┗強化魔法-後編
ロイクはザーグベルトと模造刀を構えて向き合っていた。
ザーグベルトとロイクは、お互いに魔法でイメルダとセイラに強化を受けた状態で訓練する事になったのだ。
重さのない先の丸い模造刀は、普段の騎士団で模擬的な戦闘訓練にも使われている。真剣を使っての訓練は危険な為だ。
「せっかくセイラに体を頑丈にする魔法をかけて貰ったんだ。遠慮なく本気で来てくれ、執事君」
ロイクはザーグベルトに挑発的な目線を送りつけられて煽られる。
「そうさせて頂きます。殿下」
それにロイクも睨みつけて応える。ザーグベルトに向かって、ロイクは足を踏み出し木刀を振り下ろした。
ザーグベルトは先程取った昼食の際に、イメルダに向かってロイクではなく自分と一緒にいればいいと進言していた。
――ロイクじゃなくて、僕が守ってあげるよ。セイラと一緒に――
イメルダは不機嫌そうに断っていたが、ロイクはそれを複雑な心中で聞いていた。
ザーグベルトはセイラからイメルダの死の運命について聞いているらしい。怪しいローブの女の存在。そしてロイクが裏切る可能性がある事もセイラは全て話したと言っていた。
ロイクも、セイラの言うイメルダが必ず12月に処刑されるという説明を受けている。
セイラは、何度もイメルダを裏切ったロイクを信用していないようだった。
自分がイメルダお嬢様と上手く強化魔法を使いこなせば、信用は得られるだろうか。
そう奮起してロイクはザーグベルトが大ぶりに剣を横に振った隙を突いて、ザーグベルトの左胴に剣を当てた。
「ぐっ――! ……さすが。やるね」
ザーグベルトはロイクの剣が当たった左側の腹部に手を当て、地面に膝をつく。
どうだ、と言わんばかりにロイクはザーグベルトを見下ろすが、ザーグベルトはロイクを挑発的に見上げて言い放つ。
「でも、イメルダにもう少し優しくしてあげてほしいね」
ロイクはその一言を聞いて、ロイク達の模擬戦中に魔法で力を送っていたイメルダの方を見た。
イメルダはセイラに身体を預けて、苦しそうに肩で呼吸している。
「お嬢さ――」
ロイクがイメルダの具合を確認しようと近づくが、セイラはそのロイクを呼び止めて、冷たく言い放った。
「イメルダから無理矢理力を吸い取ったでしょ? 初めに言ったわよ。お互いに負担の大きい魔法だって」
セイラが言った通り、ロイクは無意識にイメルダから力を吸い上げて、ザーグベルトに一撃を食らわせたようだった。
「申し訳ございません……」
ロイクは、イメルダを気に掛けられなかった事を気落ちしながら謝罪を呟いた。
するとイメルダが、歯を食いしばると勢いよくセイラの胸から起き上がって言った。
「ロイクは悪くないわ。わたくしが弱いからよ! これ以上ロイクを悪く言わないで!」
「お嬢様……庇い立ては結構です、私の不徳の致すところ」
イメルダが怒り出したので、ロイクは宥める。イメルダは優しさのつもりだろう。しかしロイクにとっては、庇われている事が情け無かった。
「何よ! そんな弱気な姿をわたくしに見せるの? わたくしの夫になる者として強くいて!」
イメルダは、意気地を見せる事のないロイクに腹を立てたのか声を荒げて叫んだ。
「夫……ああ、その事についてなんだけど。イメルダ――」
ザーグベルトは、罰が悪そうにイメルダとロイクに「あの事」を告げた。
「――どういうつもり!? 約束が違うわ!」
ザーグベルトからの報告を聞いて、取り乱したイメルダの身体をロイクは抑える。
「離しなさい、ロイク! お前も何か言う事は無いの? わたくし、ザーグベルトの憎たらしい顔を殴りつけないと気がすみません!!」
「ございません。殿下、お嬢様が手を出す前にお早く」
ロイクはザーグベルトが帰ろうとするまで、暴れるイメルダを押さえつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます