ゴブリン退治をして、経験値を獲得する

「ん?」


 村人達は当然のように、ゴブリンの襲撃を警戒していた。夜間でも松明を手に持ち、見回りを交代制でしていたのである。黒い影が動いた事に、村人は気づいたのだ。


 ちょうど、そこには家畜を飼っている飼育庫があった。


 ピギイイイイイイイイイイイイイ!


 という、豚の断末魔が聞こえてくる。


「な、なんだ!」


 村人は飼育庫を覗き込む、するとそこには。


 目が光った。蠢く無数のゴブリンがそこにいたのである。


「ゴ、ゴブリンだ! 鐘だ! 鐘を鳴らせ!」


「あ、ああ」

 

 当然のように見張りは複数人で行われていた。手に持っている小鐘が鳴らされる。カランカラン、という甲高い音が響き渡った。


 ◇


「……ん?」


 浅い睡眠を取っていた俺は鐘の音で目を覚ました。恐らくは何かあったのだろう。ゴブリンが現れたのだ。俺は身支度を整え、外へ出向いた。


 ◇


「おお……アトラス殿」


 外に出ると村長がいた。


「村長、ゴブリンが出たんですか?」


「ああ……どうやらそのようじゃ。ゴブリンは家畜を飼っている飼育庫に現れたようじゃ。頼む、アトラス殿。どうか、この村を救ってくれんか」


「当然そのつもりです。その為に冒険者ギルドから派遣されてきたんですから。それより、その飼育庫の場所を教えてくれませんか?」


「ああ……あっちの方じゃ。あの北側にある民家より大きな建物」


 あれか……俺は飼育庫を視認した。


 俺は飼育庫に向かって駆け出す。


 ◇


「ひ、ひぃっ! ……誰か……誰か」


 飼育庫に着くと、数人の村人が尻持ちをついていた。そして、飼育庫から現れてきたのは無数のゴブリン達であった。恐らくは家畜をさらいに来たのであろう。


 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


「う、うわああああああああああああああああああああああああああ!」


 ゴブリンが村人に襲い掛かってきた。


「はあああああああああああああああああああああああああ!」


 俺は<銅の剣>でゴブリンを攻撃する。相手が個体としては弱いゴブリンが相手で良かった。


 LV1で脆弱なステータスをしている俺の攻撃でも、何とかゴブリンを一撃で絶命させる事ができた。


 だが、その事でゴブリンの注意が俺に向かってしまった。


「逃げてください」


 俺は村人達に告げる。


「……しかし」


「良いから、逃げてください。ここは俺に任せて」


「わかった……ありがとう。冒険者の方、恩に着るよ」


 村人達はそそくさと逃げていった。


 俺の目の前に数匹のゴブリンが現れた。さっき、倒した奴を除いて三匹だ。今の俺のLVでは決して侮れる相手ではない。一度に襲い掛かられるとまずい。


 俺は先手を打つ事にした。


「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 俺はゴブリンに斬りかかる。それはもう必死だった。


 ザシュッ!


 斬り裂かれたゴブリンは断末魔をあげ、絶命する。


 よし。上手く行った。だが、そう何もかもが上手くいくわけもなかった。


 俺が攻撃をしていた隙を見計らって、ゴブリンが俺に噛みついてきたのだ。


「うわっ! こ、このっ! こいつっ!」


 俺は何とか、噛みついてきたゴブリンを引きはがした。


 この攻撃で俺のHPは5減って5/10になったのだ。危なかった。村長から古びた防具を貰っていなければ即死だったかもしれない。やはり防具が何もないよりはあった方がいいのは確かだ。


 俺は反撃をする。剣でゴブリンの喉仏を突き刺した。ゴブリンは絶命する。


 これで後、一匹だ。ゴブリンは鋭い爪で俺に襲い掛かってきた。


 俺の剣とゴブリンの爪が交錯する。


 次の瞬間。ゴブリンが鮮血を吹き出し、果てた。


「うっ……」


 俺の肩から血が流れる。やばかった。浅かったが、ゴブリンの攻撃は俺にも当たっていたのだ。俺のHPは1しか残っていない。これ以上ダメージを食らっていたら、本当に死んでいた。


「アトラス殿」


「アトラスさん……」


 しばらくして、俺の事を心配したのか、村長と孫娘のシャーロットが追いかけてきた。


「……酷い傷です。どうか、ポーションを飲んでください」


「ああ……ありがとうございます」


 俺はシャーロットからポーションを受け取った。

 

 ごくごく。俺はポーションを飲み干す。瞬く間にHPが全快していくのを感じた。


 こうして、俺は襲撃してきたゴブリンを打ち払う事が出来たのだ。


「ありがとうございます、アトラス殿。あなた様のおかげで村の危機はひとまず凌げました」


「ありがとうございます。アトラス様」


 俺は二人に感謝される。


「いえ……自分は冒険者として当然の事をしたまでです」


 別に俺は正義の味方ではない。俺はこの村を救いたくて来たわけではないのだ。俺がこの村に来たのは自分の為だ。ゴブリンを倒す事で得る、経験値、それからクエストをクリアする事で手に入る金、それから冒険者としての実績。それだけだ。


 だが、それで村人の役に立てたのなら何よりだろう。


 俺はステータスを確認する。ゴブリン1匹の経験値が5。4匹倒したから、俺は20の経験値を得ていたはずだ。


【アトラス・アルカディア】


天職:竜騎士


Lv :2


HP :15/15


MP :7/7


攻撃力:7


防御力:7


魔法力:2


素早さ:2


【装備】


〈銅の剣〉※攻撃力+5


〈古びた鎧〉※防御力+5


【職業固有スキル】


〈騎竜〉

〈全竜強化〉


【通常スキル】


【所持金】


 0G


レベルが上がっていた。よし。僅かではあるが成長したようだ。これは大きな一歩であった。


 ◇


 依頼を達成した俺は、村長の家で一泊した後、村を後にする事になる。


「それでは村長さん、シャーロットさん、短い間ですがお世話になりました」


 早朝、俺は村を去る事にした。


「待ってください。アトラスさん」


 俺は見送りをしていたシャーロットに呼び止められる。


「どうかしたのですか?」


「よろしければ、受け取ってください。この村の特産品のポーションです」


 シャーロットは俺にポーションを渡してきた。俺は受け取る。


 『ポーション<回復力小>×5を手に入れた』


 俺はポーションをアイテムポーチに入れた。


「ありがとうございます。ありがたく受け取っておきます」


 クエストをクリアした俺は、冒険者ギルドへと戻っていったのだ。


 そこで俺は100Gのクリア報酬を貰い、Eランクの冒険者として格上げされたのだ。


 俺はこうして、冒険者としての日常を過ごしていた。忙しい毎日の中、俺は想いを馳せていた。


 実家に残していた義妹のカレンの事だ。一体、何をしているのだろうか。既に一か月は経過している。カレンもまた15歳の誕生日を迎え、『職業選定の儀』を受けたはずだ。

 カレンがどんな天職を授かったのか、想像を巡らせる。元気でやっているんだろうか。元気でやっているならそれに越した事はないが。


 考えても仕方のない事だ。俺が考えた事で、何もわからないし、何の役にも立たない。


 だが、その時、カレンはカレンで大変な境遇に陥っているとは、その時の俺は知る由もない事であった。










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