第10話家族
「夕飯の準備少しかかるから、二人でお風呂に入ってね。」
「え?」
アイリスの言葉に耳を疑う。確かに数刻前まで、人ではない姿の自分があったものの現在は、立派に男の子。そんな者と大切な娘を一緒の風呂に入れるのはいかがなものかとアオは思った。確かに、自分がアリスに特別な感情を抱いているが、それは誰かに恥じることのない高潔なものと自負している。しかし、それでもアオは高鳴る胸の鼓動を抑えられない。
ためらうような反応を見せたアオに、アイリスは目を細める。
「まさか、6歳の女の子にいかがわしいことはしないよねー?アオー?」
「ま、まさか、するわけないじゃないですか。わ、私のこのアオという名に誓って約束しましょう!
!」
食い気味に自分の清廉さを誓うアオ。それを、じーっと見つめるアイリス。二人の間をあられもない姿の少女が駆けていく。少女はお気に入りのパジャマを両手に抱えて走り去っていく。
「ちょ、アリス服、服は?」
「っ?!」
「もう、洗濯の籠に入れちゃったよー!一番風呂いただきまーす!」
勢い良く脱衣所へと姿を消した。ザバーンと水音が豪快に聞こえてきた。
「まったくもう・・・あれ、アオ?大丈夫?なんか耳赤くない?」
アオは、顔を掌で覆い隠し床の上にへたり込んでいた、頭から湯気があがりそうなほど耳が真っ赤になっていた。まさか、竜として千年を超える時間生きてきて、精神は植物のように穏やかだであると自分で勝手に思い込んできたのに、一目アリスの裸体を見ただけでこんなにも動揺するとは考えもしていなかった。
「アオのエッチ。」
「く、誤解です!何もいかがわしい感情は抱いてなどいません。突然、あられもないアリスの姿が目に飛び込んできたので驚いただけです。なにも、問題ない、私は正常だ。」
呪文でも唱えるように自分に言い聞かせる。アイリスはため息を一つ着くと、アオの手引っ張って起き上がらせると、背中をバシッとたたいた。
「はい、いったいった。アリスの背中流してあげてね。」
「ふーー、わかりました。アオ、行きます。」
その時の表情は覚悟を決めた時のそれであり、かつて天使の大軍を相手にしたときにも見せることのない顔になると、かくつく動きで両手両足が左右同じに脱衣所へと入っていった。
「大丈夫かな、あれ。なにかと戦う時の顔してたけど・・・。ふふ、まいっか。準備、準備~
~。」
アイリスはアオと娘の心配は、羽毛一枚程度にすまして、軽やかに台所に移動した。
脱衣所で服を脱ぐと、浴場からは陽気な鼻歌が聞こえてきた。アオは、固唾をのんで扉の前に立つと、最後の覚悟を決めるところであった。
「アオ―、早く来てよー。背中洗いっこしようねー。ぶくぶく、あわあわ、たのしーよー。」
「い、今いきますよ。」
アオは、左手で右手首を隠しながら扉の前で覚悟を決め、いざ戦場へかける意気込みで扉を開く。ふわっと、白い湯気が視線をくらます。木製の風呂で人が二人はいるのが限界だろうというサイズであった。手目にはイスが二つ置いてあり、そこに座って体を洗うようになっていた。小さなケーすには黄色と青の固形物が置いてありその隣に細かい突起物が目立つ拳サイズほどの木の幹のようなものが置いてあった。湯気をかき分けると、少女がイスに腰かけていた。アオの両目が人の輪郭をくっきりととらえる。先ほど廊下ですれ違った一瞬ではわからなかったが、いざ目の前にすると、アオの脳内は処理が追い付かないほどオーバーヒートした。
黄金の瞳の少女はおいでおいでと、小さなイスに座ると目の前のイスへといざなう。
「くふっ?!」
「アオ―、背中あわあわしてあげるー。」
吐血した。実際にはしていないが。アオは、後ろに倒れそうになる身体を何とか保ち、深紅に燃えた顔を手で隠し天を仰ぐように静止した。アリスの声など耳には入らず、昇天しかけていた。先ほど抱いた覚悟は空中へ散開し、なんとか落ち着かせようとぐるぐる思考するが定まらない。ふと、記憶の片隅から男の顔が思い浮かぶ。勇者だ。勇者がかつて竜を笑かせようと変顔を決めた顔をいきなり脳内に流れてきたのだ。それがあまりに、面白くなく、当時のアオも真顔で流していたことを思い出した。一連の記憶と勇者のアホ面を思い出すと、スッと熱くなった感情は凪のように静寂した。アオは、また勇者に感謝したのであった。
きりっとした、笑顔を出しながらアオはイスに腰かけた。
「おまたせしましたアリス。では、背中をお願いしますね。」
「まされました!あわあわー、ぶくぶくー。」
さっきまでの狼狽ぶりが嘘のように、アオは冷静に話すとアリスの手洗いに身を任せた。落ち着いて考えると人間として、身体を払うの初めてで、心地よい気持ちなのだと実感していた。アリスがアオの背中を洗い終わると今度はアオが、アリスの背中を流した。綺麗な黄金の長髪がするっと、アオの前をかすめた。
「本当にきれいな髪ですねアリス。アリスの瞳の色と同じで、とても美しいです。」
「ふふふ、ありがとう。お母さんとお揃いでもあるんだよー。」
アリスの裸体を見ても、平静でいられるほどに状況になれたアオは、会話を楽しみながら体を清めた。二人は一通り、身体を洗うと湯船に浸かる。ふーと、気の抜けるような声をあげるとアリスと対面するようにアオは座った。狭い湯船で二人な膝を曲げながら体を温めた。
「そういえば、アリスは昼過ぎからずっと寝ていたけど、夜寝れなくなっちゃいませんか?」
「ふっふっふっ、それはね、湖で夜にしか咲かない花を見に行くためだよー。だから、アオも今夜は起きておいてね?お母さんが寝たらこっそり二人で抜けるの。」
「え、夜の森はアイリスがダメだと言ってませんでしたか・・・、なるほど、私と共犯、ということですね。怒られる時の保険をかけるとは、アリスは賢いですね。」
にししと、白い歯を見せてはにかむ少女にアオは、自分がアリスをどんどんやんちゃにしているのではと少し後ろめたくなった。しかし、この笑顔を前には全てを許してしまう、そう思わせる魅力がアリスにはあった。アオは、やれやれと甘い自分に対して、首を横に振る。
「わかりました、叱られるときは一緒です。夜の花私も楽しみです。」
二人は湯船で夜の冒険の密会を済ませると、風呂から上がった。
台所で、アイリスがご飯の準備を済ませたところに、アオとアリスは居間に腰かけた。
「問題なかった?」
一応心配していたアイリスはアオに問いかける。
「はい、勇者の丘おかげで、万事問題ありませんでした。」
「え、勇者?どういう意味?」
意味不明な回答に得意げな顔をしている戸惑うアイリスを気にせず、得意げな面持ちになっているアオ。鼻歌でも聞こえそうなほど上機嫌のアオをどこか不気味だと思うアイリスであった。
テーブルには見事な料理が並べられていた。畑でとれた新鮮な野菜で彩られたサラダ、森の木の実が多く入ったスープ、鳥のもも肉を香草を使って火に通したメインディッシュ。主食はパンが用意され、芳醇な料理の香りが食欲を掻き立てた。
「わー、すごいねー。おいしそー。今日はパーティなの?」
「そうよー。今日はアオがうちの一員。家族になった記念パーティだから、腕によりをかけて料理しましたよー!」
「家族?」
豪華な料理に跳ね上がるアリスと、二の腕を掲げて力を注いだことを表現するアイリス。その二人の行動が目に入らないほど、アオの頭を家族という言葉が響かせていた。ぼーっとするアオの姿を見てアイリスは心配そうな目で見つめる。
「もしかして、家族はちょっと馴れ馴れしかった?」
「え、アオはアリスと家族じゃいや?」
二人の心配そうな顔が目に入ると、ハッと我に返る。首を慌てて横に振ると、とても穏やかそうな顔で目を閉じた。
「とても嬉しいです。もし、なれたらいいのになとずっと考えてました。でも、二人に認められるまでは難しいと思っていたので、突然のことで驚いてしまっただけなのです。家族・・家族ですか・・。夢にまで見た家族になれたのですね。」
嬉しそうな笑顔を恥ずかしそうに手で隠す姿に二人は安堵して、お互いの顔を見合わせるとつられて笑顔になった。穏やかに三人の家族は夕食を囲むと、パーティを楽しんだ。
かちゃかちゃと、台所で食器を洗う音が聞こえる。
夕食を終えるとアリスは自室よりまた絵本を持ち出して、アオとソファーに座った。
どうやらアオに絵本を読んで欲しいらしく持ってきたその絵本は、「世界の果てで唄う」という題名で、表紙には美しい花畑で歌っているような姿の女性とそれに跪く男性が描かれていた。
「この本ね、実はアリスの一番のお気に入りなの。だからアオにも読んで欲しくて。」
「勇者の本より好きな本があったのですね。アリスの一番はとても楽しみです。読んでみましょう。」
アイリスの頼みを笑顔で答えると、アオは絵本を開いて、声にだして絵本をアリスに読み聞かせる。
本の内容は、ある探検家が絵本の中の秘境”ティル・ナ・ノーグ”をめざす話だ。世界の最果てにある楽園を見つけるため探検家は旅立ち、途中あらゆる困難を乗り越え目的の楽園にたどり着く。そこは、とても広大な美しい花畑で、月の光が舞い散る花びらを照らすと幻想的な風景が描かれてた。探検家はそこで、物寂しげに歌う一人の女性と出会う。悲しそうな姿に惹かれた探検家は女性に一曲踊りませんかと手を出すと、女性は喜んでその手を取ると二人は幸せそうに花畑で踊って、物語は終了となる。
アオは、絵本を閉じるといくつかの違和感を覚えた。
(この違和感は何だ。まず、ストーリーが短すぎる。絵本だからという理由もあるのだろうが、それにしても冒険譚にしては淡々としすぎている。登場人物の背景がわからないまま終わってしまった。次に挿絵だ。最後の楽園の一枚以外には一切ない。冒険家の旅は冒険家にしかわからないから描いていないのだとしたら、この本は誰目線で語られているのか。最後に、女性の存在。楽園を見つける物語なら必要のない存在だ。なのに、唐突の登場。もし、寓話として描いているなら荒唐無稽、だが、寓話として描いていなかったら話は変わってくる。もしかしたら、この本は―)
アオが難しい顔で考え込むと、左に座ってたアリスの頭がポンとあたる。アリスはアオに体重を預けると、絵本の表紙を眺めていた。
「アリスね、こんなきれいなお花畑見てみたいんだー。アリスの夢なの。大きくなったら、この絵本みたいなお花でいっぱいの場所に行ってみたいんだー。」
アリスはどうやら、絵本の内容というよりは楽園の花畑が気に入っていたようで、キラキラとした目で絵を見つめると、自分の夢を話した。アオは、考え事がばからしくなりアリスの言葉に微笑する。いつだって、アリスの言葉に自分の心は動かさられるのだと、またアリスに深い敬意を感じていた。アリスの夢をかなえたい。また自分の中で、新たな使命が生まれたのをアオは誇らしく思った。
「では、いつか見つけに行きましょう。アリスが求めるなら、私はどこまでもお供しますよ。」
「ほんとう?アリスと一緒にお花畑探してくれるの?約束だよ?」
「はい、約束です。アリスの夢は私の夢です。」
「ふふふ、嬉しい。」
アリスは、長い髪で顔で隠すと、緩んだ目元が感情を表現していた。嬉しそうに笑うアリスにつられ。アオも破顔した。二人の新しい約束が結ばれたのだ。
食器を洗い終わったアイリスは、台所から出ると二人の穏やかな時間を邪魔しないように見つめていた。その表情は柔らかで、アオとアリスの笑顔に見惚れていた。
「さ、そろそろお休み時間だよ。アリス、アオ、歯を磨いて寝る準備しようか。」
「はーい。アオ、洗面所こっちだよー。」
「はい、わかりました。」
アリスはアオの手を取ると洗面所まで連れて行った。さて、とアイリスは腰を伸ばすと二階に上がっていく。二回には部屋が三つあった。一つはアリスとアイリスの寝室。もう一つは、物置のようにたくさんの家財や物が置いてある部屋。そして最後に書斎のような部屋で、窓以外の壁に本棚が並べられており、その本の数はかなりの量であった。窓の近くに立派な木造の机が設置してあり、筆や本が整えられた形で置いてあった。アイリスは物置部屋から布団を一式持ってくると、書斎の真ん中に敷いた。
ふーと、一息つくと、周りの本を見まわした。少し懐かしむように笑うと静かに部屋を出た。
アオと、アリスは二人仲良く洗面台での歯磨きを終えると、二階から聞こえる二人を呼ぶ声に足を運んだ。アリスは二回に駆け上がるとそのまま寝室へ姿を消した。
「アオ、こっち来て。」
アイリスの声が寝室の隣の部屋から聞こえた。アオは部屋の中に入ると、本に囲まれる形で布団が敷いてあった。
「ごめんね、急造だけど、ここアオの寝室として使ってくれて構わないから。ちょっと埃っぽいけどど、がまんしてね?」
そう言うと、申し訳なさそうにアイリスは笑った。アオは、部屋を見渡す。ほこりなどない綺麗な部屋に、急造なのは布団だけなのだと理解した。そして、およそ二人の部屋に似つかわしくない内装に、自分の知らない三人目を想起させた。
「とんでもないです、ありがとうアイリス、使わせていただきます。しかし、この部屋、アイリスの部屋というわけでは、ないですよね?もしかして、アリスの・・・」
アオは聞きにくい質問をしてしまったと、言葉を途中で飲み込んだ。しかし、アイリスの心中はもう隠してもしかたないと思っていた。思い出すように、そして儚げな顔でアイリスはアオの方を向くと、アオの目にはどこか悲し気に映った。
「そうね、隠すつもりはなかったの。いいえ、隠すつもりだったわ。あなたには、ここでの楽しい思い出だけを作ってほしかったから。この部屋ね。アリスの父親の部屋なの。今はこの家から出て行って、音信不通なんだけどね。アリスが幼いころに出て行ったから、あの子は覚えていないけど、実は私、昔は重い病に侵されていたの。」
一つ一つ、思い出を紡ぐように丁寧にアイリスは語った。アオは目をそらさず真剣に話を聞く。
「私の家系の境遇やあの人の家系の境遇、二つの理由も相まって、この森のなかで療養を目的に逃げてきたの。あの人、気が弱いのに腕っぷしはすごかったから、多分最初は、アリスの力なしで魔物はこの家に近寄れなかったわ。そう、精霊の話もあの人はしていたわね。でも、私の体が一向に良くならないから、満場に効く薬草を探しに家を出て行ったのよ。必ず帰るから、待っていてくれってね。」
アオは、部屋の多くの本が魔術や薬草、医術の関連の本が多いことに気づいた。きっと、アイリスを治す方法を必死に模索していたのだと、その男の人となりが垣間見えた気がした。
アイリスは、自分の中の幸せな記憶と、今のこの部屋の閑散とした情景に複雑な面持ちであった。
「でも、運が悪いのか良いのか、アリスが神聖術に目覚めたの。あの人が出て行って半年ほどかしらね。アリスの力は本当にすごくてね、私の病をあっという間に治してしまったわ。きっと、日に日に弱る私に元気になってほしかったのね。すごく嬉しかったわ。ただ、私の病気が治ってからもう三年、あのい人は帰ってこない。」
話し終えると、アイリスの潤んだ瞳が月光に照らされ反射した。その涙を隠すように手で拭うと、パッと顔をあげた。
「ごめんね、そんあ辛気臭い部屋を寝室として使ってなんて・・・嫌だよね・・」
「そんなことありません。それに、謝るのは私の方です。悲しい過去を思い出させてしまった・・・。アイリス、私はアリスの父親の代わりにはなれません。アイリスの空いた心を代わりに埋めることもできないでしょう。でも、アリスと共にこれまで以上に楽しい思い出は作れます。だから、どうか見守っていてください。アリスの成長があなたの幸せになるように私ががんばりますので。」
アオは、アイリスの前で少し屈むとその手を優しく取る。アイリスの顔を下からのぞいくと、涙で赤くなった目元が少し緩むのが見えた。
「ふ、ふふ、そのポーズ似合うわよね。はー、ありがとうアオ。うん、楽しみにしてるよ。あなたとアリスのこれからが私の思い出の最高を塗りかえていく時を。」
窓から差し込む月光がアイリスを包み込む。アオが安心したように表情を緩めると、隣の部屋から元気な声が聞こえてきた。
「アオ―、こっちきてー」
アリスの声に、二人は顔を見合わせると可笑しくなって、クスっと微笑した。きっと、これまでもこれからも、少女の姿が言葉が笑顔が、心を温めてくれるのだとアオは確信した。
二人は、書斎から出ると声の主の部屋へと赴く。部屋に入ると、アリスがアオのもとへ駆け寄ってきた。くいくいと、しゃがんで欲しそうに手を招く。アオはアリスの目線に合わせると、アリスから動物の皮でできた丈夫そうな袋を手渡せれた。そして、アリスの顔が耳元まで近づく。
「この袋、家を出るときに一緒に持ってきてほしいの。それでね、お母さんが寝たらアオの部屋に行くから寝ないで待っててね?」
こそこそと、小さな声で囁くとアオは、思いだしたように小さく頷いた。
「はい、わかりました。待っていますね。」
「何話してるの?」
「いや、なんでもないよー。ねーアオ?」
「はい、なんでもありませんよ。」
そう言うと、くすくすと二人は顔を合わせて静かに笑った。変なの、と呟くとアイリスは何が何やらと首をかしげる。
アオは、アリスから受け取った袋を手の中にしまい込むように握りしめると、部屋の外まで歩く。
廊下に出ると振り向く。
「それでは、二人ともおやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
「おやすみなさーい。」
二人の声で見送られるとアオは、寝室を後にした。書斎に戻ると、先ほどのアイリスの話が頭を反芻した。部屋の主は今もなお、アイリスの心の穴を空けたまま姿を消した。きっと、今もなおアイリスはその生存を祈っているのだろう。アオは男のことを知らない。でも、きっと家族のために懸命に考えていたということはこの部屋から伝わっていた。本の中に、かなり古い神話についての研究が書かれたものがあった。なるほど、アリスの力についても、いろいろ考えていたのなら、こんな危険な森に家族二人を残す勇気の決断も伺えた。
ぱたんと、本を閉じるとそっと本棚にしまった。そしてアオも、男の生存を静かに祈った。
一回でアイリスが、物音をたて家事をしていたがやがてその音も静まると、隣の部屋に入っていく音を最後には家全体に静寂が音連れた。アオは本棚に背中を預けた。そっと目を閉じると、森から聞こえる様々な生き物の音色をに耳を傾けていた。
「本当に、いろいろありましたね。アリスは本当に太陽のように照り輝いていて、一緒にいるだけで不思議と楽しい気もちになる。花畑を見に行こうなどと、安易に約束してしまった・・・。ふ、私は本当に馬鹿ですね。」
アオは、すっと右の裾をあげると、手首には不気味な黒い模様が小さく刻まれていた。それを、さするとアオは、悲しげに笑うのであった。
「どうか少しでも長く、二人と一緒にいれますように。なんて、いったい誰に願っているのでしょうか。」
アオは、自分を嘲笑すると手首を服で隠した。月の光を窓から眺めていると、小さく度扉の開く音が聞こえてきた。ぎしっと、ゆっくり音をたてないように近づこうという意思が伺える。書斎の扉の向こうからうっすらと声が聞こえてきた。
「アオ―?起きてるー?湖いくよー!」
物憂げになるといつだってアリスがそこから引っ張り出してくれると、何度も助けられたその声にアオは、軽くなった心を抱いて扉を開けた。ひょこっと、パジャマ姿のアリスが顔を出すと、口元に人差し指を当てて、いたづらっぽく笑った。
「いこ!アオ!」
闇からアオを引っ張り出すようにアリスは部屋の外へと腕を引っ張った。強引な引っ張り方にもアオは安堵した表情を浮かべていた。これから何度もアリスにこうやって助けてもらうことになるのだろうか、その度にこのあふれる愛しさは増すのだろうか。ワクワクする気持ちをアオは心に抱いた。
(いつか、あなたに返せるだろうか。この胸いっぱいの愛しさを感謝を、いつか返せるだろうか。)
部屋から出ると、二人の夜の冒険が始まった。
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