ニウム学園入学式と、もう一人の錬金術師
「やっぱりそうか。君は錬金術師だね」
「あなたも錬金術師ね」
質問が被ったことで互いの職業を認識したようだ。
俺がため口で話しかけたことにため口で返してきた。
「名前、聞いてもいい?」
「ええ。私はアシーナ・ハイロジェン・ヘーメラ。錬金術師よ」
「俺は、ニーケ・ラドニクス・アイテル。同じく錬金術師」
俺は手を差し出しながら言った。アシーナは手を取った。
俺とアシーナは一緒に入学式に出ることにした。
アシーナは俺の名前を聞いて疑問に思ったことがあるらしい。
隣に並んで歩き始めて早々に、俺に質問してきた。
「ニーケも錬金術師なんでしょ?じゃあ、なんで名前が違うのかしら」
言われてみれば確かにそうだ。
「俺はアイテル、アシーナはヘーメラ。なのに錬金術師という職業は一緒。何が起きたんだろう」
「この二つの名前には共通点があると思うのだけど…」
「じゃないと話の筋が通らないよね」
アシーナも俺も、思い思いに物思いにふけった。
この名前にどこか聞き覚えがあるような気がする。
アイテル、ヘーメラ。どこかで見た。見たし、聞いた。
かといって、前にアシーナに会ったことがあるわけでもない。どこで…
頭をひねりつつ、もう一度錬成陣を見る。その途端、答えが分かった。
「アイテル、ヘーメラ、モロ、ケーリ、タナト、ヒュプノ、ネイロ、モース、オイジュ、ゲーラ、エリー、ピロテス、アーパテ、ネメ、アトロ、ラケ、クロト、ヘス」
一息で読み上げる。
どこかで見たことがある、という感覚は間違っていなかった。
錬成陣に、この名前が刻まれていたのだ。
俺はアシーナの肩を叩いた。アシーナが振り向く。彼女に向かって、俺は早口にまくしたてた。
「アシーナ、わかった。この名前は、錬成陣に刻まれている名前だ。きっと君の方にも」
最後まで言わせず、アシーナが自分の錬成陣をパッと見た。
その名前が読み取れたらしく、目を大きく見開く。
「まさかこんなところに刻まれてるなんて。見たことがあるって思ったのも道理だわ」
「やはり同じ名前が刻まれてたのか」
アシーナは大きくうなずいた。
突然、鐘が大きくなりびいた。
「やばっ! もうあと五分で始まる!」
「嘘でしょう!? 間に合わないわ!」
アシーナも俺も慌てふためく。
しょうがない、ここは…
「錬金術で楽してやろう!」
空気に向けて左手を伸ばす。
アシーナも事情を把握したようで、同じように右手を伸ばす。
「「錬成!」」
廊下の暗闇から強い風が吹いてきた。会場へ向かう追い風だ。
俺たちは風に乗って全力疾走した。風のおかげで速く進める。
「こうすれば楽ね! よく考えたものだわ!」
アシーナは俺に少し遅れをとっていたが、パッとスピードを上げて俺に追いついてきた。
「お褒めの言葉ありがとう! さあ急ぐぞ!」
さらに風を強め、会場に滑り込みセーフで入り込んだ。
幸い、リンが後ろの方に席を変えてくれていたおかげで遅刻がばれずに済んだ。
式が始まり、超短い学園長(俺を見つけてこっそりウインクしてた)のお話の後、入学生点呼があった。
どうやらこの学園では入学生1200人を一人一人呼び、紫、赤、緑、黄のどこに入るかを宣言するらしい。これ、どんだけ時間かかるんだろう…
「アリーヤ・アダムス・アールム。紫!」
一番手が呼ばれ、学科を告げられる。呼ばれた人が立ち上がる。
そして、その学科の生徒から拍手が上がる。
…ものすごい時間かかるじゃん、これ…
1200人分もいちいち聞いていられないから、俺は意識を頭の隅に追いやった。
リンとかアシーナとか、知ってる名前のそばになったら回復しよ…
ついにアシーナの番になった。
「アシーナ、たぶん二つ名呼ばれないと思うけど、気にしちゃだめだよ!」
俺はこっそり耳打ちした。
アシーナはもう無職として扱われることを知っていたようで、余裕のある笑みを向けてきた。
これなら大丈夫だろう。…少なくともアシーナは。
「アシーナ・ハイロジェン。黄!」
アシーナは堂々と胸を張って立ち上がった。
途端、あたりの静けさが倍になるほどの緊張が襲った。
3秒後、ひそひそとうわさ話をする人の声があちらこちらで聞こえてきた。
「あの子無職なの?なんでこんな歴史ある学園に入ってきたのかしら」
「へっ!無職だと!俺たちと同列になってほしくないね!」
アシーナの耳にも届いているだろう言葉を、しかし彼女は聞き流し、余裕のある笑みを保っていた。
…残念ながら俺は耳もいいし、目もいい。記憶力も悪い方じゃない。しかも気は長くない。
だから、アシーナのことを馬鹿にしている輩は覚えたぞ。後で覚悟しとくんだな。
「静粛に!」
それを見ていた学園長が一喝。辺りはまた静かになった。強い…
「では、式を進めていきます」
ディアさんは、何もなかったかのように司会を始めた。
「ニーケ・ラドニクス!黄!」
俺の名前が呼ばれた時も、似たような現象が起こった。まあ、俺の時の方がひどかったかな。
「王家のものなのに学園に来るとは!落ちこぼれめ」
「無職?女王様の株がだだ下がりね。おかわいそうに」
気位の高い自意識過剰な貴族出身の生徒や、高貴ぶってるマダムたちが俺をなじる。
俺はいっそのこと制服のボタンを引きちぎって鉄の玉にして投げてやろうかと思ったけど、耐えた。
まあ、代わりにといっちゃなんだけど、殺気を放ちつつ睨んどいた。
自意識過剰貴族は殺気を感じられなかったようで、俺が睨んでくるのを馬鹿にしたようにあしらった。後で覚えとけよ。
ばばa…失礼。マダムは得体のしれない恐怖を感じたようで、扇子で口を覆ったきり黙り込んだ。
その他もろもろの俺をなじってきた奴らは、あとでボコす。
学園長はアシーナの時と同じように「静粛に!」と言って場を収めたが、口元がすこしにやついているのを俺は見逃さなかった。
俺が殺気を出して睨んでるの見て楽しんでたな!
ちなみに、アシーナを馬鹿にしてたやつの中には今二年になったゴルもいたが、俺も無職だと知るや否や縮み上がっていた。無職に対する恐怖があいつの中で確立したようだ。
まあ、そのくらいのことがあっただけで入学式は平和に終わった。
…俺の殺気を感じたであろう奴らが俺を避けているような気はしなくもないが…
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