『アキラ、のんびりしている暇ないよ』


 チューブが催促してくる。


 仕方ないなと船の中へ戻ろうとしたが、ふいに自分の視界に飛び込んできたものに足を止める。


 座礁して宇宙のごみとなった宇宙船の窓。そこから見えるのは、なにやら人らしきものたち。まったく意志を持って動いている様子はない。ただ、流されるままに船内に漂っているだけだ。おそらく生きてはいないだろう。ただ朽ち果てるのを待っているにすぎない。


『アキラ?』


「いや、同じだなあと思って……」


チューブは首を傾げるような素振りを見せる。


「同じだよ。地球も宇宙も人が壮大な夢を勝ち取ろうとすれば、どこかでなにかを失う。悲しいもんだねえ」


 アキラは、自身がいま目にした宇宙の悲しみに、後ろ髪魅かれる思いを抱きながら、背中を向けて、自身の船へと乗り込んだ。


 彼の乗る船は、大型船からゆっくりと、離れる。


そして、大型船の姿は、後方へと小さくなっていく。


後方へと消えていく船を振り返ることもなく、あきらは、目の前に輝く月へと舵を取った。


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