俺が錬成したんだ
俺はがっかりするとかしょんぼりするとかを通り越して、もはや開き直った。
無職なら気が楽じゃないか?だって、補佐として過剰に期待されることもないし。
俺は、魔王討伐に行ければそれでいいんだから。なんならモンスターに殺されたっていい。
母さんが淡々と俺に告げた。
「ニーケ。では、今日も武術指南を受けること。いいな?」
いつも通りに接するよう意識をしているのはわかる。
でも、わずかに失望の色が混ざった声だったことを俺は聞き逃さなかった。
「はい、母上」
俺はできるだけ明るい声で答えるように意識を集中させて言った。
「さて、今日は技の練習をしましょうか」
エクセレスはびっくりするほどの無表情で俺に言った。
声に揺らぎもない。
もともと感情がない彼だったから今更驚くことはなかった。
ただ、いつもより声が冷たいように感じた。
そして、淡々と稽古が始まった。
「ただいま~」
「おかえりなさい、ニーケ様」
「おかえり~。今日は災難だったね~」
家に帰ると、リンとエリノア姉さんが迎えてくれた。
二人がとってくれたのは、俺に対しての失望を感じない対応だった。
自然と顔がほころぶ。
「ねえ、ニーケ。錬金術師って何ができるの?」
昼ご飯の用意をしながら、エリノア姉さんが俺に聞いた。
「え?わかんない」
俺は率直に言った。
名前をもらった時の記憶はない。残っているのはこの名前と職業だけだった。
だから、錬金術師が何なのかも、なぜアイテルという名前をもらったのかも、なにもわからない。
「伝説の通り、金が作れたりしたら面白いよねえ」
エリノア姉さんは俺に冗談交じりに言った。
「あはは、まさか。金なんか作れたらこの国の経済ぶっ壊れるよ」
俺も冗談で返した。
「せめて、金じゃなくて銀でも作れたらいいのにね」
姉さんがまた冗談で言った。
俺もそれに返そうとした。
「銀かあ…そしたら認めてもらえr…」
突然、俺の頭の中に情報がなだれ込んできた。
粒子が何個あってどのように組み合わさればいいのか。
設計図のように組みあがっていく。
その設計図が無数につながって出来上がったのは、
銀だった。
「ニーケ、どうしたの?頭でも痛い?」
姉さんが心配して俺に声をかけてくれた。
「姉さん、ちょっとそのボウル貸して」
「ええ、いいけど。なにするの?」
姉さんの問いには答えなかった。
答える余裕がなかった。
ボウルを目の前に置く。
目をつぶり、周りを意識しないように…
ボウルを構築する粒子一つ一つに意識を集中した。
粒子一つ一つが見えるような錯覚に陥る。
「銀になれ」
俺はボウルに手をかざし、銀の設計図を思い浮かべた。
粒子たちが俺に呼応するのを感じた。
一気に、脱力感が俺を襲った。
「二、ニーケ。まさか、まさかとは思うけどこれは…」
姉さんの声が聞こえた。震えている。
俺は目を開けた。
目の前にあったボウルが、いくつにも枝分かれした美しい銀白色の金属に様変わりしていた。
俺が作ろうと思った通りに、ボウルの粒子が動いた。
成功だ。
俺は姉さんを振り返り、満面の笑みで言った。
「そのまさかだ。これは、銀だよ。俺が錬成したんだ」
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