第25話その夜は喧騒の中で

 レイヴェルト王国最南の街、サウストリア。近隣の村や町の中では一番大きく盛んなこの街は、建物同士が無造作に寄せ集めってできたような外観をしていて、とにかく人口が増えるにつれ、その居住区を増やしてきたことが伺える構造になっていた。

 ゆえに、街を囲う敷居や防壁は存在せず、南と北を結ぶ大きな街道以外にも街に進入することは容易な造りになっていた。

 アオがここを初めて来たときから、10年経ったことで家々も増えて、この国の南方の流通を支える要所となっていた。


 森を抜け、少しの間草原を歩くと、すぐに街に着いた。

 街を縦断する太い道を添うように様々な店が並び立つ。八百屋、肉屋、食事処、酒場、雑貨屋、武具屋など、この街で暮らすのに必要な物資流通は完備されていた。

 

 マリアベルは、なんの躊躇いもない足取りで、街の中央に歩く。

 そして二人は、開けた場所に着いた。円状に展開されたその場所は、人々が多く集まり街の中で一番の賑わいを見せる広場になっていた。円形の道に沿うように、これまで見た建物とは比べるまでもないほど、大きな建物が並んでいた。

 広場の中心には噴水が設置されていて、プシュッと定期的に水を放出すると、夕方の陽光が、絢爛なガラス細工のように反射した。

 噴水の中央に、細長い白い塔が空高く貫いていた。その塔だけ何故か異様で、街には溶け込んでいなかった。

 

 アオは、その塔が街に入る時から目に入っていたので、ずっと気になっていた。

 ふと、眼を凝らして天を見る。すると、薄青色の結界が塔の先端を中心に広がっていた。透視は使えないので、全貌まではわからないが、おそらく街全体を囲うように結界が展開されていた。



 「マリアベル、この街にあなたのとは違う結界が、張られているようですが・・・あれは、どのようなものなのですか?」


 「あー、あれは魔除けの結界よ。あれのおかげで、魔獣の侵入を防いでいるのよ。ほら、森も近しね。そいで、私のは、固有術式よ。そして、この結界は汎用術式。魔除け以外の効果は全くないわ・・・。ま、私のは魔除けに加えて防御の効果も兼ね備えたスーパーな結界だけどね!」


 「そ、そうでしたか。流石はマリアベルですね・・・、ハハッ・・・。」


 アオは聞いてもいない自慢話を追加されて、作り笑いと咄嗟のお世辞で返した。

 そして、アオの中で合点がいった。

 アリスといた時は精霊の加護によって、魔獣を寄せ付けなったこともあり、つい見落としていたが、アオたちが森で生活できたのは、マリアベルの結界のおかげだったのだと理解した。

 アオは、眼前で胸を張る女性に改めて敬意を持った。


 マリアベルは街の中でも一際大きな建物を素通りすると、その隣の店に足を運ぶ。

 外からも声が漏れるほどに、中では人が大騒ぎして盛り上がっていた。

 建物の入り口には”サウス・ハーベスト”と、大陸語で書かれていた。

 どうやら、ここは酒場であり、アオは、街に入って一番の目的は王都への旅支度だと思っていたので、まさか酒を飲むためにここまで歩いてきたのかと思うと、すっかり肩を落とした。


 マリアベルは、躊躇なく扉を開ける。そこには、丸いテーブルとイスがいくつも並べられており、一番奥にはカウンターが配置してあった。内装は木造で様式も古い感じではあったが、独特な懐かしさを感じさせる雰囲気に包まれていた。壁には、魔獣の骨や角が飾られていたり、剣や盾といった武器までたてかけられていた。

 まだ、陽が完全に落ち切ってない時間帯だというのに、酒場では人々で賑わっていた。

 客層は、男性が多く、皆屈強な体つきの者ばかりであった。皮鎧などを着飾り、腕や顔には傷跡などが見える。イスの近くにそれぞれの武器を置くと、その者たちは、商人や農家といった面持ちではなかった。


 (戦士・・・なのか?)


 そんな疑問を抱きつつ、アオはマリアベルの後ろから店に入る。

 すると、客が二人の来店に気づくと一斉にこちらを向いて黙り込んだ。シーンと静まり返る店内。

 今までの喧騒はどこへいったのかと、アオの額に汗が滲む。


 一人の男が、テーブルにドンッ、とジョッキを勢いよく置いた。

 一触即発か、そう思ったアオの考えは杞憂に終わった。

 男はニマっと、笑みを顔に広げた。


 「よお!嬢ちゃん!久しぶりだなあ!」


 「あんたもね・・・。」

 

 その声を皮切りにマリアベルに一気に声が降りかかる。


 「嬢ちゃん、また研究とかのに、失敗してやけ酒かい?」


 「またって、何よ!?違うわよ、今回はそういうのじゃないの!」


 「なんだい、嬢ちゃん!二枚目な兄ちゃん連れて、遂に嬢ちゃんにも春が・・・・。ぐすっ、俺は安心したぜぇ!」


 「ば、馬鹿じゃないの!?こいつは、そんなんじゃないんだから!」


 店内が一気に歓迎ムードになると、歓声と笑いで空気を満たした。

 マリアベルは、まったく、と言いつつ顔を少し赤くしながら席に着いた。

 アオは、あたりをキョロキョロ見る。みんな、マリアベルのことを親しそうに”嬢ちゃん”と呼んでは、盛り上がっていた。


 「なんだか、すごい歓迎ぶりですね。マリアベルの知合いですか?なんか、あなたとは、毛色が違うようですが・・・。」


 「ええ、まあ・・そうよ。たまに飲みに来たらいつのまにか、顔を覚えられたのよ。

 まあ、私と違うって言ったら、その通りよ。こいつら、みんなギルド所属の冒険者なの。」


 「え、ギルド?冒険者?なんですかそれ?」

 

 しかし、アオの質問とかぶさるように隣から声が飛び込む。

 

 「え、たまにぃ?一時は、毎日来てたじゃねえかよぉ?」


 「ちょ、うっさいわね!!あっち行ってなさいよ!」


 マリアベルは手をパタパタさせて、追い払うと声をかけた男は、ケタケタと笑いながら向こうの席に去っていった。

 マリアベルが恥ずかしそうに顔を赤くしている。

 アオは、彼女が否定しなかったのだということは、そういうことかと理解して、少し苦笑いした。

 

 「ま、まあ、とにかく、今日は飲んで、食べて、半年間の修業の疲れと、明日の英気を養うわよ!あんた、何飲む?私は、当然エール一択よ!」


 「え、じゃ、じゃあ、何か爽やかな飲み物をお願いします。」


 「じゃあ、柑橘系のジュースかしらね・・・・よしっ!!。マスター!!エール1つと、レモンソーダ1つ!

 後は、テキトーにおススメよろしくぅ!」


 「はいよぉ!」


 マリアベルの、取り留めのないような注文をカウンターの奥にいたマスターと呼ばれる店主が応答した。

 やけに、テンション高めのマリアベルは、鼻歌を交えながら酒を待つ。

 アオは、流れに乗せられてジュースを頼んだが、悶々とする不安が残っていた。


 「それよりも、明日の準備とかしなくていいんですか?馬車とか、食料とか。」


 「あー、それなら大丈夫よ。馬車はギルドが貸してくれるし、食料はー、まあ、何とかなるわよ。」


 「それです!ギルドって何ですか?!」


 先ほどの質問を遮られたこともあり食い気味で、アオは聞く。周囲の騒ぎにかき消されないようにと、声が大きくなってしまった。

 マリアベルは、うるさいという風に耳を塞ぐ仕草で反応した。


 「そんな、大きな声出さなくても聞こえてるわよ・・・・。あー、ギルドも知らないのね・・・・。えっとね、街には結界があるから余程のことがない限り魔獣は入ってこないけど、街道とかには結構魔獣がいたりするのよ。そういうのを倒して、謝礼金とかで生計を立てる者を冒険者って呼ぶのよ。

 それで、ギルドってのがその仕事を冒険者に斡旋しているってわけ。ここにいるやつらも、魔獣退治の依頼をギルドで受けてるってわけよ。

 ほら、広場にあった一際でかい建物あったでしょ?あれが、この街での、ギルドの支部なのよ・・・。

 まあ、他に採取や護衛、未開拓地の探索とかいろいろあるけど、生活圏が安全なのは冒険者のおかげね・・・・。

 ま、あいつらふざけたやつらだけど、仕事はちゃんとやってるってわけよ。って、そろそろ来るわよぉ!!」


 そう言うと、カウンターの奥からたくさんの料理と、飲み物片手にマスターがやってきた。

 マスターは浅黒い肌に少し、垂れ目が特徴的な男前の中年男性だった。

 どかどかっと、料理を並べる。目をキラキラと輝かせるマリアベルは口から涎が零れ落ちそうになっていた。


 「はい、おまちっ!!エールとレモンソーダな・・。それから、輪魚リングフィッシュのソテーに、獅子豚ギガポークの香草焼き、そしてうちの看板メニュー、一角ウサギのシチューだ!!どれも、熱いうちに食ってくれ!」


 「ふぎゃー、待ってましたぁ!!・・・・・あー、ここまで本当に長かったわ・・・・。やっと、ご馳走にありつけるのね・・・。今だけは神様に感謝を・・・・。」


 マリアベルは涙目になりながら祈りを捧げた。

 香ばしい匂いが鼻を通ると、アオも不思議と食欲をそそられた。

 しかし、聞きなれない食材ばかり、いったいどんな動物なのか見当もつかなかった・・・。

 アオが懐疑心に囚われていると、マスターはにやけ面で、マリアベルを見て顎鬚あごひげを触りながら感慨深そうに話しだした。


 「しっかし、あのマリアベルが男を連れてくるとはねぇ・・・・。ここに来ちゃあ、実験が失敗しただの言って飲んだくれてた、あのマリアベルがなぁ・・・・。いやー、めでたいねぇ。」


 「ちょ、だ、だから!こいつは、そんなんじゃないから!!こいつは・・・・そう!!弟子よ!私の弟子なの!!だから、こいつとは、そんな特別な関係じゃないんだからね!!」


 「ほんとかぁ?なーんか、言い訳っぽく聞こえるなぁ・・・・。ま、いいさ、とりあえず楽しんでけな!」


 ひらひらと後ろ向きに手を振ると、半信半疑なままカウンターへと戻っていった。

 マリアベルは、ぐぬぬと、歯を食いしばる。頬を染めながらも、マスターは信じてないだろうなと思いつつ、気を取り直して料理の数々に目をやった。色とりどりの料理が目に移り込むと、食欲が最高点に達した。

 マリアベルはジョッキを持ち上げる。

 そして、その目はお前も持てと言わんばかりに訴えていた。

 渋々、アオはグラスを持つ。


 「さあ、取り合えず飲んで食べて、楽しみましょう!!

 えー、修行完成と今後の無事、そして送別会を込めて・・・乾杯っ!!」


 「か、乾杯っ・・・・・って、送別会ってなんですか!?」


 そんな言葉は尻目に、ぐびぐびとエールが喉を鳴らす。そして、勢いよく、空になったジョッキをテーブルに打ち付けると、至福の表情を浮かべた。


 「かぁーーーー!!!最っ高!!・・・・このために生きてるってもんよねぇ・・・・・・マスター!!エールおかわりー!!」


 「あいよぉ!!」


 飲み物がなくなると、流れ作業のように注文をする。そして、今度は料理に目を向けると、野獣のように食べ始めた。

 アオは、唖然としていたが、ため息一つ吐くと、仕方がなくジュースを口に入れた。

 シュワシュワと炭酸が弾けて口の中でレモンの香りが広がると、爽快感が支配した。先ほどの疑問など頭から吹っ飛んでいた。

 アオが驚きと歓喜の顔を浮かべているのを、マリアベルはニヤニヤとそれを見つめた。


 「どうそれ、美味しいでしょ?この辺で栽培されてるレモンで作ったソーダよ。私も成年するまではそれ飲んでたわねえ・・・・。ふふっ、どう、ここに来て良かったでしょ?」


 「・・・・・・・・ええ、まあ・・・・・」


 不覚にも満足感を覚えるアオは、顔を染めながら、気まずそうに答えた。得意げになる彼女はどこか腹立たしかったが、こんな日もありかと思うアオだった。

 

 夜が深まると、店の中の客がどんどん増えていき、その度にマリアベルに声をかけていく。返事をめんどくさそうにしていたが、久しぶりの来店でマリアベル本人も満更でない様子だった。

 空気の温度が上がるように、どんちゃん騒ぎとなっていった。

 

 空のジョッキが増えると、アオが心配そうにマリアベルを見る。

 すでに、顔は紅くトマトを彷彿とさせる顔になっていて、気持ちよさげだが、ふわふわと視点が揺れていた。

 


 「だ、大丈夫ですか?ちょっと、飲みすぎでは?」


 「だーいじょーぶよー。あんたは、ほんとーに、心配性ねー?そんなんじゃ、アリスちゃんにもうざがられるわよー?」


 ぽんぽんと、頭を撫でられると、アオの額に青筋が走る。いけない、冷静に。酔っ払いに突っかかっても意味のないことだ。

 とりあえず、心を落ち着かせるために飲み物を口に運んだ。爽やかな味が心を落ち着かせたように感じた。

 そんことは、露とも知らずマリアベルは続ける。


 「それにー、私ももう26歳よー。立派な大人なのですー。だから、心配ありませんよーだ。」


 「え、26歳・・・・もっと、若いと思っていました・・・・。」


 アオは、驚愕の真実を目の当たりにしたように目を丸くした。驚きで、するりとグラスが手から抜けたが、幸いテーブルとの高さは、さほどなく割れずに済んだ。

 マリアベルは、照れくさそうに髪の毛をいじる。


 「え、え、そんなに若く見えるかなぁ?べ、別に若作りしてるわけじゃないんだけどぉ・・・・・。ま、まあ、確かに結構そういうとこ気を使ってるんだけどさ・・・・ほら、部屋だって閉め切って日光とかに当たらないようにしてるしさぁ・・・・。わかっちゃった?」



 「いえ、精神が幼いって意味ですよ。しかし、いい歳して、あんな堕落した生活よく遅れましたね。おまけに、短期で、がさつで、もっと淑女の嗜みというものをですね・・・あっ、これはその、これは言葉の綾というか、なんというか・・・・、マリアベル?」


 下を向いて、フルフルと震える身体。身体から湯気が昇るのが見えた。

 ぐっと、ジョッキに力が加わると、ピキッと亀裂が走る。

 これは、ダメだと、アオは諦めた。

 

 「ぐぎゃーーーー!!!!言わせておけば―!!このクソガキがああああ!!!」


 「ぐ・・・ぐ、ぐるじいでずよ、マリアベルっ!」


 片足をテーブルに乗せると、前のめりにぐんぐんと、胸ぐらを掴んで揺らす。

 これでもか、というようにマリアベルはアオに、説教含め不満や、怒りを吐露した。

 感情の大雨を降らせると。周りがそれに気づき始める。

 

 「お、なんだ、なんだ、痴話げんかか?」


 「ヒューヒュー!アッツいねー!」


 「いいぞーもっとやれー!!」


 周りの客が煽ると、”うっさいわ、ボケ!”とアオの胸から手を離すと、客の方にも飛び掛かり、暴れだした。

 手の付けられなくなったマリアベルは、店中を暴れまわした。

 外野は煽り盛り上げ、被害を食らうものは泣き叫ぶ。阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 アオは、力が抜けたようにイスに座り込むと、苦笑いして肩を落とした。

 喜怒哀楽の声が店中を響き渡らせた。


 暴れ疲れると、マリアベルは机に突っ伏してスヤスヤと寝息をたてた。

 店の中は燦燦たる有様で、暴力の化身に被害を受けた者もあたりに散らかっていた。

 アオは、もはや彼女に人間を見る目を向けていなかった。魔獣が目の前にいるような、そんな眼で彼女を見下ろした。

 

 「はー、信じられない・・・。体力がゼロになるまで暴れまわるとは・・・。」


 「ハハハハハッ!!豪快に寝てやがるな!!・・兄ちゃん、うちの二階の部屋にそいつ運んでやれよ。兄ちゃんもここに泊まっていけばいいからさ。」


 「いいのですか?」


 カウンターの奥から、マスターが笑顔でこちらに来た。マスターの寝ている彼女を見る目は穏やかだった。

 アオの質問に頷きで返すと、アオはぺこりとお辞儀して、マリアベルを背中に背負う。

 

 「部屋は二つの方がいいかい?」


 「いえ、一つでいいですよ。」


 ”ほーう”とマスターはにやけると、後ろの客からも歓声が上がる。

 アオは、床でも寝れるから、部屋が一つでも構わないということで返答した。 

 しかし、この周りの盛り上がりはなんだ、と首をかしげながら階段を上がる。


 「兄ちゃん、これ鍵な。部屋は一番奥だからよ。ま、あんまり、汚さないでくれよ?」


 「は、はあ?・・・・ありがとうございます。」


 鍵をヒョイと投げる。そして、親指を立てると白い歯を出して笑った。

 汚す?嘔吐するということか?もやもやしながら、アオは二階に上がり、一番奥の部屋に入る。

 小さい部屋だったが、手入れはしっかりされていて、清潔感があり、窓から差し込む月の光はあの家の書斎を彷彿とさせた。

  

 アオは、ゆっくりベットにマリアベルを寝かせる。

 すると彼女は、”暑い、邪魔”と寝言を口にして、服を脱ぎだした。

 そして、下着の姿になると布団に包まって、再び寝息をたてる。

 唖然としてその光景を見るアオは、やれやれと頭をかいて苦笑した。


 「まったく、あなたという人は・・・・。でも、今日は意外と楽しかったですよ・・・・。あなたといると、ハラハラドキドキするので、不安を忘れられますよ・・・・。ふふ、こんなこと言ったら、また怒りますかね・・。」


 「どういう意味よ!?」


 びくっと、アオの背中に電気が走る。恐る恐る、マリアベルを覗き込む。

 マリアベルが寝返りを打つと、豊満で魅惑的な肢体があらわになる。

 夢うつつに寝言を放っただけであった。

 アオは、マリアベルが寝ているのを確認すると、緊張の糸が切れるように肩を落とした。

 

 「はー、びっくりしました・・・。ふふ、はははは、本当に予想外な人だ・・・・。

 はあ、明日からも、よろしくお願いします。」


 アオの頬が緩む。そして、めくれた布団を被せた。

 そして、ベットの横に腰かけると、窓から見える月を眺めた。

 

 景色を瞳に映して、アオは静かに考え込む。

 アオの頭には、ある違和感があった。それは、はるか昔の勇者との旅の記憶だった。

 断片的なものだが、マリアベルの話すものと齟齬があるように感じた。

 

 「あの時、マリアベルは勇者が魔王と相討ちになったと言っていたが、私が勇者とどう別れたのか思い出せない・・・・・。それに、聖剣エスペランザという武器に関しても・・・。そもそも、勇者が強かった覚えがない・・・・。ふぅ、まあ、考えて答えが出るものではないですね。」


 アオは、思考をやめるとゆっくりと目を閉じた。

 静かな夜がサウストリアを包んだ。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 夢の中。

 アオは、真っ白な空間に立っていた。かなりはっきりと感覚があるように感じていた。

 アオは、どこまでも続く白い空間を歩くと、その先に人が立っているのが見えた。

 近ずくと、煌びやかな紅い剣を持った全身傷だらけの男が背中を向けて立っていた。

 アオは、誰ですか?と声をかけようとしたら、その男は少し首を後ろに向けると言葉を発した。


 「――・・・・・ろ!」


 「え、なんて言ったんですか?」


 「――逃げろ!」


 「逃げろって、誰が誰にですか?それに、あなたは一体・・・。」


 名前がうまく聞き取れない。しかし、何度質問しても同じ言葉しか発しないその男は、だんだん風景に溶け込むように、アオの視界から遠のいていく。

 アオは手を伸ばすも、いつの間にか何もない白い空間に戻っていた。

 そして、アオの体が光輝くと、空間ごとその光が包んでいった。

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