行ってくる!
「ニーケ!」
リンと俺はびっくりした。そういえば、外で姉さんとガイアが話してたんだった。
「どうした?ガイ」
「ごめんな、よく事情が分かってないのに、俺、お前に余計なこと言ったよな。ほんとにごめん」
ガイアはでかい体を縮めて、俺に謝ってくれた。
「いいよいいよ。事情が分かってなかったならしょうがないし、街の奴らにとって学園に行くのは憧れだしな。俺もあの時は気が立ってたし。こっちこそごめんな、気にしなくていいよ」
まあ、今も気が立ってるっちゃ立ってるけど。
ガイに対して怒ってるわけじゃないからいいよね。
ガイはそれを聞いてぱあっと顔を明るくして、笑った。
「じゃあ、謝りついでに一個頼まれてくれないか?」
俺はガイアに聞いた。
「もっちろん!俺は何すればいい?」
ガイアは楽しそうな顔で頷いた。
「俺が今からさっきの辞令の返事を書くから、それを城に持って行ってくれないか?」
「任せろ!」
ガイアは胸をドンと叩いた。
うん、頼りがいがある。
俺はガイアの目の届かないところに行き、さっき届いた辞令を錬成して新品の高級紙に変えた。
ついでに、インクは分離させて手ごろな瓶の中に放り込んだ。
『ニウム学園への進学の件、承りました。
今まで出来損ないの私を城に置き、信用し、精いっぱいの教育を授けてくださったこと、感謝いたします。
これからも、王国のために全身全霊で努めてまいります。
追伸:今までの感謝のしるしとして、この指輪をお受け取りください。
この指輪のことはどうぞご内密に。
ニーケ・ラドニクス・アイテル』
書いた後、錬成した銀を指輪の形に錬成しなおして同封した。
外からは見えないように、巻いた文書の中に放り込んだ。
もちろん、指輪は元の銀の五分の一程度の重量しか使っていない。
リンは
「こんな高価なものをこんな仕打ちをした母親に指輪として差し上げるなんて!」
って思っているようで、驚いた顔をしていた。
本当は、指輪をあげる目的は感謝のしるしではない。
俺が作った、ということをにおわせることで、暗殺される可能性を少しでも下げられる、という期待を賭けた行動だ。
ただの役立たずじゃない、ということを母さんなら気づいてくれるかもしれないと思ったのだ。
「じゃあ、ガイア。頼んだ!」
「おう!任せとけ!」
ガイアはそういって、パッと走り出した。
「じゃあ、リン。学園に行こうか。荷物は…」
「学園のそばの街で買えばいいでしょう。寮に入りますか?」
「そうだね、学園はそこそこ遠いから」
「わかりました」
エリノア姉さんが部屋に入ってきた。
もう出るの?という顔をしていた。
「姉さん、俺たち今から学園で勉強してくるから、この家自由に使ってて。貸家にしてもいいし、住んでてもいいからさ!」
俺は姉さんに言った。
姉さんはちょっと寂しそうな笑みを浮かべた。
「貸家にはしないよ。長期休みがあるから、そこで帰ってきな」
「わかった! じゃあ、絶対帰ってくるね!」
俺は最低限の荷物を無限収納に突っ込み、残りの銀をネックレスにして姉さんに贈った。
姉さんは、こんな高価なものいらないよ!みたいな顔をしていたが、
「そのネックレス、売らないでね。ずっとつけておいて! 王国の紋章が入った飾りがついてるから、いざとなったときに役に立つと思う」
そう言って姉さんを押し切った。
「しょうがない、つけとくよ」
姉さんは、口ではしょうがないしょうがないといいながら、にこにこ笑っていた。
「では、行ってまいります!」
「行ってくる!」
俺たちは満面の笑みで手を振った。
「行ってらっしゃい!気を付けて!」
姉さんも、手を振り返してくれた。
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