錬成は、理解から始まる
普通、王家の人たちは学園に行かない。
城内で、大臣たちなど頭のいい人たちに個別で教育させる。
そして、優秀な王子・王女を育て、王国の優秀さをアピールする。
また、学園に進学させないことで、王家と庶民の違いを見せる、という意味合いもある。
それが、王家としての矜持なのだ。
だから、王子である俺が学園に進学するというのは、ほとんど前代未聞のことだ。
「はは、俺はよっぽどこの王国の大臣たちから嫌われてるらしいな」
俺は自嘲気味に笑った。
だって、なんかもうそうしてないと傷ついてしょうがないんだもん。
リンは拳を握りしめ、歯を食いしばって震えている。
事情が分かっていないエリノア姉さんとガイアは、ぽかんとして俺らを眺めている。
「なんでニーケ達そんなに悔しそうなんだ?学園に行きたくないのか?」
事情が分かっていないガイアが俺たちの傷口をえぐる。
ガイアに悪気がないのはよくわかっている。
よくわかっているからこそ、その無邪気さが憎らしかった。
「王家の奴らは、学園に行くと落ちこぼれってことになるんだよ」
俺はイライラを押し殺そうと努力しながら、それでもおさえきれずに吐き捨てた。
ガイアはまだよくわかっていないようだ。
ふたたび質問しようと口を開いた。が、事情を察した姉さんに止められた。
姉さんは、ガイアに手招きをして、一緒に外へ出た。
「ニーケ様、これは…」
リンがようやく口を開いた。怒りを押し殺しているのが顔でわかる。
「ああ、超緊急事態だ。俺が補佐を下ろされる可能性はないが、だからこそ母さんが俺に刺客を差し向けて殺そうとする可能性はあるな」
俺は怒りに全力で蓋をしながら答えた。
学園に行かせるような落ちこぼれを補佐にしたら、母さんの顔が立たない。
かといって、今更決定を覆せない。なにしろ、母さんは俺に有利な条件を大量につけて押し切ったんだから。
そのため、補佐を俺に辞めさせる最も合理的な方法は、俺を殺すことだ。
病気に見せかけて毒で殺すか。はたまた盗賊などの仕業に見せかけて殺すか。俺にはわからない。
「殺すなら、毒でしょう。補佐が盗賊に襲われて死亡、なんてニュースが漏れたら、王国の重要人物の護衛がおろそかだの何だの叩かれるのが見えますから。女王様も宰相様も優秀です。きっと病気を見せかけてあなたを殺すと思いますよ」
リンが言った。なるほど、理にかなっている。
「わかった。じゃあ、俺はどうすればいいんだ?」
俺はリンに聞いた。もちろん、俺もいろいろ考えている。
「毒見を雇う、なんてことはしたくないですね」
「さすが、俺の考えてたことぴったりだ。リンは、鑑定で毒を見分けたりはできないのか?」
「ちょっと難しいですね。ニーケ様こそ、何かできませんか?」
俺は考え込んだ。
すると、さっき錬成したときのことを思い出した。
俺はあのボウルに、何の素材が使われていたか、何割の割合で何が入っていたか、理解していたような気がする。
確かに、それがわからなければ銀を錬成することなど不可能ではないか?
錬成は、理解から始まる。
ならば、俺がその一つ一つの物体を理解できるようになれば、毒だって見つけられるはずだ。
「リン、お願いがある」
俺はリンに言った。
「何ですか?」
リンは首をかしげて俺を見た。
「いろいろな素材を持ってきてくれないか?真鍮、青銅、なんなら道端の石でもいい。俺が錬金術師として成長するため、また、俺が生き残るためだ。頼む、協力してくれ」
俺は頭を下げた。
「頭なんか下げなくても、私は協力しますよ!ニーケ様が生き残って、夢をかなえるまで一生お手伝いします!」
リンはにっこり笑ってそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます