第33話アリス・ローズレイン1
「おまえは、ローズレイン家について知ってるか?」
「いえ、聞き馴染みはありませんが・・・・。そういえば、アリスも、アリス・ローズレインと理事長が呼んでいたような・・・。」
「理事長!?アオ君、理事長と話したの?・・・すごいね!多分今年入学した生徒の中だと、首席の子くらいじゃないかな、理事長と直接対面したの・・・。理事長ってどんな感じだった?」
「そうなんですか・・・それは知りませんでした・・・。独特の雰囲気はありますが、結構話しやすい方でしたよ・・。」
「へえ~、いいなあ~、羨ましいなぁ~。」
アオの発言に興奮気味のライドは、アサギの質問を掻き消して会話に突っ込んできた。
どうやら、学園の理事長アドルフ・ホーエンハイムは、一般の生徒が気軽に話せるような人間ではないようだった。
アオは、クリーム色でウェーブの長髪の男を思い浮かべていた。
アオの中での彼の心象は、生活を支援してくれる一方、神徒であったという過去の経歴から信頼と疑心の両方がせめぎ合ってる、というものだった。
しかし、ライドの羨望の眼差しは理事長に対する憧れなのだと見える。雰囲気もそうだが、理事長を務めるのは並々ならぬ実力の持ち主だとアオの中で数段警戒が増した。
ごほんと、アサギは咳払いするとライドを睨みつけた。話を割って入られたことを気にしているようで、ライドはそれに気づくと、舌を出しながらすっと一歩下がった。
アオとアサギは並びながら廊下を歩く。その後ろをジュウベイ、ボルグ、ライドが続くようにして、5人は第3演習場へと向かっていた。
気を取り直して、アサギは口を開いた。
「話を戻すぞ・・・。この国にはな、貴族ってのがいるんだよ。それも結構な数な・・・。で、その貴族の中でも取り分けでかいのが三つある。三大貴族って呼ばれてるんだがな、ローズレイン家は、その一つなんだよ・・。」
「つまり・・アリスは・・・貴族・・・。」
「そう、それも超大貴族だ。貴族ってだけでなく、ローズレイン家ってのが問題なんだよ・・。」
アサギは貴族の話をすると、大きくため息をついた。言葉の要所に帰属に対する嫌悪を滲ませているのが感じ取れた。
ローズレイン家、アオの知らないアリスの姓。ただのアリスとしての彼女しか知らないアオにとって、ローズレイン家に対する興味を抱かせる。
しかし、アサギがそのローズレイン家を問題であると言う、どうやらアリスの性格、記憶、過去についてはローズレイン家にあるようだ。
「ローズレイン家の説明は・・・誰かに任せるわ。俺だと・・悪口しか出ねえしなぁ。」
「儂もだな。」
「俺は詳しくは知らぬ。」
4人の視線がライドに集まる。やれやれと首を振ると、得意げな表情で一歩前に出た。
「仕方ないなぁ、では、僕がローズレイン家について説明しましょう。
ローズレイン家はアサギ君の言った通り、この国の三大貴族の一角を担う大貴族で、建国当初から絶大な権力と富を握り、今世まで栄華を極めているんだよ。そして、ローズレイン家が貴族たる最大の理由は、聖剣の守護者であるということだね。」
「聖剣の、守護者?・・・聖剣って、あのエスペランザですか?」
アオは聖剣というワードからマリアベルの言葉を思い出していた。勇者が選ばれた聖剣エスペランザは、鍛冶の神と慈愛の神により創造された神々の兵器だ。しかし、それの行方は誰にもわからないということだった。
ライドは、首をかしげて少し考えると、アオの質問を理解したのか閃いたような表情を浮かべた。
「あー!勇者の剣だね!確かにエスペランザも聖剣と呼ばれているけど、ローズレイン家とは関係ないよ。彼らが永年守護してきた聖剣の名は、クラウソラス。別名、洸陽の剣クラウソラス。
その刃は澄んだ水よりも清らかな蒼色の輝きを放ち、あらゆる魔を断ち切る救世の剣。この剣を守護する任を負っているのがローズレイン家で、輝かしい歴史を築いてきたわけだよ。」
説明を終えると、一息着いたライド。4人はライドの知識に賞賛の拍手を送ると、照れるように頭をかいた。
ローズレインは、聖剣の守護者としてこの国の三大貴族たりえている。そのことはアオの中でも理解ができた。
しかし、アリスとローズレインがいったいどう問題なのかわからない。貴族であろうと、アリスはアリスのはずだ。アオのまだ知らない何かが、アリスとローズレイン家の間にはあるのだろうか。
「ローズレイン家については理解できましたが・・・その聖剣は今ローズレイン家のどこかにあるということなのですか?それとも、勇者のように誰かが所有しているのでしょうか。」
「・・・・あー、聖剣はローズレイン家の当主が代々継承している。ただ・・・これは当主だから聖剣を所持してるんじゃなくて、聖剣に選ばれたから当主になってるんだ・・・。」
疲れたライドに代わり再度説明をするアサギは、妙に歯切れが悪く、アオの質問にどこか気まずさを醸し出す。
もしかしたら、これがアリスとローズレイン家の問題にかくぁることなのだと直感したアオは、アサギには悪いと思いつつも、質問を続けた。
「では、今の当主が聖剣の真の守護者ということになるのですか?」
「・・・・・・・・」
アサギは、黙り込む。他の3人も同様に目線を反らした。何かまずいことでも聞いたのか焦るアオに、アサギは真っすぐな目をアオに向けた。
「いいか、アオ。アリスついて話すといった手前、俺はそれを話したくないとも思ってる。なぜなら、今から話す内容でアリスの・・・苦難の道を知ることになるからだ。それは、あいつも語ってほしくないことかもしれない・・・・。それでも、おまえに話すのはな。俺がアオ、おまえを信頼に足る男だと判断したからだ・・・。もしこの事実を知ったうえで、アリスに対する態度が変わるようなら俺はお前を軽蔑するぜ・・。それでも、聞くか?」
アサギの気迫に少し驚き目を見開いたが、すぐにアオも真剣眼差しを向ける。
アオの中でもいつも変わらぬ笑顔の少女がいた。今は、怒った顔や困った顔や悲しそうな顔しか見ていないし、そんな顔を刺せている自分に不甲斐ない想いは尽きない。それでも、アオは諦めない。彼女を笑顔にすることを。アリスがどんな素性だろうと、家柄だろうと、関係ないのだ。
廊下に立ち止まると、アオは口を開く。
「アサギ・・・・。私は、アリスが貴族の令嬢だろうと、記憶を無くそうと、私を一生軽蔑していたとしても、変わらぬ敬愛をアリスに捧げます。」
真摯な瞳で、自分の本心を口にする。何一つ偽りのない言葉は、喉をするりと抜けていった。
アオの心の内を聞けて安心したのか、アサギは頬を緩めた。
「アサギ。話してやれ、アオは何があってもアリスの味方だ。それにどうせすぐにわかることだ。」
「わーってるよ、ただ、まあ、意識確認みたいなもんだよ・・・。へへっ、愚問だったけどな。」
アサギとジュウベイはアオへの信頼と、アリスへの情愛が本物であることを確認し合う。
アサギは、アリスの真実を語る。
「まずな、聖剣の所有者は現当主じゃない・・・。アリスだ。」
「え?」
「そして、アリスは・・・・
これが、アリスの第一の苦難。アオがその意味を問いただすとした矢先、一行は第3演習場に着く。すでに扉の奥から声が響いており、Bクラスの生徒が部屋の中に集まっていた。
まだ、アサギの言葉の意味が理解できないアオは、混乱する思考のまま、Bクラスとの合同演習へと足を踏み入れる。
ここでアオは、アリスの学園での苦難を垣間見ることになる。そして、貴族の実態を。
それは、アリスの性格の変化に大きく関わるものだった。
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