強い方がいいだろう?

「あのぅ、ニーケ様あ…」

俺が部屋に帰ると、リンが言いにくそうに切り出した。

「私、さっきの発表でニーケ様が街に行くって聞いたんですけど、本当ですか…?」

「うん。本当だよ」

リンがもじもじしているのがちょっと嫌で、俺はバッサリ言った。

リンはあからさまにショックを受けた顔だ。

「どうしたの、リン。ずいぶんショック受けた顔してるけど…」

俺はリンに聞いた。すると、リンが噛みつくように言い返してきた。


「当り前ですよ! 今までここで私が世話してきたニーケ様が! 街に行ってしまうなんて! ショック以外の何物でもないです!」

そういってリンはそっぽを向いてしまった。

「ごめん。ただ、俺が街に行くのは決定事項だから…」


「じゃあ私を街に連れて行ってくださいな!」

俺に最後まで言わせず、リンが言った。

俺は驚いた。リンは街などの人混みが苦手だと聞いていたからだ。

「大丈夫なの?」

「はい! ニーケ様のためなら人混みくらい克服して見せますよ!」

「じゃあ、お願いするよ」

「はい!」

ぱあっと輝くような笑顔でリンは言った。


トントン

扉をたたく音がした。

「誰だ?」

俺は剣を手に取ったうえで言った。一番仲良くなった戦士からもらった切れ味のいい剣だ。

小柄な俺でも持てるサイズだ。兄さんたちなら、俺を殺すために刺客を訪問者に見立てて送りかねない。


「宰相、エクセレスでございます。入ってもよろしいでしょうか」

宰相の声がした。俺は耳がいい。人の声を聴き分けることなんかは得意分野だ。

「いいよ」


扉があいた。エクセレスが入ってきた。

俺の持つ剣を見てちょっと目を開いたが、すぐに戻して俺を見た。

「女王様がお呼びです。至急、政務室へおいでください」

「わかった。わざわざありがとう」

俺がさっきの発表で含みのある言い方をした時のことを聞こうとしているのだろう。

剣を腰に差し、服装を整えた。

リンもつれていく。許可を取るためだ。


「母上、今参りました」

「女王様、お久しぶりでございます」

「ニーケ。来たか。それにリンも。久しぶりだな」

俺たちは最敬礼の姿勢で母さんに挨拶をした。

「顔を上げていいぞ。さて、ニーケは私がお前を呼んだ理由をわかっていることだろう」

「はい」

「では、なんと言おうとしていたのか聞こうか。お前の本当の夢は、街に住むことではないはずだ」


「私の夢は…魔王討伐に行くことです」


母さんは度肝を抜かれたような顔をしてまじまじと俺を見た。そして、大声で笑いだした。

「なるほど、実にお前らしいな。いいんじゃないか?補佐になるなら、最前線で状況を把握することも大事だろう。そうじゃないか?エクセレス」

「はい、女王様。それと、大声で笑うのはどうかと思いますが」

俺は驚いた。それなりに注意は払っていたつもりなのだが、エクセレスが来たことに気づけなかった。


「さて、じゃあそれも許可してやろうか。なら、ちょっと町の中心から離れたところに住むか?」

「それでは街の状況を把握しにくいと思いますが」

「それもそうだな。では、今から街へ行って、好きな家を探してこい。街の地理ならわかるだろう?」

話がトントン進みすぎだ。えっと、今から俺は家を探すんだっけ…

ていうか、やっぱり抜け出してたことばれてたわ…


「あ、母上。リンを連れて行くのは許可してくださいますか?」

「いいぞ。世話係として連れて行け。一人は付き添いがいると思っていたんだ。適任ではないか」

リンの顔が輝いた。よかったね…


「さて、家が決まったら城に戻ってこい。エクセレスに武術指南を受けるのだ」

「え、エクセレス様強いんですか?」

「何を言う。こいつは生粋のフェルムだぞ。頭はいいが、これはこいつの地頭がよすぎるだけだ」

え、え、マジで?こんな優秀なのに!フェルム!?

すごい、フェルムは筋肉バカっていう偏見が崩れたわ…


「でもなんで武術指南?」

「魔王討伐に出るなら必要だろう。それに…」

母さんの目がきらりと光った。

「補佐なら、なめられないくらい強い方がいいだろう?」

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