうが先にD判定獲るかんねー?」


「ま、負けないっ……!」


 女子ふたりは一生懸命だ。整った顔を砂で汚しながら、必死に採取に励んでいる。


 違うだろ、藤間透。

 騙されんなよ、何回騙されたと思ってるんだよ。


 こいつらは、俺に期待させようとしてわざとこうしてるに決まってんだろ。


 持ち上げてから落としたほうが、楽しいから。


「あ、藤間くん、革袋の中身が半分くらいになったら教えてくれないか?」


「……は? なんで」


「なんでって……俺たちはべつに、この砂が必要なわけじゃないから。藤間くんの革袋にいれようと思って」


「……あん? じゃあなんでやってんだよ」


「うーん……楽しいから、かな? それにここで経験を積んだほうがエペ草とかライフハーブの採取に有利になるんだろ? なら俺たちのスキルアップにも繋がるじゃないか」


 俺を、騙そうとしてるに、決まってる、だろ。



 そう……だろ?



 波がざざーんと砂浜を打った。波が引いても、しかし俺の心に生まれたざわめきは一向に引いてくれなかった。

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