第23話 大きな扉の先に待つ者-前編

 ロイクは襲いかかってくる男達を斬り捨てていく。

 ザーグベルトもまた、華麗なステップを踏みながら剣で相手を倒していた。


 しかしロイクとザーグベルトが何人倒しても、倉庫の奥から男達は出てくる。際限のない戦いに2人は額から汗を滲ませ、神経をすり減らして疲弊していた。


 イメルダお嬢様はご無事だろうか。お一人でカリンと向かわせてよかったのだろうか。


 ロイクは、先程からイメルダの無事が分からず剣に集中できていなかった。目の前に男二人が剣で襲い掛かって来たのを、ロイクは何とか自分の剣で打ち返して応戦する。


 突然ロイクは左腕が焼ける様な痛みを感じた時、腕から血が滴ったのを自覚した。

 2人がかりで襲ってきた男の1人を倒した後、隙を突かれてもう一人に斬りつけられたのだ。


「執事君! 集中したまえ! そんな事では死んでしまうぞ」


自分より少し倉庫の奥側にいるザーグベルトに鼓舞され、ロイクは剣を構え直し、斬りつけてきた男の腹部を刺して倒した。


「殿下、申し訳ありません!」


 ロイクはザーグベルトに叫んで返事をした。自分の目の前に敵がいなくなった事を確認したので、ロイクはザーグベルトの様子を確認しようと見ると、ロイクは慌てた。


ザーグベルトに背後からそっと剣を構えて近づく男がいる。


「殿下!」


 慌ててロイクはザーグベルトを呼びかけて、ザーグベルトと男との間に入った。


 ザーグベルトに不意打ちを食らわせようとしていた男の剣をロイクは弾くが、男はニヤリと笑う。


 その瞬間、ロイクは脇腹に太い丸太が当たったような激痛を感じた。

 ロイクは男に乱暴に蹴り付けられて床に倒れ込んでいた。


「かはっ……ぐっ……」


 ロイクは衝撃で呼吸が出来ず、えずく。

 急いで顔を上げると、先程の男が剣でロイクを斬りつけようとしていた。

 男の後ろにも沢山の敵がいる。


お嬢様、申し訳ございません。私はここまでの様です――。


 男の剣がロイクに近づいてくる。 こんな時にロイクはイメルダと修道院で交わそうとした口付けの事を思い出した。


 頬をピンクの薔薇の花びらの様に染める姿が愛らしい。

 目を閉じれば長いまつ毛がお顔にかかる。自分が今まで見た中で一番美しい女性――イメルダお嬢様。


 お嬢様の細すぎる腰に、自分は腕を不器用に回して、許されない身分差を考えながらその顔に近づいた。


 ここで死ぬのなら、身分の事など考えずに、誰に見られようとも気にせずに。

愛する人へ口付けをしておけばよかった――。


「――ロイク!!」


 愛しいイメルダお嬢様のお声がして、ロイクは回想から我に返る。


 それと同時に目の前に突きつけられた剣は白い光に包まれて音もなく壊れて消えた。

 ロイクの目の前の剣だけではない。

 他の男達が持っている剣は全て砕けて消えている。


「これは……一体」


 ロイクが唖然としていると、男達は目の前で起こった光景に恐怖したのか青ざめた顔でガタガタと震えていた。


「何だ。これは……」

「助けて、死にたくない!」

「武器が目の前で消えた、魔女だ! こいつも魔女だ!」


 そう口々にしながら、男達は一斉に倉庫の外へと逃げていった。


「イメルダ、カリン……助かったよ。ロイクも、僕を庇わせてすまない」


 息切れしながら顔から滝のように汗を流しているザーグベルトは言った。


 ロイクはザーグベルトの視線の先を向く。その近くに扉があり、その前にイメルダとカリンが手を繋いで立っていた。


「二人とも、生きていますわね。わたくし達の魔法が上手くいって本当によかった」


 イメルダはロイクの顔を見て安心した様に微笑む。


「おねーさんのおかげで初めて壊す魔法が上手に使えた!」


 カリンはイメルダから手を放して嬉しそうに飛び跳ねた。


「この子達、きちんと救出しましたわ」


 イメルダがそう言ったのを聞き、ロイクはイメルダとカリンの後ろに沢山の子供達がいる事に気がついた。


「よし、子供達は僕が騎士団に連れて行くよ。君達も一緒に……」


 ザーグベルトが話していると、ドォン! と突然爆音のような音が倉庫の奥から聞こえてきた。


 それを聞いて、イメルダは倉庫の奥を見ながら呟く。


「セイラ……か、どうかは分かりませんが。犯人はまだこの奥にいるのではなくて? 逃げる前に捕まえなくては」


 そう言ってイメルダは今いる部屋の奥にある一際大きな扉に向かって行った。


「お待ちくださいお嬢様! ……殿下、申し訳ありませんが子供達を頼みます」


 ザーグベルトにそう言うと、ロイクはイメルダを追った。


 子供の誘拐事件は、時を遡る前はイメルダが起こした事件だとロイクは記憶していた。だが、イメルダの行動を見ればそれは自分の記憶違いだと分かる。


 誰かが自分にイメルダお嬢様を裏切らせたのだ。その犯人が、きっと扉の奥にいるはずだとロイクは思った。


 大きな扉の前にイメルダとロイクは立つ。


 扉の奥に待つのはセイラか? それとも――

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