史上初の「無職王子」
「…ーケ様、ニーケ様、起きてください!」
「んあ、リンか」
「ニーケ様、朝ですよ?もうご飯もできていますし…」
「もうご飯できてんの!?ていうか、今何時?」
「朝の8時です…」
ああ、もう八時か。起きないと稽古に遅れる…
俺は起きて、伸びをした。
突然、リンが息をのんだ。
「二、ニーケ様…、その手の模様は…?」
手の模様…?
両手をくるくると回す。
俺は言われて初めて気が付いた。
左手の甲に、複雑な模様が出現していたのだ。
ベースは円。
中心には上向きの正三角形が描かれている。
何重にも重なった円の隙間に、何か文字が書いてある。
俺は目を凝らした。
読みにくいが、複数の単語が連なって書いてあるようだ。
「アイテル、ヘーメラ、モロ、ケーリ、タナト、ヒュプノ、ネイロ、モース、オイジュ、ゲーラ、エリー、ピロテス、アーパテ、ネメ、アトロ、ラケ、クロト、ヘス」
読み上げたが、何も思い浮かばない。なんだろう、人の名前かな。
気づいたら、リンがいない。
そろそろダイニングに行かないと怒られるかもな。
俺はそう思い、ベッドから立ち上がって服を着替えようとした。
突然、バンっと扉があいた。エリノア姉さんがものすごい勢いで俺のところへ来た。
リンも後ろからついてきた。姉さんを呼びに行ってたのか。
姉さんが鬼の形相で俺に聞いた。
「ニーケ、あなたのフルネームは?」
え、突然何を…俺の名前は
「ニーケ・ラドニクス・アイテルに決まってるじゃないか」
リンもエリノア姉さんも目を見開いた。
「朝ごはんは後でいい。城に行くわ。早くしなさい」
エリノア姉さんは俺にそう言い、早足で部屋を出て行った。
俺は雰囲気に押され、姉さんが出ていくが早いか猛スピードで着替え始めた。
「ほう、ニーケも名前が変わったか」
母さんは、楽しんでいるような顔で言った。
城に着くと、姉さんは俺の謁見を申し込んだ。
すぐさまエクセレスが出てきて、俺と姉さんとリンを連れて行った。
というわけで、俺らは今執務室にいる。
「ええ、女王様。ただ、いくつか問題がございまして…」
「なんだ?申してみろ」
姉さんは、一息ついて、決心したように言った。
「ニーケ様は『アイテル』という名前をもらったんです」
「「アイテル?」」
母さんとエクセレスは同時に言った。
「聞いた事がないな」
「ええ。王家の者がもらう名前としては、というか普通にこの名前は異質ですね」
俺は驚いた。博識な母さんもエクセレスも、この名前を知らなかったのか。
「ニーケ、この名前をもらった者の職業は何だ?」
わあ、急に話を振らないでくれ!えーっと、『アイテル』の職業?
「錬金術師です」
みんな知らないのか? まあ、そりゃ「アイテル」の名前も知らないのなら知らないか。
「「「「錬金術師?」」」」
錬金術師と聞いて、その場にいた人たちは俺に聞き返してきた。
「え、はい。錬金術師ですが…」
「信じられない…!」
「錬金術師?本当に?」
どうやら、錬金術師はものすごいレア職なようだ。
なら、もっと喜んでいいと思うんだが…なんでみんなそんなに苦々し気な顔をしてるんだ?
暫く経った。母さんが苦虫をかみつぶしたような顔で、俺を見た。
「えー、ニーケよ。大変いいにくいのだが…」
嫌な予感がする。
「なんでしょうか」
「錬金術師、という職業は、存在しない。
つまり、ニーケ、お前は」
母さんは一息おいた。
ああ、バカな俺でも母さんが何を言いたいかわかっちゃったよ。
「この国では、無職ということになる」
はい、予感的中。
俺は史上初の「無職王子」になったよ…
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