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「枇々木さん! いつまで寝ているんすか?」
意気の良すぎる声に拓海ははっと目を覚ました。
そこは船の中。自分が所属する師団の船“新選丸”の中にある自室であることに気づくまでそう時間がかからなかった。
デブリ回収を終えて帰還してすぐに自室に入るまでは覚えている。どうやら、そのまま寝てしまったらしい。
「なぜ、おまえがここにいる?」
上半身を起こしながら、アキラを睨み付けた。
「なに言っているんすか~。今日から研修終了まで一緒の部屋ってことになったんですよ~。その間スリーマンセル組むから、樹と俺、枇々木さんが同室だと師団長言ってたじゃないですか。もしかして、忘れたんですか~?」
「あ……ああ……」
そういえば、そんなこと言っていた。
トリプルエスは普段の待機のときは大型船大和級の中で過ごすのだが、デブリ回収や救助活動では基本三人乗りの小型船飛鷹級船か零級船を用いて任務にあたることとなる。
双方とも基本三人で乗り込み活動するところは同じだが、その活動範囲の違いはある。
とにかく前者は格納スペースが広く、デブリ回収や大多数の救難者の収容に用いられることが多い。後者においては、もちろんデブリ回収や遭難者の救助の際も用いられるが、それ以外にも有事の際に大きな役割を担っていた。
それゆえに、あくまで人や物を運ぶための装備しかついていない飛鷹級に比べて、零級には、有事のための装備がずいぶんと揃えられており、人や物の収用スペースが少ないことを覗けば、大概のことは対応できるようになっている。
研修生であるアキラたちはというと、有事の際に用いることの多い零ではなく、通常任務のデブリ回収に用いる飛鷹級の乗組員として船外活動にあたることになった。
その担当というのが、枇々木という男でアキラたちが研修の間、“新撰丸”艦内での同室者として同じ部屋で過ごすことになっていうのだ。
もう一つのグループである日高と大曲は違っているようだ。本来は同室になるらしいのだが、なにせ彼らの指導員は土方透子である。ようするに異性だ。さすがにそれはいやだと指導員であるは断っており、日高と大曲の二人部屋になったらしい。
《零》には乗れないのかという声もあがったが《零》はシミュレーションでやっただろうとばっさりと切られてしまった。たしかにシミュレーションでは何度も《零》に乗ってはいたのだが、それだけで実際には乗せてもらえていない。その理由はあくまで有事の際の機体であり、まだ研修生である彼らが実践で行うべきではないという上からの判断らしい。
アキラにはその意味がわからなくはなかった。
動かしてはいないが、実際に乗ったことはある。それにメンテナンスもしているのだ。
確かに新人がたやすく扱うには危険な感じはあった。
相当の腕がないと自由に動かすのは至難の業。
実物でも操縦訓練はいくつの経験を積んでからといったところだろう。
「さっき、師団長から伝達があって、ラグランジュポイン3につくそうです」
「ラグランジュポイント3?」
「よくは知りませんけど、なにかの捜査するみたいです。《零》のチームが呼び出されていました。だから、いったほうがよくないですか?」
「なにをいっている。俺はもう《零》のパイロットじゃない。俺のチームだった連中は別のやつと組んでいる。あれは動かせないだろう」
枇々木はもう一度ベッドに横になった。
「そうですか? 機体も治ってますよ。たしか、あれは一人でも操縦可能ですよね」
拓海はアキラに背を向けたまま、視線のみを送った。
「そりゃあ、できなくもない。けど、一人じゃあ限界があることぐらいお前ならわかるだろう? 」
「まあ、三人での分担で操縦する構造になってますからね。それいいながら、やったんですよね。一人で操縦して助けに……」
拓海はその言葉を聞いた瞬間に勢いよく体を起こし、アキラの胸倉をつかみ睥睨した。
「なぜ、知っている?」
「師団長に聞きました。《零》のエースだった人が《零》に乗ることを拒むのかって気になるじゃないすか……」
「ちっ、余計なことに首突っ込みやがって……」
胸ぐらを離すと背を向け、舌打ちした。
「どこまで知っている?」
「詳しくは知りませんよ。無茶して救助しようとしたら、結局自分もデブリにぶつかって、船は大打撃、枇々木さんも三日ほど意識不明と聞きました」
「……デブリ……だったのか……」
「?」
拓海はあの時のことを思い浮かべていた。
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