6
「なあ、あそこには何があるんだ?」
丘の上に寝そべって、金色の光を放つ満月を眺めながら、幼い子供がつぶやいた。
「そうだな……」
子供の隣に腰かけている男が考えるしぐさをすると、子供は男の横顔を見る。
肩までありそうな長い茶色の髪が風に揺れ、切れ長の目は何かを懐かしむかのように細める。
「なにもねえよ」
男の答えに子供は起き上がった。
「そんなわけないよ。だって、あそこは……」
子供の言葉を遮るかのように「なにもない」と繰り返し、子供を振り返った。
その向けられた笑顔は、どこか悲しい。ただ子供を安心させようとしたのかもしれないが、子供には取り繕っただけのものにしか思えなかった。
男は子供の視線を逸らすと、真っ暗な空を仰いだ。
「少なくとも、いまの俺にしてみりゃぁ。なにもねえ場所だ」
「は?」
「お前は行ってみたいのか? あの場所に……」
男は月を指さした。
「まあ、てめえの眼でみるのもいいかもな」
男は子供の頭を撫でた。
「なにか見つかるかもしれねえ」
子供が俯いた。
「おやっさんは……」
「ん?」
「おやっさんは本当になにもなかったのか?」
「何度も言わせるな。なにもなかったさ。けど……」
彼はもう一度子供を振り返る。
「
「え?」
「おれはそれを守りたいんだ。俺の居場所。てめえの帰る場所を……」
男はこの独りぼっちの子供との出会いを思い出していた。
その瞳は彷徨っていた。体中傷だらけでただ、さまよっている。
この迷子の子供がその時の自分と重なりいとおしくて仕方がなかった。自分の居場所を失った。けれど、この子に居場所を作ってやりたいと思った。
「だったら、守れよ。その居場所ってのをさ」
子供はなんの曇りもないまっすぐな瞳を見せた。
「あたり前だ。それが何もなかった俺の生きる道さ」
そのはにかんだ笑顔は、子供をようやく安堵させた。
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