ガイダンスと再びの絡み
「では、ガイダンスを始めたいと思いまーす。最初に、自己紹介からだね」
一通り学園の設備を案内された後、黄の教室に戻ってガイダンスを受けることになった。
設備案内には3時間費やした。これでも結構ハイペースで進めたほうなのだが…
ガイダンスはどうやら自己紹介から入るようだ。
「まず、担任の僕からだね。僕はハオラン。名前を聞いたらわかると思うけど、親が王国民じゃないんだ。でも、僕は生粋の王国民だから。よろしくね」
担任のハオラン先生は穏やかな笑顔で言った。
俺たちエレメント王国民よりも黄色っぽい肌に、軽く巻かれた焦げ茶色の髪。天然パーマだろう。
薄い唇や筋の通った鼻立ちはちょっと厳しい印象を与えるが、大きくて優しそうな黒よりなこげ茶の目と、天然パーマがその印象を補い、ほんわかした感じの雰囲気を作り出している。
自分の自己紹介を端的に済ませると、ハオラン先生は穏やかな笑みのまま、生徒たちに自己紹介を促した。
「じゃあ、出席番号1番のエイベル君、自己紹介をよろしくね」
どうやら先ほどまでの緊張も、ハオラン先生のおかげで吹っ飛んだようだ。生徒たちの緊張の糸がふっと緩んだことが分かった。
「さて。じゃあ自己紹介も終わったし、ちょっと僕から話をさせてね」
先生はほんわかとした雰囲気のまま、生徒に向かってこう言った。
「この学園は、4つの学科に分かれてるでしょ?勉強内容も学科によって大きく異なる。でも、今年からは4学科合同武術訓練があるんだ。もちろん、学科ごとに課題の難易度は変わるけどね」
生徒に動揺が走った。
無理もない。今まで武術と黄は完全なる無関係といっても過言ではなかった。試験での実演はあったが、黄の人たちに要求されるのは大した難易度の技ではない。
なのに、突然フェルムやカームなど、戦闘向きの職種の人達と共に武術指南を受けなければならないのだ。
魔王が復活するって教えて、学習内容の変更を促したのは俺だから、多少良心の呵責を覚えるが、社会に出てから魔物に襲われて死ぬよりはましだろう。
「ってことで、明日から早速武術訓練があるんだ。教える武器は人によって違うけど、明日は軽く体を作って、武器を決める、くらいの練習量だから大したことないって。動きやすい服装で来ることって言われてるよ。じゃあ、今日はこれで終わり!帰っていいよ=」
ハオラン先生は終始ほんわかした雰囲気で話を通した。生徒はそれどころじゃなかったようだが、帰って良い、という合図は耳に入ったようで、わらわらと教室を出て行った。
俺はアシーナのところへ行った。彼女はちょうどリンと話していたところだった。
「リン、アシーナ。帰ろ。アシーナって寮暮らし?」
俺はリンとアシーナに話しかけた。リンは飛び上がるように立ち上がった。
「ああ、ニーケ。帰りましょう。一応寮で暮らすことになってるわ」
そういってアシーナは立ち上がった。
所作の一つ一つに気品が漂っている。どこの出なんだろう…
その話題に触れちゃいけないような気がしたから、俺は別の話題を探した。
「ところでニーケ。あなた、特別寮暮らしよね?ちょっと私の部屋にあとで来てくれないかしら。明日から武術訓練でしょう?練習したいのよ」
アシーナは俺の隣を歩きながら言った。
「いいよ。なんなら、道場を借りてやろうか」
俺は提案した。あの部屋でやったら部屋が危険だろう…
「いいわね」
アシーナも賛同した。じゃあ、道場の予約を…
「じゃあ、ちょっと道場の予約とってきましょうか」
リンがひょっこり首をだした。ナイスタイミング!
「リン、お願いするよ。ありがとう」
「ありがとう、リン!」
リンは俺たちの答えを聞いて、嬉しそうに走り去った。
「アシーナ、武術訓練、どうしよう…」
俺は走っていくリンの背中を見ながら、アシーナに不安なことを話した。
俺と同じ実力のアシーナならわかってくれるだろう。
「そうね…自惚れているように感じなくもないけど、私たちの実力だと…武術訓練で1年のフェルムを抜いてトップになりかねないわね…」
アシーナも同じことを考えていたらしく、考え込んだ。
「全くの同感。ちょっと手抜いてやろうか…」
「そっちで手抜いて、放課後私たちだけで練習してみましょう…」
「そうしようか…」
「ニーケ様ー!アシーナちゃーん!道場とれましたー!3時から5時までです!」
リンが大きく手を振りながらこっちに走って戻ってきた。
「あら、ありがとう!」
「さんきゅー!リン!」
途中で盛大にずっこけていたが、気にせず駆け寄ってきて、キラキラした目でこっちを見た。
根っからの世話焼きな性格だから、役に立てたのがうれしいのだろう。
「ありがとうな」
俺はリンの頭を撫でてやった。こうするといつも喜んでたことを覚えていたからだ。
「おい、お前ら無職の二人組だろぉ?俺たちみたいな強ぇやつがいる学園に入ってきて平気なのかよぉ」
後ろから声がかかった。俺たちはパッと振り返る。
あからさまに不良っぽいやつらが俺たちをニヤニヤしながら見下ろしている。
リーダー格はこれまた悪人面。ゴルに面影が被っている。
ゴルの兄だろうか。
はあ、この学園に入ってから2回目の絡みだ。うざったいなぁ…
アシーナが俺に耳打ちした。
「ニーケ、こいつら私たちより弱いけどボコしちゃっていいかしら」
「ボコしたいけど面倒なことは嫌だ。向こうから手を出してもらえるようにしよう」
俺もアシーナに小さな声で返す。
アシーナを馬鹿にしたやつらをボコす機会その一。入学式が終わって早々に来るとは運がいい。
「おぉい、俺たちを無視して2人で話すとはいい度胸だなぁ。痛い目見せてやろうか!」
「無職だからって絡んでくるなんて。お兄さん、もうちょっとマシな声のかけ方なかったの?」
俺はあおりで返す。この手の奴はこういう風に返すと…
「やんのか?クソガキ」
ほら釣れた。
「いいよ。ほら、俺たちは丸腰さ。かかってきなよ。2対5だけど大丈夫?」
さらに煽る。これでボコされる口実ができた。
「このくそ生意気なガキが!ぶっ殺す!」
おお、兄弟そろって口調が一緒。遺伝子ってすごいなあ。
兄はどうやらゴルよりは強いようだ。取り巻きはゴルレベルだろう。
そいつらが、まとめてとびかかってきた。
俺とアシーナは10秒で決着をつけた。
最初にとびかかってきたボス格を封じ、うろたえたすきにほかの奴らに一発蹴りを入れて終了。
「あら、最初の威勢はどこにいったのかしら」
アシーナはあっけなく終わったことに対し残念そうだ。
「アシーナ!ニーケ!そこで何しているの!」
ディアさんの声だ。
「ああ、先生。こいつらが飛びかかってきたのでぶちのめしていたところですわ」
さわやかな笑顔でアシーナが言う。ド直球すぎるだろぉ!
ディアさんはとたとたっと俺たちのそばに来ると、うしろで泡を吹いている奴らを一瞥。
俺たちを振り向き、にこにこ笑顔で言った。
「この学園の赤の中でもそこそこ強い方の奴らなのですが、一発でぶっ飛ばすとはすごいですね!あなたたち、1年の武術指導だけでは物足りないでしょう。赤の3年の武術指導に来てくださいな!その間の授業は、あなたたちなら問題ないでしょうし!」
え、マジか!
「「ありがとうございます!」」
「では、明日の3,4時限目に来てください!場所は第4道場です!では!」
そういってディアさんは軽やかに走り去った。
「よかったね、アシーナ」
「ええ、ほんとに。いい練習機会をいただいたわ」
「そうだね。じゃあ、道場行って練習しようか」
「そうしましょう」
俺たちは道場に向かっててくてく歩きだした。
「あれ!もう三時ですか!待ってください二人ともぉ!」
リンが俺たちに置いて行かれたことに気づいて、慌ててついてきた。
どうやら学園生活、充実したものになりそうだ!
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