それは廃棄された大型宇宙船だった。


 いつから廃棄されているのかはわからないのだが、壊れ具合からいってさほど昔のことではないだろうと推測できる。



「でかしたぞ。“チューブ”」


 アキラは“チューブ”と呼ばれたAIの後頭部を撫でる。


 “チューブ”の眼が嬉しそうに目を細める。


「ほめられた。ほめられた」


 “チューブ”がコックピット内を踊るように動き回る。


「ハハハハ。楽しそうだねえ。でも、あまりはしゃぎなさんな。壁にぶつかるぞお」


 アキラのいった通り、“チューブ”は壁に激突する。“チューブ”の粒のような2つ目がバツマークになった。


「いたーい。アキラ。いたい」


「ほーら」


 “チューブ”がアキラのほうへと飛びつく。


「本当にお前はドジだねえ」


 アキラが頭を撫でると、“チューブ”の頬らしき部分がほのかに赤くなった。目元はにっこりマーク。


 よくできたAIだ。


「ああ。じゃれ合っている暇ないか」


 アキラは時計を見る。その時計は地球上での日本本土時間にセットされている。


 時刻は八時。


 月までどれくらいだろうか。


「チューブ。どの辺にいるか。表示頼みよ」


「アイアイサー」


 チューブの眼が光り、再び壁に映像が浮かぶ。


 四角い枠の中心あたりに青い線で大きく丸い円が描かれている。


 それが地球を意味する。

 

 その円形を囲むようにさらに大きな黄色の円が人工衛星や宇宙ステーションが存在しているラグランジュポイントと呼ばれる軌道。


 それは地球と月の互いの引力が釣り合っている点のことをいい、その軌道上にあれば、宇宙空間に放り出され、無限の世界をさ迷うことにはならない。せいぜい、地球の自転に合わせて動く程度だ。


 その黄色い円の線上に三角の緑色のマークがピコピコと点滅しており、それよりも少しずれたところに赤い三角マークが点滅を繰り返している。


 緑の点滅はアキラの乗る機体を意味し、赤の点滅はデブリがそこにあることを示している。


「おっ、もしかしたら、ついているかもしれないねえ」

 

 アキラはのんびりした口調でいいながら、映像モニターに触れる。


 すると、赤い点滅の部分が拡大され、その隣に数字が浮かび上がる。


「へえ。やっぱり大きいみたいだねえ。民間の船ってところかなあ。しかもそれなりに最新式。これならマジでどうにかなりそうだねえ」


 数字はデブリの大きさを示している。その下には英語文字でその船の名前さえもご親切に表示されている。


「ハヤブサ? ほほお。これはいいねえ。マジでついているじゃん。これでいける」



 そう判断したアキラは、映像モニターを一度消すと、操縦席に座る。


 前方のモニターが開かれ、先ほどの映像をモニター画面の片隅に移し、大画面にはこの機体の状況を示す図面が表示させた。


 機体にある程度損傷部分はあるようだ。


 しかし、動く。


 どうにか大型宇宙船への移動は可能だ。


「こりゃぁ、ラッキーだねえ。もってくれよ」


 操縦悍を引く。船はゆっくりと、大型宇宙船へと近づけていく。


 そのまま火花を散らしながら、不時着した。

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