3
「目標補足」
目標の座礁船のそばまでたどり着いたころには、すでに全身の半分が崩壊しはじめていた。火花が散り、船の中から宇宙服をまとう人々が我先へと宇宙へと飛び出す姿がある一方で、すでに動くこともできずにさ迷う物体と成り果てた者たち。
「こんな短時間で……」
だれかが声を上げた。
西郷はその光景を見ながら、瞼の裏に残る過去の映像が甦る。
あの時のようだ。
破壊された機体。ただ恐怖に怯え、うごめく人々。
その闇の向こうにあるのは得体のしれないもの。悪魔が迫ってくるような感覚に襲われる。
「団長。指示を……」
団員の声にはっとする。
「よし、零部隊、船の火災鎮圧を指す優先とする。飛鷹部隊。その間に船外に放り出された人たちの救助を……。ただし、枇々木と土方のチームは、待機。船の火災が鎮圧すると共に船内の救助へ向かえ」
「アイアイサー」
彼らはすぐさま行動へ移した。
「それって、アキラも活躍する?」
解析をしていたチューブが振り向く。一瞬、顔をしかめた南条だったが、豪快に笑うとチューブの頭をポンポンと叩いた。
「まあ、大活躍するぜよ。あいつのメンツもあるんじゃからな」
西郷は、口元に笑みを浮かべたかと思うと、気を引き締めて正面を向く。
「団長。大久保司令官長官より極秘伝言です」
そのときだった。梅崎が通信が入ったことを告げる。
「おいおい、こんな忙しいときにか」
気合い入れて救助活動しようというときになんだよと眉間にシワを寄せながら梅崎へと視線を向ける西郷に、彼女は思わず視線をそらす。
「すみません。けれど、すぐに知らせたいことがあるということです」
「気にするな。お前が悪いんじゃなか。……仕方なかさ。あちらさんはわしらの動向はわからんからな」
そうだ。たしかに彼はトリプルエスを束ねる司令長官だ。救難信号を傍受し、救助活動をはじめたら、その情報が必ず彼の元へ届くことになる。
しかしながら、その速度は違う。直接月面基地のコントロールルームに救助要請が届けばすぐに報告が上がるが、宇宙空間を巡回している船が救難信号を傍受し、急を要するときは事後報告になることもある。
おそらく今は後者であろう。
「はい」
西郷は自分の席にあるモニターを開く。大久保から届けられた文書を読むなり豪快に笑い始めた。
一度クルーたちは西郷のほうへと振り向くもののすぐに何事もなかったかのように作業を続けた。
「さすがだな。虎太郎には頭が下がる」
西郷はだれにも聞こえないようにつぶやいた。
「団長。船の火災が沈静化しました」
「よし、わかった。待機中の“飛鷹”に伝えろ。これより、船内への救助活動を開始する。二次被害に注意せよ」
「はい」
梅崎は、各“飛鷹”に伝達していった。
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