◼️外伝 第4話 希望と復讐の誓い(セイラ視点)

 セイラは時を遡り、物語の始まりである廃教会にいた。

 もう何度目だろうか。セイラは初めて時を遡った時から随分と魔法も達者になり、使える魔法の種類も増えた。


 いつもの様に教会の奥にある大穴から、男がやってくる。

 セイラは慣れた手つきで光球を撃って男をバラバラにして殺した。


 セイラは何度か時を遡り分かった事がある。一つ目は、イメルダが死ぬ事以外はこの物語の出来事の内容が大きく変わる事。

 二つ目はイメルダが死ぬ直前や死んだ時に限り、セイラは時を遡る魔法が使える事だ。


 セイラはイメルダが生きられるように色んな方法を試してきた。最初の出会いである、男から暴行されるセイラをイメルダが救うという出来事を無くしてみた。


 セイラがイメルダと仲良くならずに距離を置けば何か変わるかもしれないかと思ったからだ。


 しかし12月になると、イメルダは罪を着せられて投獄され、処刑されてしまう。


 その全てがロイクの裏切りの所為だった。


 セイラは裏切りを阻止する為に何度かロイクを殺害した。セイラはその悲惨な光景を思い出す。


「ロイク……っ、ロイク……どうして! なぜ死んでしまったの? わたくしはこれから誰に甘えれば良いのですか! 誰に褒めて貰えばいいのですか!」


「イメルダ、ねぇ落ち着いて」


 セイラの呼びかけに少しも反応せず、イメルダは息絶えたロイクの亡骸の前で絶叫している。その顔は涙で酷く乱れていた。


「うわああああぁ! もう嫌、虐められるのは嫌! 家のために好きでもない人と結婚するのは嫌! ロイクがいたから頑張っていたのに! 何故、わたくしが何をしたというの!」


 イメルダは金切声をあげて、そこまで言い切ると突然無表情になり、静かになった。

 そしてロイクの腰元に差さる剣を鞘から抜くと、剣の先を自分に向けるように持った。


「イメルダ、待って――」


 セイラは駆け寄ってイメルダの自殺を止めようとした。

 だが、イメルダは少しも迷う事なく自分の胸に剣を突き立てた――――


 ある時は、王宮で飼われていた虎を操り、ロイクを襲わせて殺した。


 ある時はザーグベルトの嫉妬心を煽り、ロイクを殺害させた。


 セイラはロイクを色んなシチュエーションで殺したが、必ずイメルダは絶望して自殺をしてしまう。


 セイラは何度もロイクは悪い男だと説得を試みたが、セイラとイメルダが仲違いする原因になるだけで無駄に終わる。


 セイラは時を何度も遡り、移動魔法を使ってイメルダとロイクを監視し続けた。

 ロイクに怪しい行動があれば、イメルダにそれを気がつかせてあげようとセイラは奮闘する。


 だが、物語の終盤に近づくと、王宮から自分へ監視の目が厳しくなり、それが難しくなってしまう。

 魔法は、自分や使用する相手に対する注目が多いと使う事ができないのだ。



 セイラは再び巡ってきたイメルダの処刑のシーンを建物の2階のバルコニーから見つめていた。


「これより、ハワード家長女、イメルダ男爵令嬢を処刑する!」


 ぼろぼろになったイメルダをセイラはもう見たくなくて、これからイメルダを裏切るロイクの方を見た。


 ロイクは虚な目で静かに立っている。その隣に怪しいローブを纏う人物がいた。

 ローブの人物はロイクに向かってずっと何かを囁いている。


「あれ……魔女?」


 何となく直感で、セイラはそう考えた。

魔女らしき人物はロイクに魔法をかけている様に見える。


 ロイクが証人として呼ばれて、イメルダにギロチンが落ちようとする時、魔女は姿を消してしまう。


 待って! セイラはその人物を追おうと無意識に時を止める魔法を使った。


 イメルダの処刑で沢山の注目がある中、魔法を使えた事をセイラは不思議に思った。

 イメルダを助けるために、セイラが処刑の場で時を止めようとした事は何度もあるが、人の注目が多すぎていつもなら失敗するのだ。


 しかし、いつまで時が止まっているのか分からない。急いでセイラは魔女の同行を探る為、人混みを見渡す。


 魔女はどこにいったのだろうか。セイラが探しても、黒のローブを羽織った目立つ姿はどこにもいなかった。移動魔法を使ったのだろうか。


 そろそろ時が動き出すだろう。セイラが諦めて時を遡ろうとした時、イメルダとロイクが話している声が聞こえた。


「ついにわたくしの力が覚醒してしまったようね」


 セイラがギロチンの辺りを再び見ると、イメルダの聖女の血が目覚めた事をイメルダが話していた。


 セイラは今までになかった出来事に息を呑む。

 もしや、沢山の人の注目がある中で時を止められたのは、イメルダとセイラが同時に時を止めたからだろうか。


 セイラはイメルダと魔法を発動した事で、魔法の効力が強くなった事に驚いていた。


 そして今の状況で、セイラは期待感に溢れてくる。

 ロイクとイメルダの二人の記憶を引き継いで時を遡れば、今度こそイメルダは助かるかもしれない。


 セイラはバルコニーの上からイメルダのギロチンめがけて光球を撃ち、イメルダを拘束から解放した。


「ロイク、もう一度チャンスをあげるわ。今度は、ちゃんとわたくしの忠実な執事でいるのですよ?」


 イメルダがそう言うと、イメルダから黒い煙のようなオーラが出てきた。ロイクとイメルダはそのオーラに飲み込まれていく。


 イメルダの口振りから、時を遡る魔法だろうとセイラは感じとる。

 セイラは移動魔法を使い、その黒いオーラの近くに移動した。


 今度こそ、イメルダを助けてみせる……。そしてロイクの裏切りを知っていれば、イメルダだってロイクが死んでも納得する筈だもの。


 それに、あのローブの人物。あいつも調べ上げて――殺してやる!


 セイラは心に再び闘志を燃やして、イメルダの出した黒いオーラに飛び込んだ。

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