俺の夢は…
「母上、無礼を承知で申し上げます!」
憤懣やるかたないという様子で猛然と兄さんが立ち上がった。
「なんだ、ジェロ、申してみろ」
母さんは相変わらず涼しい顔だ。強い…
「なぜ私たちではなくニーケがインドルチェの補佐役なのですか!?
ニーケより私たちの方が成績もよく、国務などの手伝いもしているではありませんか!
私たちの方が適任ではありませんか!?」
兄さんはそれにかまわず続けた。隣でもう一人の兄さん、アロガンも頷いている。
うん。これに関しては俺も大いに賛成だ。
俺は兄さんより馬鹿だし、国務とかを手伝ってもないし。
時々こっそり街に抜けだして遊んでるし…戦士の人たちについて行って、魔物討伐の最前線で戦ってたりしてるし…フェルムの名前をもらったわけじゃないから強くはないし、正直時々足手まといだ。王家の人たちはみんな実戦しているわけないし…
王子としてどうなんだろう、俺…。って感じだから俺が補佐なんかやったらこの国滅びるぞ?
あぁヤバい、自分で言ってて心にダメージを喰らってる。
母さんは兄さんの的確な指摘にも揺らがぬ冷静さで答えた。
「なぜか?ニーケがお前らより公平な視点で物事を見られるから、というのが大きいな。
それに、ニーケはこの国の庶民の様子をよく見ているようだ。国政の上で、これはとても重要な役割を果たすからな。庶民たちの生活になじめるものが王の近くにいると政策は上手くいきやすい」
そういえば、宰相のエクセレスは庶民出身だった。国民に寄り添った政策を打ち出す女王として街のやつらにも半神格化されているような母さんのイメージは、彼によるものだったのか。
…というか、俺が街にこっそり抜け出してたの、ばれてた?
「学力や具体的な政策を打ち出すことに関しては、インドルチェがいれば問題ないだろう。
ニーケにはどのような政策を打ち出せばいいのかを打診してもらう。このような役割分担で政治を行えばよいと思っているのだが。どうだ?」
母さんの説明は部屋中に朗々と響いた。凄いな、このシチュエーションだけで説得力倍増だ。
…って待て。俺が説得されちゃだめじゃないか。俺は魔王討伐に行きたいのに!
補佐なんかになったら一生行けない!
「しかし、母上!ニーケが補佐になったら、彼にとっては少しかわいそうなのではないですか?
彼は、城の外で自由に暮らしたいみたいですから」
アロガンが嫌みのこもった笑みで言った。
こいつ、自分が補佐になりたいからって下手に出やがった!
俺が補佐になりたくないって点ではこう言ってくれるのはありがたいけど。
けどなあ、自分の野望のために俺を利用すんじゃねえ!
それに関しては母さんも予想外の方向からの攻撃だったようで、ほっそりした白くて綺麗な手を顎に当て、少し考えた。
美人って得だなあ。どんな格好も画になる。
「ふむ、ニーケは街で暮らしたいのか。それはまことか?ニーケ」
ひっ、え、俺今呼ばれたよね。心臓飛び出るかと思った。えっと、街で暮らしたいか…?まあ…暮らしたいっちゃ暮らしたいけど、本望はそれじゃないんだよね…
「え、ええ、まあ…」
「はっきりしなさい」
はっきりしろって言われましても!俺の夢は魔王討伐!でもこんなこと言ったら嘲笑の的だ!
「はい、私は街で暮らしたいです」
俺は含みのある口調で言った。鋭い母さんなら気づいただろう。
案の定、母さんは意味深な目配せをこちらによこした。これは、気づいてもらえたな。
「そうか…ではこうするのはどうだ?」
何も気づかなかったかのように母さんは言った。
「ニーケが街に住むことをゆるす。そちらの方が政策の打診はしやすいだろう。そして、ある程度安全の確保はした上で、ニーケの生活が自由になることを許そう。ただし、何か街や住民に問題がありそうならばそれは適時連絡すること。また、定期的に連絡はよこすこと。これで良いか?」
うーわ、これは抜け目がない。そして俺に有利な条件だ。兄さんたちの反論を許さないな。そして、俺が補佐にならない理由をすべて消した…
兄さんたちは行き止まりにはまり込んだネズミのような顔をしている。なかなかに面白い。反論できないようだ。
じゃあ、これで決定か…
「では、補佐役に第三王子、ニーケを指名する。異論はないな?」
予想通り。全員が最敬礼の姿勢を取り、賛成の意志を示した。もちろん、俺も…
「発表は以上だ。皆の者、大儀であった」
はあ、俺の夢は魔王討伐なんだけどなあ。前途多難だ…
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