錬金術師は恐怖でしかない
「へえ!ほかにも錬金術師いたんですか!」
「うん!レア職なことに変わりはないけど、やっぱ同じ職業の人がいるっていいねえ」
リンは意外そうな顔をして、ほかにも錬金術師がいたことに驚いていた。
俺は、やっぱり同じ職業の人がいたことを喜んでいた。そりゃ、ぼっちは嫌だもん。
コンコン
部屋の扉が叩かれた。
「誰?」
俺は剣を抜いてから聞いた。暗殺の危険がある以上、気にしないとね。
「ディアですよ。学園長からの伝言を受け取りまして」
ディアさんの声がした。一度聞いた人の声は間違えない自信がある。
「わかりました、今開けます!」
剣を一応構えつつ、俺は扉を開けた。
ディアさんがぺこりと一礼して入ってきた。
「それで、伝言っていうのは何ですか?」
「はい、あなたの職業についてです」
どうやら、ディアさんは学園長から俺の職業について聞かされたらしい。
ディアさんは信用できそうだし、きっと大丈夫でしょ。
「錬金術師、というのは伝説上の職業なんです」
そういう入りでディアさんは話を始めた。
「錬金術師が生まれるとき、世界は闇に包まれる。これが大まかな伝説の内容です。だから、この伝説を知る人にとって、錬金術師は恐怖でしかない。知らない人でも、錬金術師がー言い方は悪いですがー異様な職業であることは認知します。だから、あなたともう一人の錬金術師の子は、無職として扱わせていただきます。無職、ということで馬鹿にされることもあると思いますが、職業でしか人を判断できないやつはクズだと思っていただいて結構なので、気にしないでください」
ディアさんはそう締めくくった。
クズ…。ディアさんって、見た目にそぐわないよな。結構過激?
え、ていうか…
「錬金術師ってそんなやばい職業として取り扱われてるんですか?というか、世界が闇に包まれるって魔王のことですよね。なんでもうすでに魔王が復活済みって知らないんですか?」
そう。魔王はもう復活していて、錬金術師が生まれるからじゃないんだけどな…
ディアさんは、俺の話を聞いて、目を丸くした。
「え、魔王ってもう復活してたんですか?」
あれ、知らないの…?もしかして…
「ニーケ様、今まで言いそびれていましたが、おそらくそれは王家の黙秘事項です。ディアさんは学園の管理職に近いので教えても大丈夫だと思います。何ならそれを踏まえて学習事項を変えるのも大事かと。が、その他の人にいうのはやめておいてください。」
リンが俺に耳打ちした。
げ、ってことは。エリノア姉さんたちは俺の夢、魔王討伐を本気で受け取ってなかったんだな…
俺はディアさんに向き直った。
「ええ。魔王復活は本当です。ちなみに、錬金術師のせいではありません。俺が生まれる前に復活してますので。話はそれましたが、それを踏まえて、学習内容を変える必要もあるかと」
ディアさんは体をわなわな震わせていたが、やがて正気に戻ったようで、深くお辞儀をした。
「このような重要なこと、今まで知らなかったのが信じられません。教えてくださりありがとうございます。来年度からカリキュラムを変えたいと思います。それから、魔王のことは王家が発表するまで待った方がいいですよね?」
「はい、待つ方針でお願いします」
「わかりました。では、失礼します」
そういってディアさんは立ち上がり、部屋の外へ出た。
扉が閉まり切る前に、扉が再び開いてディアさんが顔を出した。
「ニーケさん、扉の前に食事が置いてあります。王都から取り寄せた今日の夕食です。食べてくださいね!」
そういって扉が閉まった。
王都から取り寄せた?嫌な予感がする。
リンも眉をひそめている。
「ニーケ様、やはりここは錬金術でお確かめください。危険な気がします」
「俺も同感だ」
廊下に出て、食事を見る。
手をかざして、理解を始めた。
サラダ、問題なし。野菜しか入っていない。
ハンバーグ。問題なし。やった!
スープ。危険性が高そうだが…問題なし。
パン。これは…
小麦にまざり、わずかな異物が見つかった。
異物の理解を開始。
どうやら問題ないようだ。米粉をほんの少し混ぜたパンのようだ。
「じゃあ、ほかに危険なものはないかな」
俺は食事を中に持ってきて、フォークとナイフを手に取ろうとした…
「ニーケ様、その前にそれを見てください。口に最も頻繁に入れる、カトラリーです」
リンが俺に忠告した。
カトラリー!盲点だった。
手をかざす。
理解を開始。
銀製。わずかにアルミニウム。何のためだろう。
表面を確かめる。
どうやら純銀のようd…
手が止まった。
俺が最も口に入れる回数が多いと思われるところに異物発見。
異物を理解を開始。
結果は…
猛毒、エイが見つかった。
この毒は、一口取っただけで免疫を著しく低下させ、病気にかからせる。
また、この毒自体が体を蝕み、最終的に病気のような症状で人を殺す。
対処法がないのもこの毒の恐ろしいところだ。
無味無臭。なおかつ無色なため、暗殺によく使われる。
俺が小さいころ、毒物の図鑑を読み漁っていたことが幸いした。元素がどのように結合しているか、どんな効果をもたらすか。城の図書館にあった分なら全部覚えている。
俺は、物思いから我に返り、心配そうに俺を見ているリンを見た。
「リン、猛毒のエイが見つかった。どうやら母さんたちは俺を本気で殺しにかかるようだ」
リンは、何かを決意したような顔になった。
「私も鑑定の技を上げていきます。ニーケ様を守るために」
「うん、おねがいするよ」
「ところで…。」
「どうした、リン?」
「夕飯、どうしましょうか」
「…そうだな。俺はまだ毒を分解できないからな…」
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