第22話 救出(イメルダ視点)-前編
「カリン! よかった、無事でしたのね」
「うん、魔法で抜け出してきたの」
イメルダは、小さな声で返事をしたカリンの姿を見て安堵して駆け寄った。そんなイメルダにザーグベルトが声をかける。
「本当に良かった。とりあえずこの場所に何かあると分かった。ここは僕たちだけじゃ危険だ。セイラの事は一旦考えずに早く引き上げて、すぐに騎士団に報告に行こう」
「ダメ!」
だがカリンはザーグベルトの提案を否定した。
「違う部屋に、牢屋に入れられて捕まっている子がいるの。修道院の友達も……。カリンが牢屋に入れられた後、こいつらは役に立ちそうに無いから早く殺せってローブの女の人が言ってた!」
それを聞いて、イメルダは目を見開いた。
子供達を殺す、ですって? 自分に非がなく殺される辛さをイメルダは身をもって知っている。この様な非道を許すわけにはいかない。
「カリン、分かりましたわ。すぐに助けに行きましょう」
イメルダの言葉にカリンは堪えていたのか涙を溢して、ありがとうと返事をする。
イメルダは剣をしまうと、ハンカチを取り出してその涙を拭った。
「それではカリンさん、直ぐに案内を……」
ロイクがそう口に出した時、イメルダは沢山の足音が近づいてくるのが聞こえた。
「まずい! また人がやってきたみたいだ」
ザーグベルトはそう言って剣を構えた。
イメルダ達の今いる部屋の奥から、ぞろぞろと凶器を構えた男達が現れる。
イメルダは、再び涙を溢すカリンに優しく聞いた。
「カリン、みんなが捕まっている部屋はどちら?」
イメルダの問いかけに、カリンは震えながらラックを指さす。荷物とラックの狭い隙間の奥に、白いドアが見えた。
カリンは背丈が小さい子供。そしてイメルダは細身なので通れそうだが、ロイクとザーグベルトは体格的に無理だろう。
「……わたくしがカリンと子供達の救出に行きますわ」
そうロイクとザーグベルトに伝えると、イメルダはカリンを抱きかかえた。そしてカリンが指さした隙間に押し込む。
イメルダの後ろでは、すでに激しい剣の撃ち合う音がイメルダの耳に聞こえた。
「お嬢様! お気をつけて!」
ロイクの叫びを背中で聴きながら、イメルダも隙間に潜り込む。
イメルダのスカートの裾が錆びた鉄屑に引っ掛かったが、それを破けるのも気にせず引っ張り、無理やりイメルダは通り抜けた。
「女が逃げた!」
そう吠えてイメルダを追って来ようとした男がいたが、ロイクが駆けつけ素早く剣で斬りつけた。男の野太い叫びが聞こえる中、イメルダはロイクとザーグベルトの無事祈る。
「カリン、さぁお友達を助けにいきますわよ」
イメルダは、カリンが頷くのを見ると剣を再び抜く。
そして目の前の白いドアを開けて、カリンと共に走り出した。
ドアの向こうは、先程の広い空間とは違っていくつか部屋の扉が並ぶ廊下になっている。
「そこを右に曲がるの! 一番奥の部屋だよ!」
走りながらカリンは叫んだ。
丁度通路が分かれる所で、イメルダは待ち伏せされていたのか、細身の男と鉢合わせた。
イメルダとカリンは慌てて、足を止める。
「姐さんの命令でガキの始末に来たのによぉ。あんたが来たから仕事増えたじゃねぇかァ」
男は虚な目でイメルダに向かって短剣を振り回してきた。
「カリン! 危ないからわたくしの後ろへ!」
イメルダはそうカリンに叫んだ。そして素早く剣を振り、短剣に当てて弾く。
短剣が男の後ろに弾き飛んだと同時に、イメルダは術を使って相手を操ろうと試みた。
黒い煙が男を包んでそれが消える。
「チッ……お貴族さまが! 剣まで達者とはね! 本当ムカつくンだよぉー!」
しかし男に術はかからない。男はひるまずイメルダに掴みかかってくる。
「無礼者! わたくしに触らないで!」
イメルダは弱々しく男に言い放つ。だが、男は剣を構えたイメルダに全く怯む様子はなかった。
「あれェ……よく見れば、あんたカワイイ顔してンなぁ」
男はそう言うと、イメルダに息をフーッと吹きかけた。
「い、いや……汚らわしい!」
それはイメルダにとって、生理的に受け付けない行動だった。見知らぬ男に肩を捕まれ、イメルダは恐怖で固まってしまう。
先程から焦点が合わない目付きの男は、恐らくローブの女性とやらに操られているのだろうとイメルダは考える。自分よりも能力が上の術者が先に術をかけると、同じ系統の術はかからないのだ。
「おねーさんを離して!」
カリンがそういうと、白い光球が高速で男の顔をかすめた。直後男は顔を苦痛に歪ませて叫ぶ。
「いってぇ!」
その隙をついて、イメルダは男を思いっきり膝で蹴った。その衝撃で男は後ろに倒れ込む。
「ぐぁっ……テメェら、殺す! 殺す殺す殺す!」
男は半狂乱になり、落ちていた短剣を拾うとイメルダに突き立てんと向かってきた。
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