02-04-異世界におでんなんてあるのだろうか
とまり木の翡翠亭。201号室の窓先に、ふたりぶんのボロギレが仲良く干されている。
俺たちは忘れることにした。
アッシマーが俺のホモモ草をがっつり握ったことも、そもそもどうして俺のホモモ草が元気だったのかも。
「……」
でもたまにアッシマーが俺の下腹部に視線をやり、すぐ逸らすようになった。このすけべ。
「残り66カッパーか。どうすっかな」
「5シルバーまではまだまだですっ。頑張りましょうねっ」
俺は明日の夜までに5シルバーを貯め、リディアからコボルトの意思を購入すると約束した。だからあと4シルバー34カッパーを貯めなければいけない。
「アッシマー、調合とか加工とかしなきゃならないものは残ってるか?」
「いえっ、昨日全部終わらせちゃいました。残ってる素材はエペ草が二枚、オルフェのビンが九本、あとは、そのぅ……ほ、ホモモ草が二本です……」
いやお前忘れようって言ったのに、ホモモ草で顔を赤らめるのやめてね。
「ならふたりで採取だな。行くぞ」
「はいですっ! ……ふぇ? 藤間くん、どうして6カッパーだけ置いていくんですか? 全部預けたほうが……」
「スキルブックを買っていくからな。あとあざといのやめろ」
「ええぇっ、お金、使っちゃうんですかぁ!? 使っても目標の5シルバー、大丈夫なんですか!?」
「目標から一歩遠のいても、走る速度が上がるならそっちのほうがいいだろ」
アッシマーは「藤間くんがそういうなら……」と納得してくれた。俺の「あざといのやめろ」という声はもはや無視である。
──
「おはよーだにゃん♪」
「おはようごにゃいます☆」
「……スキルモノリスを見せてくれ」
宿向かいのスキルブックショップ。
無視するなら、もうなにを言っても無駄だ。殴りたいような気持ちを押し込めて石板にタッチした。
──────────
藤間透
90カッパー
──────────
▼─────ステータス
SPLV1 30カッパー
体力LV1 50カッパー
技力LV1 50カッパー
▼─────戦闘
戦闘LV1(New) 30カッパー
逃走LV1 30カッパー
▼─────魔法
召喚LV1 30カッパー
▼─────生産
砂浜採取LV1 50カッパー
調合LV1 30カッパー
▼─────行動
歩行LV1 30カッパー
走行LV1 30カッパー
疾駆LV1 30カッパー
運搬LV1 50カッパー
▼─────その他
冷静LV1 30カッパー
我慢LV1 30カッパー
覚悟LV1(New) 50カッパー
──────────
今度は【戦闘LV1】と【覚悟LV1】が生えた。どう考えてもあのコボルトとのやり取りのおかげというか、あれのせいだ。
「はわわわわ……」
「どうした」
「あ、いえ、なんでもっ」
アッシマーは一生懸命自分のスキルモノリスを俺の視線から隠そうとするが、もうがっつり見ちゃったよ。それを知ってか、アッシマーは諦めたように息をついて、自分の石板を俺に差しだした。
──────────
足柄山沁子
0カッパー
──────────
▼─────ステータス
HPLV1 30カッパー
SPLV1(New) 30カッパー
▼─────戦闘
逃走LV1 30カッパー
防御LV1 30カッパー
▼─────生産
調合LV3(UP) 1シルバー20カッパー
錬金LV1(New) 30カッパー
加工LV2(UP) 60カッパー
▼─────行動
歩行LV1 30カッパー
走行LV1(New) 30カッパー
▼─────その他
勇気LV1 30カッパー
我慢LV1 30カッパー
〇幸運LV1 1シルバー
──────────
「おー、生産スキルがめっちゃ増えてるじゃねえか」
「あの……藤間くん、わたしのスキルは買わなくていいですからね?」
ああ、だからアッシマーはスキルモノリスを隠していたのか。ポーション作成に必要なスキルが増えていたから、俺がアッシマーを優先しないようにと。
「ところでココナさん、そいつは?」
俺は猫耳な彼女の隣に似つかわしくない、大きく無骨な石の人形を指さした。
「うにゃ? これはストーンゴーレムの『ゴレグリウス』だにゃー♪」
「なにその名前……」
身長は2メートルくらいだろうか。
四角い石を組み合わせたような灰色の外見。顔には目の位置に深い穴がふたつ空いていて、時折その『両目』の奥が光る。
ゴレグリウスは鈍重な動きでこちらにぺこり……と頭を下げた。なんだこいつ、名前は超強そうだけど、ちょっとかわいい。
「ココにゃんはあとでママと狩りに行くにゃん。ゴレグリウスは店番のプロだにゃーん♪」
「えぇ……?」
どうみてもココナさんが戦闘するよりもゴレグリウスが闘ったほうが強そうなんだけど。もしかしたらココナさんもリディアと同じく魔法使いなのかもしれない。
「ゴレグリウスがいれば安心にゃ。泥棒はゴレグリウスに食べられちゃうにゃん」
なにそれこっわ。ゴレグリウスに食われた泥棒はこう思うのだろうか。
『※いしのなかにいる!』……と。
結局【逃走LV1】のスキルブックを俺とアッシマーのふたりぶん購入し、商業都市エシュメルデの南門を抜けた。
現在午前九時。
今日は十二時にリディアが宿を訪れることになっている。だからそれまでには採取と調合をやってしまわねぇとな。できることなら
「アッシマーはエペ草な。俺はそっちでライフハーブをとってるから」
「はいですっ!」
さて……やりますか。
─────
《採取結果》
─────
34回
採取LV2→×1.2
↓
40ポイント
─────
判定→C
ライフハーブ×3を獲得
─────
「よっしゃ……! はっ……! はあっ……!」
九回目にしてついに出た判定C。オルフェの砂ではいとも簡単に出て、エペ草では安定してきたC判定が、ライフハーブではこんなにも難しい。
「パターンがややこしいんだよなあ……」
採取中、光る床はランダムだと思っていたが、ある程度の流れというか、パターンがある。三連続で斜めに光ったら次は必ず左に50cmとか、二回斜めに来たら次も必ず斜めとか。
そういうパターンが採取対象のアイテムごとにあって、オルフェの砂は単純で覚えやすいパターンが続いたり、そもそも地面の白く光る範囲が広くタッチしやすい。しかしライフハーブの場合はかなりガチでやらないとすぐに白い光を見失ってしまう。
「アッシマー少し休め」
「はいっ、これが終わったら……。はあっ、はあっ……」
まだここに来て十五分くらいだというのに、すでにもうふたりとも汗をかいている。コモンシャツがボロギレよりもしっかり服してるぶん、暑いんだって。
「やあ」
そんななか、この草原に相応しい爽やかな声が掛けられた。
後ろには
「藤間くんおはよう。足柄山さんも」
「お、おう」
「お、おはよぅござぃますぅ……」
どうしてこいつらはこうも声をかけてくるのか。採取の邪魔だと言いたかったが、俺たちふたりとも、どうみても全力を出しきったあとの休憩だ。そう突っぱねるには
「……そーだ。あたしも一回やってみよーっと」
高木はなんだか楽しげに俺の横にかがみこんで、意外にも短く切り揃えられた爪をもつ両手に採取用の手袋を身につけた。なんでお前がそれを持ってるんだよ。
「おい、ここはライフハーブだぞ。初心者はそっち。アッシマーのとこ」
「採取ってやったことないけどアレでしょ? モグラ叩きっしょ? あたしモグラ叩き得意みヤバいし」
なにそれ。『モグラ叩き得意だし』ってのと意味違うの? 得意みヤバいってなに?
「あたしの華麗なテク見せてやるし。……ていっ、とおっ、うりゃっ」
……。
─────
《採取結果》
─────
11回
補正無し
↓
11ポイント
─────
判定→X
獲得物無し
─────
「ふざけんなし! おいこらあんたなに笑ってんの」
「いやすまん……フラグ回収までの勢いが凄くて」
序盤以降は白い光に振り回されっぱなしの六十秒だった。華麗なwwwwwwテクwwwwwwなんだよお前俺のこと虫みたいとか言っといて、自分ができてねぇじゃねえか。
「つーかなんでお前らが採取用手袋持ってんだよ。ぶっちゃけ必要ないだろ」
「それがそうもいかないんだって」
高木が不機嫌そうに返し、灯里が俺の質問に答えた。
「じつはね、レベルアップには経験値とお金、あとは素材が必要なの。モンスターがドロップする素材に加えて、採取で手に入る素材も必要みたいで……」
なにそれ面倒くさ。灯里の説明を祁答院が引き継ぐ。
「LV1からLV2に上げるには10カッパーとコボルトの槍、エペ草二枚が必要なんだ。LV2から3にするには20カッパーとコボルトの槍二本、あとはエペ草二枚とライフハーブが一枚必要でね」
「えげつねぇな」
「でも最近のスマホゲームってそういうの多いですよねぇ……」
たしかにアッシマーの言う通り、最近は経験値が溜まったら『てれれれてーてってー♪』と自動的にレベルアップするゲームは少ない。金や素材を貯めて、推しキャラを育成するゲームのほうが多い。
「LV2にレベルアップするときはエペ草をお店で買ったんだけど、いざLV3にレベルアップするときにもったいなく感じちゃって……。だから今日は採取に挑戦してみようかなって」
灯里が両手でガッツポーズをしてやる気を見せつけてくる。
散々人のことを馬鹿にしておいて、調子のいいやつらだ。
─────
《採取結果》
─────
35回
採取LV2→×1.2
↓
42ポイント
─────
判定→C
ライフハーブ×3を獲得
─────
「うっし、パターンわかってきた」
「藤間くんは凄いな」
近くで採取をしていた祁答院が汗を
「藤間くん、とっても真剣な顔。かっこいい……と、思う、な」
同じく近くにいた灯里がもじもじしながらちらちらとこちらを
「ガチで真剣なんだよ。こっちは生活かかってるからな。……アッシマー、こっちは終わったぞ」
吐き捨てるようにそう言って、少し離れたところで高木と一緒に頑張っているアッシマーに声をかけた。
「わたしも終わりましたぁ」
「うし、なら一回帰るか。……えーと、あー、……お先」
べつにいいのに、しないのも逆に変かと思い、いちおう三人に声をかけると、
「藤間くん、もう終わりかい?」
「あ、いや、アッシマーを送って荷物を置いたら俺は帰ってくるけど」
「あはっ、そうか。待ってるよ、藤間くん!」
「待ってなくてもいいっつーのに……」
マジでなんなのこいつら。俺のこと好きなの? ツンデレだとしたらツンが悪意にまみれすぎだろ。
「地味子、あんたは帰ってこないん?」
「えっ、あっ、あのあのっ、わたしは調合とかがありますのでっ。そのう、終わったらまた来ますけど……」
「そ。んじゃまた後でね」
「は、はいですぅ!」
一歩先んじた俺に、うれしそうなステップがついてくる。
「えへへぇ……高木さんが普通に喋ってくれましたぁ……」
「普通じゃねえだろ。モロ地味子って呼ばれてんじゃねえか」
「べつにいいんですよぅ。わたしからすれば足柄山も
「お前、ほんと自分の名前に否定的な。いいじゃねえか、うまそうな名前で」
「完全におでんを見るときの目!」
「厚揚げとしらたきうまいよな」
「いいですねぇ……。わたしはたまごと大根が好きですっ」
「まあここじゃ俺たちの飯はまだ当分黒パンだけどな」
自分で言っておいて、あの硬さと苦さを思い出し、早速げんなりする。
「はいっ、でもいつか一緒に食べましょうねっ、おでん!」
果たしてこの異世界におでんなんてあるのだろうか。でもまぁそれもいいなぁなんて思いつつ、エシュメルデの南門を
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