第32話すれ違う二人

 「昨日は、お恥ずかしい所をお見せしました・・・。私は、アオと申します・・・。これから、皆さんと有意義な学園生活を送れればと思います・・。何卒、よろしくお願いします。」


 アオは、教壇の前で一礼すると、クラスの拍手と熱気が歓迎した。どうやら、昨日のパフォーマンスが好評らしく、アオを温かく受け入れてくれた。ただ一人を除いては。

 教室の右端に目を向ける。アリスは窓際一番端に座っていた。アオと目が合うと、少し慌てた表情を見せて、すぐに顔を横に向けてしまった。

 アオは、げんなりと肩を降ろすと、隣から声がかかる。


 「まあ、なんだ、いろいろあったが、季節遅れの転入生のアオ君だ。みんな仲良くしてやれ。」


 再度拍手と歓声の中、アオはレッドの命令のもとアサギの隣の席に座る。アリスの一個前の列であるその席は、左後ろを向くとすぐ彼女の顔が伺えた。相も変わらず、外に向いた顔はアオの方に向けてはくれない。

 先行き不安な現状にため息一つ吐く。すると、アサギが耳元で外に聞こえるか聞こえないかの瀬戸際の音量で囁く。


 「アリスもあんな態度だが、昨日男に抱き着かれてまんざらでもない顔してたんだぜ。」

 「そうなんですか?」


 その声に気づいたアリスは、身を乗り出す勢いでアサギに反発する。


 「ちょ、何言ってんのよ!わ、私は別にそんな顔なんてしてないわよ・・。ただ、驚いたっていうか・・・そう、そうよ気持ち悪かっただけよ!」

 「気持ち・・悪かった・・・ですか・・・。」

 「おまえ、いくら何でも言い過ぎだろう!?」


 アリスは、ストレートな表現を口にした。

 気を落としたアオを見ると、少し言い過ぎたと思う気持ちがあるものの、収まる鞘が無く、行き場を失った羞恥心という刃の納めどころが分からなくなり、あたふたと顔を横に戻した。

 すると、後ろで会話を聞いていた一人が食ってかかる。それは、アリスの右隣に座っていた女子生徒だった。


 「おいおい、あんたらアリスをいじめてんじゃねえよ!」

 

 同じく身を乗り出すと机に脚を乗っけて、けんか腰な態度を取る男勝りな口調の女子生徒。

 彼女の腰あたりまで伸ばした茶色い髪と、前髪で右目が隠れるような形に伸ばしたヘアスタイルが、自由で開放的な雰囲気を出していた。

 そして、一番の特徴は右手が義手であることだった。白銀に光る、荘厳な手甲はいかなる衝撃にも耐えそうな見た目をしていた。手の甲の部分に、色とりどりの小さな玉が埋め込まれてて、光に反射して煌びやかな見た目は、ただの義手ではないことを物語っていた。

 アサギの眉間にしわがよると、挑発的な顔つきに変わる。

 

 「ああ?どこがいじめてんだ、耳に穴開いてんのかおめえ。どう見たって、ダメージ負ったのアオだろうが!」

 

 アサギは、下から睨みつけるように言葉を投げると、二人のバトルが始まった。

 

 「何言ってんだ?女を困らせた時点で男が悪いに決まってんだろうが陰湿鎖野郎が!」

 「誰が陰湿だこの野郎!てか、おまえが女を語るか?足を机に乗せてるような粗暴な奴に寄ってくる男なんていねえよな!?あーあ、誰かこのさっみしい女をもらってやってくださいよぉ?」

 「んだと、てめえ!てめえだって、万年男とばっかり吊るんで女っ気の一つもありゃしねぇじゃねえか!・・・そーうか、わかったぞ、あたしに話しかけてもらえて嬉し恥ずかしで、反発してんだな?初心だねえ、ぷぷぷ。」

 「おめえ・・・・いい加減にしろよ、いっぺんわからせてやろうか!?」

 「おーう、やってみろよ?」


 「あ、あの・・・・・少し・・・落ち着いて・・。」


 アオの声は一切二人の耳には届かず、バチバチと二人の目線がぶつかると、火花が散る。

 クラス中が湧き起こり、”やれやれー!”とか、”ベルー、負けるなー”とか、とにかく煽り文句で大盛り上がりする。

 一触即発かと思ったが、教室前方からの一言が空気を裂いた。


 「おーい、夫婦漫才はその辺にして、ホームルーム終わるぞー。」


 『夫婦じゃねえ!!』


 レッドの言葉に息をピッタリと合わせた声で反論すると、二人のバトルに幕が下りた。

 獣のような唸り声をお互い上げつつも席に座る。

 なんだかんだ、仲が良いのではとアオは思うのだが、口にするのはよそうと思った。また、要らぬ虎の尾を踏みかねないと感じたからだ。

 クラス一同の熱気もレッドの声で鎮静化する。レッドはため息をついて、肩を落とした。


 「ハア、息ピッタリじゃねえか・・・。とりあえず、1時限目は魔術基礎な・・・必須単位だから必ず出るように・・・・って、もういない奴いるんだけど・・・はあ、じゃあホームルーム終了ー。」


 やる気無さげに、ホームルームを終わらせると、教室を後にした。

 そして、レッドが部屋を出るか否かのタイミングで、クラスメイトがアオの周りに集まった。

 昨日のアオのとんでも行動に興味を抱いたのか、質問や勧誘攻めが始まった。


 目をぎらつかせた女子生徒からは。

 「昨日のあれって、どういう意味なのー?やっぱりラブ?ラブなの?」

 「あ・・・いや・・あれは、その・・・。」


 裕福そうな雰囲気の男子生徒からは。

 「生活に入用な物はないかい?あれば、我がゴルド商会を頼ってほしい、アオ殿。」

 「あ、はい、考えておきます・・・・。」

 

 わんぱくそうな女子生徒からは。

 「出身はどこ!?綺麗な髪だね!?もしかして、貴族の出身!?イケメンだねー?アリスとはどんな仲なの?」

 「あ、いやー・・・それはー・・・。」


 言葉のラッシュを空返事で切り抜けるのが精一杯なアオ。そんな、姿を見かねたのか、アリスは席を立つと、部屋の外に歩いていく。

 アオは、その姿を目の端で捉える。


 「ア、アリス!」


 アオは、勢い良く立ち上がると、あふれかえるクラスメイトをかき分けてアリスを追いかけた。

 まだ、質問したりないという声がクラスに上がる中、アサギは何か思いついたように口元を曲げた。


 「まあまあ、みんな落ち着けって。質問なんていつでもできるだろ?それよりも、二人の甘い再会を見守ろうぜ!」

 「ああ、そうだなぁ!あたしらが、アオとアリスをサポートしてやらねえとな!」


 アサギの悪巧みに、先ほどの口論など無かったかのように義手を付けた女子生徒は、賛同する。二人は目を合わせると、忍び足でアオの後ろについて行った。

 クラスの大半もそれに連なって部屋を後にした。

 静まり返るクラスにぽつりと三人が残っていた。ジュウベイとボルグとライドだ。

 ジュウベイは腕を組んでドンと構えると、大きく息を吐いた。


 「まったく・・・さっきまでの喧嘩はなんだったのやら・・・。悪知恵だけはいつも、気が合うんだよなあいつら。」

 「あはは・・・で、でもアオ君がクラスで浮かなくてよかったね!僕の”クラスで浮いちゃったとき対策プラン”を実行しなくてよかったよ。」

 「なんだ、そのプランは・・・・。まあ、確かに、Dクラスに来たのが不幸中の幸いかもしれんな。」


 何だかんだ、アオがクラスに溶け込めたことを内心、喜ぶ三人。

 しかし、顔を合わせると、やはり気になるようで無言でクラスメイトの後を追った。



 長い廊下の角で、アオはアリスを見つけると走って追いかけた。角を曲がったところで、アリスに追い着く。


 「アリス!」


 その声にアリスは前を向いたまま立ち止まる。

 アオは、喉を鳴らした。背中越しでも、アリスがアオに対する警戒心を放つのが分かったからだ。

 かつてのアリスにこんな雰囲気で接せられたことなどなかった。アオは、少し震える身体を無理やりに力を入れて抑え込むと、意を決したように口を開いた。

 

 「アリス・・・昨日はすみませんでした。女性に対してする行動ではありませんでした・・。」

 「別に、もういいわよ・・・。話は終わり?」


 冷たい態度で会話を切られそうになるのを、勇気を振り絞って言葉を掛けようとする。

 とにかく、今のアリスを知ることから始める、それを昨晩の目標としたアオは、話題を切り出そうと考える。


 (今の、アリス、今のアリスを知ることから・・・・・。本当にアリスは私を覚えていないのだろうか、昨日は混乱していただけかもしれない・・・。まずは、それを確認しなくては・・・。)


 「私のことを・・覚えていませんか・・?」

 「だから、知らないって・・・言ってるじゃない・・。」

 「10年前あの森で・・・アリスとアイリスと私の三人で暮らしたあの日々を・・・覚えていませんか?」

 

 「アイリスって・・・何で、お母さんのこと知ってるの?」

 

 アイリスという言葉に驚いたアリスは振り向いた。その目は猜疑心に満たされていたが、アオはアリスがこちらを向いてくれたことに少し安堵した。

 過去の話をしたことで、当初の目的を忘れたアオであった。

 しかし、そんな失態露とも知らず、アオは優しく微笑むと、過去を思い出すように語る。


 「アイリスが、私を家族として迎え入れてくれました。そして、アリス、あなたが私に生きる意味をくれたのです。私たちは幸せな日々を送っていました・・・。でも、ある時私はあなた方の前から姿を消した・・。でも、約束しました。あなたの前に必ず帰ると・・・。だから、私はここにいるのです。

 アリス、だから、私は――」


 「やめて!!」


 アリスは吐き捨てるようにアオの言葉を遮った。そして、頭を押さえるような仕草で体を震わせた。

 アオは、心配で声をかけようと近づくと、アリスは拒絶した。


 「来ないで!!私は・・・私は、あなたの知ってるアリスじゃない!私の記憶にそんな幸せな家族の記憶なんてない!・・・・あなたのことなんて、私は知らない!!」


 「ア、アリ―」


 「もう、私に関わらないで。」


 アオに背を向けると、アリスは足早に去っていく。

 アオは、呆然と立ち尽くす。見る見るうちに体が風化すると、灰のように散っていく。

 

 「あっちゃー、こりゃあ、今日一日ダメかもな・・・。」

 

 そのやり取りを廊下の角から盗み見ていたアサギらクラスメイトは、アオのもとに駆け寄った。

 一連のやり取りで、見てはいけないものを見た気がしたクラスメイトは静かに立ち尽くした。

 アサギは、灰をかき集めながら、アリスの去った方向に目をやった


 「にしても、アリスも何か雰囲気変じゃなかったか?」

 「まあな、流石にこんな拒絶した相手はいないかもな・・・。てか基本、アリスが煙たがられてる場合の方が多いしなぁ・・・・。」


 アサギと、アリスの隣に座っていた女子生徒は、いつもと違うアリスを心配しつつも、アオの記憶はやはりでたらめではないのだと確信した。そして、双方の行き違いに悶々とした感情を浮かべていた。

 アオの灰を集め終わると、クラスに戻る一行。


 廊下の先、アリスは頭を抱えてしゃがみこんでいた。汗を少し垂らすと、切ない声を漏らした。


 「なんなの・・・彼を見てると頭が痛くなる・・・。知らない、あんな人知らない・・・。私の家族は、お母さんだけなんだから・・・・。お母さん、私、頑張るから・・・待っててね・・。」

 

 アリスは暗がりで一人、母親への想いとアオのことで頭を悩ませていた。

 アオが当初目標としていた、現在のアリスを知ることは見事に頭の中からすり抜け、そして完璧に打ちのめされた。しかし、アリスの中で何かが芽生え始めたことは幸か不幸か、今後の行く末い大きく関わることになる。

 二人の中で何かの歯車が動き出そうとしていた。


    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 ルべリア王立魔術学園は自由を校風としているが、最低限必要な授業を受けなければ、卒業できない仕組みになっており、1時限目の魔術基礎の授業はその一つとなっていた。昨日より生徒の数が多いのは、授業をしっかり選んで証であり、また、問題児の多いDクラスにはよくあることのようだ。

 かといって、この授業に出てない生徒も多くいて、そういった生徒にも救済する措置が多く存在するので、才能あるものが卒業できないということは、まずないようだ。

 そもそも、アオは特例で転入してきたが、高等部からの入学や転入は、かなり難易度の試験が用意されているようで、それを合格してなおかつDクラスへのいきなり編入という勘違いが、クラスメイトの関心の的にもなったというわけだ。

 

 アリスは教室に戻ると、色の消えたようなアオを少し、気にしながらも声をかけるようなことはせず、席に座った。

 アオは、意識はあったが心はどこにもない人形のように固まっていた。

 見かねたアサギは、アオの肩を揺らす。

 

 「おい、アオ。授業始まるぞ。気持ちは・・・わかるとは言えないが・・・とにかく今はいったん忘れろ、なっ?」

 

 「・・・・・はい・・・・」


 アサギの提案に空虚な返事をする。アオの気持ちは晴れないが、それでも教壇の方へ意識を向けた。

 すでに、レッドが授業を開始しようと前に立っていた。

 すると、右耳に声が囁かれた。


 「よう、さっきの会話見てたぜ・・。まあ、アリスは、ああは言っちゃいるけどよ、マジじゃねえから、気にすんなよ!それより、おまえがアリスに話す態度見てたらアリスに危害を加えるような奴じゃないって確信したわ。

 アリスの母ちゃんの件もそうだけど、おまえの記憶も本当っぽいしな。とりあえず、あたしはおまえを応援してるから、できることがあったら気軽に言ってくれよな!

 そういや、自己紹介がまだだったな、あたしはベルベット・スタリオン。アリスとは初等部のころからの親友だからよ。これからよろしくな!」


 「は、はい・・・よろしくお願いします。」


 突然後ろからの言葉に驚いたが、それよりもまたもクラスメイトに醜態を晒したと落ち込むアオだった。しかし、思わぬ信頼を得て、怪我の功名であったと少し前向きにもなれた。

 ベルベットは、ジュウベイやアサギと同じでアリスとは初等部からこの学園で過ごしている。アオの知らない10年を知る貴重なクラスメイトなので、学園でのアリスを知る上で重要人物であると考えていたのだ。


 体を横に出して、アオに語り掛けるベルベットの姿は、レッドから丸見えだった。

 

 「おいベルベット。俺の代わりに魔術基礎話してくれるのか?」


 「え、や、やだなー、せんせー。先生の仕事奪っちまったら、先生は何を糧に生きていくんだよー。あたしは、先生を殺したくないよ♪」


 「んなわけねえーだろ、俺の構成成分はもっと多種多様だっての・・・はあ、まったく・・・。」


 呆れたように、ベルベットの冗談を返すと、やる気無さげに教壇に立つ。

 ため息一つ、そして、パンと両手を叩いた。


 「じゃあ、魔術基礎やってくぞー。まあ、アオもいることだし、おさらいも含めて簡単に話すからなー。」


 レッドは、右手を顔の横に上げる。指には紅い宝石のはまった指輪が光る。

 

 「其は人の叡智、炎よ猛れ。火球ファイア


 詠唱を口ずさむと、右の掌に炎の球が出現した。

 アオは、初めて見る炎の魔術に興味を示した。アオの知る魔術は、マリアベルの使っていたものだけだった。結界、重力操作、光線など。思い当たる中でもこれだけ。魔術に関する知識がまだ乏しいアオにとって、目の前の魔術は新鮮そのものだった。

 

 「これは、ごく初歩的な汎用魔術、火球だ。では、これを発動させるためにいったいどういったプロセスがあるでしょうか、わかるやついるかー?」


 右手の炎を拳を握るように消し去ると、質問を投げかけた。

 レッドは、いち早く手を挙げた二人の内、一人を指名した。


 「じゃあ、ライド。答えてみろー。」


 「はい。まず、先生は右手の指輪、もっと言うと指輪に刻印された術式に魔力を流し込み、そして、詠唱と魔術名の発言によって術式発動の補助をしつつ、魔術を発動しました。」


 「あい、せいかーい。よく勉強してるな、流石、魔術基礎ならお前の知識は称賛もんだ。」


 褒められて少し顔を赤くするライド。それを恨めしそうに手を挙げたもう一人が見ていた。

 どうやら、彼女も答えを知っていたようだった。

 

 「えー、ライドの言った通り、詠唱と魔術名の発言はあくまで補助的なものだ・・。つまり、魔術で一番重要なのは、魔力と術式ってことになる・・・。と、思ってるだろ?」


 え?という顔をクラス中がすると、レッドは想像通りだなという具合にニヤっと笑った。

 アオも同じ心境だった。マリアベルが言うには、魔術には魔力と術式が不可欠である。つまり、その二つが一番の根幹をなしているのだ。

 しかし、レッドの含みのある言い方は、そうではないと言ってるように聞こえた。

 

 レッドは、指輪を外すとポケットにしまう。

 そして、同じように手を顔の横にもってきた。


 「魔術には魔力と術式が不可欠。そう思うよな?・・・だがな、それは大きな勘違いだ。単に魔術を発動させるなら、魔力だけで十分なんだよなー。こんな風にな!」 


 レッドの右手に炎が宿る。術式も詠唱も無しで、魔術を発動させた。

 殺気の炎に比べると、綺麗な球体ではなかったが、炎は確かに生み出された。

 レッドは、その後、気持ち悪そうに手を払うと、炎は空中に四散した。

 

 クラスが唖然とする中、ライドが声を漏らした。


 「そんな、ありえない・・・。術式無しで魔術を発動させるなんて・・・。」

 

 「確かに、いろんな学術書や教本には術式の絶対性を語ってる。北の大国で名を馳せたマリアベル・フォーリアもそう言っていた。」


 アオは、マリアベルという言葉に反応する。彼女の名が学園の授業で出るほど有名だとは、驚きと嬉しさが同居した。

 レッドは、説明を続ける。


 「だがな、魔術を発動させるのに術式なんて必要ないだよ。一番必要なもの、それは―」


 一つ間を置く、そして口を開いた。


 「想像力だ。」


 「想像力~?」


 クラスの感情をアサギが代弁した。アオは口を開けてレッドを見た。

 想像力が唯一の発動条件なら、それはもはや神聖術と何の違いがあるのだろうか。

 アオの中で、疑問がまた増える。


 クラスの反応に楽しそうなレッドは、意気揚々と説明する。こんなにやる気のある教師だっただろうかと目を疑うほどだ。


 「そうだ、イメージをそのまま魔力に乗せれば、魔術は発動する。ただ、これマネはするなよ?

 とても実践で使えるレベルじゃないからな・・。ただ、この事実は魔術を探求する者なら誰でも行きつく真理だ。

 どうして、術が発動するのかまだ、解明されていないが・・・・おまえたちの中で解明できる奴がいたらおもしろいかもなー。

 まあ、理論上の話を知ってれば、魔術の構成を考える上で役に立つだろう。

 イメージってのは、術式開発にも必要な要素だしなー。基礎を理解して、自分の魔術の鍛練に生かしてくれたまえ。」


 ”キーンコーンカーンコーン”


 タイミング良くチャイムが鳴った。

 気づけばアオは、レッドの授業に食い気味で聞いていた。

 マリアベルとは違う意味で、魔術の根幹を探求している者なのだと、尊敬の念を抱いた。

 やる気の無い態度で縫われた衣の下に、底知れない知識の海が広がっていると、アオは感じていた。

 まだまだ、疑問は残るが、授業はここで終わってしまった。

 

 「ほい。今日はここまでなー。次は、Bクラスと合同演習だからなー。第3演習場なー。必修じゃないけど、できるだけ来いよぉ。」


 レッドの発言に、ブーイングの嵐。クラスはBクラスとの合同演習を嫌っているようだった。

 アオは、首をかしげてアサギの方を向く。

 アサギも嫌そうな顔をしてこちらを向いた。


 「Bクラスはな、嫌な連中ばかりなんだよ・・・・。まあ、不服だけど、おまえがアリスの現状を知る上ではいいタイミングだけどな・・・。」


 「それは、いったい、どういう―」

 「ちょ、アリス、待てよぉ~。一緒に行こうぜー。」


 アオの言葉をベルベットの言葉が遮ると、アリスは足早に外に出て行った。


 アオは、その姿を目で追いながら、次の授業でアリスを知れることへの興味と、アサギの複雑そうな態度に気がかりを覚えつつも、Bクラスの合同演習へと向かうのだった。

 この時アオは、アリスの壮絶な境遇を見ることになるとは、思いもしなかったのだ。

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