01-17-俺の上に、アッシマーが跨がっている
リディアと別れ、俺たちはいろいろとあり、防具屋に足を運んでいた。
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コモンブーツ 40カッパー
DEF0.10 HP1
安物の素材でつくった簡素な靴。
まずはここから。
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「はわわわわ、結構しますね……」
「だけどしょうがねぇだろ。初期投資はなにをするにも要るもんだしな。あとその声やめろ」
「うーん、藤間くんはブレませんねぇ……」
俺の毒にも慣れてきたのか、アッシマーはなんでもなさそうに商品棚に視線を戻した。
さて、これまで裸足だった俺たちだが、ポーションの調合に必要な素材である『空きビン』を獲得するため、エシュメルデ東の砂浜へ足を運んだんだが……。
『げぇぇっ! 砂浜熱っ! 足の裏熱っ!』
『ひゃあああ、ガラス! ガラスの破片がたくさん落ちてますっ! 踏んだら危ないですよ藤間くん!』
気温はそこまで高くないのだが、太陽光を一身に浴びた砂は熱く、またガラスの破片やゴミが散乱しているため採取どころではなかったのだ。
「80カッパーたしかに。毎度あり」
肩肘ついたまま接客するとんでもないオッサン店長の店を出て、一度宿へ。
足を綺麗にしてからコモンブーツを装備した。
「えへへっ……じゃーん☆ どうですか?」
「どうですかって……"裸足のアッシマー"が"安物の靴を装備したアッシマー"になったとしか」
「なんかもうちょっとあるでしょう? ほらほら、よく似合ってるとか」
くるりんこ、とその場で回転してみせるアッシマー。
「もうちょっとなにか……。そうだな……。あざとく見せつけるのをやめてほしい」
「藤間くんはホントにブレませんね!?」
ともあれこれで準備万端。こんどこそと砂浜へ向かうとき、中央広場の時計は午後三時を指していた。
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《採取結果》
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39回
採取LV1→×1.1
↓
42ポイント
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判定→C
オルフェの砂×3
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空きビンを集めにきたといっても、空きビンがそのまま採取できるわけではない。
まず、この『オルフェの砂』ふたつを【錬金】して、ひとつの『オルフェのガラス』にする。
その後『オルフェのガラス』を『オルフェのビン』に【加工】し、ようやくポーションの調合素材、いわゆる空きビンの完成である。
このオルフェのビンだが、じつは5~6カッパーという安価でエシュメルデのアイテムショップに売られている。
リディアはこれまで空きビンをショップで購入していたし、ポーションを調合する人のほとんどが、同じようにアイテムショップの世話になっているらしい。
じゃあなぜわざわざ俺たちが採取をしにこの砂浜まで来ているのかというと、長いスパンでの取引相手になりそうなリディアから、
『採取も錬金も加工も、身の丈にあうものからはじめたほうがいい。そのほうが経験になるし、もうけもでる』
そうアドバイスされ、エペ草よりも簡単な初歩の初歩、オルフェの砂を採取しているというわけなのだ。
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《採取結果》
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44回
採取LV1→×1.1
↓
48ポイント
─────
判定→C
オルフェの砂×3
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「ぐあマジか、B判定とれそうだなこれ」
リディアの言ったことは正しく、たしかにここはエペ草より簡単で、高い判定が出やすい。白い光が大きくてタッチしやすいし、次に光る場所がどことなく予測しやすい。
「藤間くん、わたしはじめてC判定出ましたっ! オルフェの砂みっつですよみっつ!」
スキルには恵まれているものの、あまり採取が得意でないらしいアッシマーですらC判定。やべぇ、抜かれないようにしないと。
「よっ……と。おいアッシマー、こっちの袋はそろそろいっぱいだ。お前はどうだ?」
「ごめんなさい、わたしはもうすこし入りますぅ……」
「べつにお前のペースでいいんだって。あと一回ずつしたら戻るぞ。お前がここで疲れきったらこの後が困るしな」
「あぅ……」
アッシマーにはこのあと、
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『オルフェの砂』×2
錬金 ↓
『オルフェのガラス』
加工 ↓
『オルフェのビン』
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という、なんとなく大変そうな作業が待っているのだ。ここで体力とSPが尽きてしまえば、俺たちは革袋に大量の砂を詰め込んだまま動けなくなる。それだけはどうしても避けたかった。
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《革袋1》
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オルフェの砂×30
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《革袋2》
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オルフェの砂×30
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「……」
「ご、ごめんなさい、藤間くん、荷物を持ってもらってしまって……」
ふたつの革袋には、ぎっしりと砂が詰まっている。
当然のように重く、アッシマーだって持てないことはないのだが、顔を真っ赤にして「ふぎぎぎぎ……!」と唸るほどキツそうだったので、なんとか俺がふたつの革袋を持ち、どうにか宿屋へ帰ってきたのだ。
「大丈夫だっつの……いてて……」
強がったはいいが、さすがに限界だ。ベッドの上にうつ伏せになる。
「あっだめですよぅ、靴を脱がないと……よいしょ、よいしょ……」
「ぐあ……」
アッシマーに靴を脱がされるという屈辱を味わいながら、それに逆らうほどの力も残っていなかった。くっそ、腰が痛ぇ……!
採取は光る地面をタッチするという性質のため、作業は地面に
「くっそ、
「あんな重い荷物を持ったら誰だってこうなりますよぅ……」
心配そうな声。くそっ、アッシマーの体力とSPを減らすまいと無茶しすぎた……!
……と。
ギシリ、と硬いスプリングが軋んだ。
太ももから腰にかけて、柔らかな重み。
「え、ちょっ、おい、お前なにしてんの」
なんだこれ、うつ伏せで寝る俺の上に、アッシマーが
「じっとしててください……」
うおおおお怖い怖い怖い怖い!
なにすんの俺いったいなにされるの!?
毒ばっかり吐いてたから殺されるの!?
ファンタジー世界だから殺されるのはしょうがないとしても、せめて戦闘で殺して!
ぐっ……ぐっ……ぐっ……。
俺の不安をよそに、背中に添えられた両手は、柔らかで優しい重みをかけてくる。
「うおっ……! くっ、おい、マジかよ、あっ、ああっ……!」
マッサージだ。
うっ、お、や、やばい、気持ち、いいっ……!
「藤間くん、お疲れさまの身体してますよぅ……? こことかすごく張ってます」
「あっ、あっ、もういい、もういいって、ああっ、声出るから、ああっ……! 恥ずいからっ」
俺の悲鳴を伴って、アッシマーの両手は背中から腰へゆっくりと移動してゆく。
「ぐっ……! ふっ……! ふぅっ……! あっこら、尻はいいって、このスケベ、あっ、ああっ……!」
「腰が悪い人はお尻がこるんですよっ。ここかっ、ここがええのんかっ」
「急にキャラブレんなっつの……! ぐあ、でもっ、たしかにっ、きもち、いいっ……!」
「ふっ……ふふっ……。あの藤間くんがわたしの手で
「いやちょっと待って! 急に怖くなるのマジやめて!?」
10分そこいら肩、背中、腰、脚を揉みしだかれ、マッサージという労働をしたはずのアッシマーよりも俺のほうがなぜか疲れていた。
「やっべぇ……すっげぇ良かった……眠れそう……」
「寝ててもいいですよ? 六十個あるオルフェの砂、まさかここにひっくり返すわけにもいきませんので、すくなくとも錬金で半分減らすまでは革袋が空きませんから」
「んあ……まじか……なあこれ、昼寝したら現実で目覚めるとかないよな……?」
「平気ですっ。夜を越えて寝ちゃったらさすがにそうなっちゃうと思いますけど……。もしよかったら、革袋が空いたら起こしましょうか?」
「おう……頼むわ……」
そうして俺は、優しい
悪い、アッシマー。
初めて錬金するってのに、立ち会ってやれなくて。
その言葉を口にしたのかもわからない。
すっ、と布団を被せられる感覚。
アッシマーが押してくれた身体の後ろ半分だけが、ぽかぽかと温かかった。
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