┗大きな扉の先に待つ者-後編(イメルダ視点)

 イメルダとロイクは倉庫の奥にある、白い塗料が塗られた鉄製の大きな扉の前に立っていた。

 扉の奥からは、何者かが暴れているのか物が壊れたりする音がしている。


「ロイク、怪我は大丈夫ですか?」


 斬りつけられたロイクの腕を見て、イメルダは心配になり話しかけた。


「かすり傷ですよ。それよりも、この先にどの様な危険があるか分かりません。一層気を付けて参りましょう」


ロイクはイメルダに返事をして扉を睨みつけた。イメルダも扉を見据えて、近づく。


「ええ。わたくしを陥れた者がきっと待っているはず」


 イメルダとロイクは大きな扉の取手を片方ずつ持ち、横に引いた。


 扉の中が見えた。その中はとても広く、ちょっとしたスポーツ競技ならば出来そうだ。

 天井は高く、照明は壁についていて薄暗いが、扉の中の一番奥から外が見えてそこから光が入っていた。

 床は木製の板張りだが、彼方此方に穴が空いて建物の基礎がむき出しになっている。


 そして先程から聞こえる爆発音のような正体はそこで暴れていた。

 イメルダとロイクはそれを見て驚く。

 扉の先にはローブをした女とセイラが光球を撃ち合って戦っていたからだ。


「死ねっ! 死ねぇ!! あんたを殺すために私は来たのよ!」


 セイラは走りながらそう叫んで、手のひらから白い光球をローブの女に撃った。


 高速で放たれた光球をローブの女は空中にふわりと浮いてかわす。

 ローブの女はくっくっと、喉を鳴らして笑った。

 そしてセイラに向かって真っ黒な炎の塊の様に揺らぐ火球を連続で撃って反撃する。


「聖女魔法! 硬化盾防御!」


 セイラはそう叫ぶと、透明なガラスの板が何枚も重なったような壁を自分の周りに展開した。

黒い火球はその壁に当たって幾つかは焼失したが、次第に壁がひび割れて火球がセイラに直撃した。


「きゃああ!」


 セイラは衝撃で吹っ飛び、床に倒れてそのまま後ろに引きずられる。


 イメルダは、それを見て思わず叫びながら駆け出した。


「セイラ!」


 セイラは身体中に擦り傷があり、着ている服も破けて酷く汚れていた。イメルダが手も足も出ない力の持ち主であるセイラ。それがこんなにも、ぼろぼろになっているとは。あのローブの女はセイラ以上の魔法の使い手なのだろうか。


 イメルダは、セイラの手を取りゆっくりと体を起こさせる。


 セイラは、イメルダの顔を見ると信じられない、と呟いた後立ち上がった。そして顔をしかめてイメルダに文句をまくしたてた。


「イメルダ……? あんた、なんでここにいるのよ……自分から死にに来てんじゃないわよ! あたしが何回やり直しても、あんたがそんなんじゃ駄目なのに!」


 イメルダも立ち上がる。イメルダはセイラがなぜ自分に怒っているのかよく分からず、呆気にとられてしまった。

 しかし、ローブの女に向かってロイクが剣で戦い始めたのを見て意識がそちらに行った。


 ローブの女は手から黒い火球をロイクに向けて撃つ。


 イメルダはそれを見て、先程カリンが行った剣が音もなく破壊される光景を思い出す。

 あれが当たればロイクもそうなってしまうのではないか。


 イメルダは思わず口に手を当て、身体を震わせてロイクの死という最悪のイメージを頭に浮かべた。


「聖女魔法! ……っとに。あの執事にも私、ムカついてんだから! 二人で家に大人しくいろってのよ、バーカ!」


 しかし、瞬時にセイラが魔法を使いロイクの周りに先程と同じように透明なガラスの板が重なった、防御魔法を使った。

 ロイクの周りにドーム型の防御壁が現れ、壁が黒い火球からロイクを守る。


「ロイク! あんた、下がっていて! あの女は聖女様がぶち殺してやるから」


 そう言い放つとセイラはローブの女に向かって行こうとしたので、イメルダはその手を掴んだ。


「待って! わたくしも一緒に。手を繋ぐ事で、貴方の魔法を強化出来るかもしれません」


ぼろぼろになりながら戦うセイラを見て、イメルダは協力を願い出る。


 自分の魔法は力が弱く、役に立たない物だ。しかし、先程カリンと協力して強力な魔法が発動した。自分の魔法の使い道は、誰かの補助に適しているのではないかとイメル考えていた。


「イメルダ……そんな事、できるの? まぁ、今はやってみるしかないわね」


 イメルダとセイラは手をつなぐ。憎んでいたセイラと手を繋ぐなんて、何だかこそばゆいとイメルダは感じた。


「…………」


 ローブの女は一言も発さず、空中に浮いたままイメルダ達の出方を伺っているように見えた。


「ロイクは危ないから、早く私達の後ろに来て」


 セイラに再度避難を促され、ロイクはそれに従い部屋の中央から移動した。ロイクとイメルダが入って来た方の扉の近くにいるイメルダとセイラの後ろにロイクは立つ。


 すると、今まで静かに様子を見ていたローブの女は、手を前にかざす大勢を取った。

 また黒い火球を撃ってくるのだろうとイメルダは身構える。


「イメルダ、さっき言った様に私に力を送って。でかいので撃ち返してやるんだから」


 セイラは勇ましくローブの女を睨みつけると、セイラも腕を伸ばして手のひらをローブの女に向けた。


 イメルダは目を閉じて集中する。イメルダの中に温かい空気が身体を通り抜ける様な感覚がした。

 セイラと繋いだ手を握りしめて、イメルダはセイラに魔力が届く様に祈る。


「あっ……熱い……!」


 セイラの驚くような声でイメルダは目を開けた。隣にいるセイラの横顔をイメルダが見ると、なぜか嬉しそうに笑っていた。


 ローブの女は黒い火球をイメルダ達に向けて撃ってくる。

 セイラもそれを見て、髪をはためかせながら真っ白な光球を撃って反撃した。


 今撃った光球は、先程セイラが撃っていた手のひらに乗るくらいの大きさよりも、はるかに巨大なものだった。


 巨大な光球は、ローブの女が放った黒い火球を打ち消していく。


 イメルダはその光景を見て、自分の復讐がもうすぐ終わる事を期待する。


 ローブの女にセイラの光球が当たると思われた瞬間――。

 イメルダは視界の角度ががくんと変わり、握っていたセイラの手を離す。


「お嬢様!」


 突然ロイクが叫んだかと思うと、イメルダの肩を持って支えた。


 イメルダの視界はどんどんぼやけ、やがて真っ暗になりイメルダは意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る