第16話
第16話
「やっぱここに来たからには早速ジェットコースターだよな!」
初々しいカップルをよそ目にそんなことを言い出したのは海斗だった。この遊園地の看板と言っても過言でないほど有名なジェットコースターだが早い時間に来たこともあってまだそこまで混んではいないようで、そのことに海斗をはじめとした3人は興奮が覚めないようだ。
だが例外が1人。そう。篠宮夏樹である。何を隠そう彼にとってジェットコースターは嫌いなものランキングだい3位なのだ。ちなみに1位は虫で2位はお化け屋敷だ。
「ま、まだジェットコースターはいいんじゃないかなあ……?」
「はあ!? 何言ってんだよ夏樹! 今乗らないと3時間くらい待たないといけないんだぞ? まだ待ち時間が50分の今のうちに行くしかないだろう!」
夏樹の懇願とも言える提案は海斗によってあっさりと切り捨てられた。
「じゃ、じゃあ僕外で待っててもいい……?」
「それはダメ!」
せめてもと夏樹はこう言ったのだがそれも氷緒によって切り捨てられた。
「夏樹は私と乗りたくないの……?」
最愛の彼女にこのようなことを言われてしまっては断れるはずもなく夏樹は仕方なくジェットコースターの列に並ぶのだった。
✳︎✳︎✳︎
あれから40分ほど過ぎた。夏樹たちはついに乗車する番となっていた。夏樹は目の前のジェットコースターに恐怖を隠せず思わず氷緒の手を握っていた。
「夏樹……なんかごめんね……? そこまで怖がると思っていなかったんだよ。」
徐々に傾くジェットコースターで氷緒はそう謝罪した。しかし恐怖で体が震えて周りが見えていない夏樹には何も消えていなかった。
(お母さん。お父さん。今までありがとうございました。短い人生でしたがそれなりに充実していました。)
夏樹は遺書を書いてこなかったことを激しく後悔しながら地獄の底を覗こうとしていた。
「ひゃっほ〜い! 来るぞ〜!」
海斗は心底楽しそうに両手をあげて落ちる気満々である。
「氷緒……手、離さないでね……?」
一方夏樹はそう言って絶対に離すまいと力強く氷緒の手を握る。氷緒はそんな夏樹にデレる。と間違いなく場違いなことをしていた。
そしてその数秒後、夏樹は地獄の底に落ちていった。
そこからの記憶はないらしい。
大好き同士の片想い〜付き合いだしたら思ってたのと違う(いい意味で)〜 麝香いちご @kasumimoto
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