12
【4】
――某キャンプ場、某コテージにて。
映像の始まりには、そのようなテロップが入った。おそらくドローンか何かを飛ばして撮影したのであろう。そのまま、キャンプ場を空から映したような映像が流れた。それをバックに、女性のナレーションが被さる。
『某キャンプ場――広大な自然に囲まれたキャンプ場です。テントサイトはもちろんのこと、オートキャンプサイトやコテージなど、様々な形態でアウトドアを楽しむことができます。その広さは東京ドーム4個半ほどになり、中央を有名な渓谷である某渓谷が縦断しています。夏ともなれば、家族連れを筆頭に多くの人達が集まる人気スポット。多くの方がアウトドアを楽しむ時期に、事件は起きました』
ベッドの役割も兼ねているソファーに腰をかけ、テレビを眺めていた出雲が口を開く。
「何でもかんでも
出雲と同じようにソファーに腰を下ろしていた小野寺は、しかし画面からは目を離さずに口を開いた。
「そりゃ、名前を出しちゃったら犯人が絞れてしまうからじゃないですか? 容疑者はたった8人しかいないわけだし、可能な限り情報を伏せないとクイズにならない可能性だってあるわけで」
意外なほどに冷静な自分に、小野寺は小さく溜め息を漏らした。ここに出雲と軟禁されてどれだけ経つか分からない。誰に軟禁されているのか、なんのために軟禁されているのかも分からない。強いていうのであれば、番組を視聴する【オーディエンス】という立場らしいが、どうして自分と出雲が選ばれたのかは不明。つまり、分からないことだらけだ。しかしながら、生きていくための最低限は確保されているためか、妙に開き直っている自分がいる。冷静にテレビを観ていられるのも、そのせいであろう。
『この事件の登場人物は、コテージにてアウトドアを楽しんでいた4人組です』
小野寺と出雲がやり取りしている間も映像は流れ、空撮していたドローンが、ひとつのコテージへと近づいていく。空から獲物を狙う鷹のごとく、物凄いスピードでだ。コテージは橋のすぐそばに建っており、おそらく中央を縦断するという渓谷のそばなのであろう。渓谷ということは――そこそこ川面まで高さもあると思われる。アウトドアはよろしいことだが、高所恐怖症の自分からすれば、ちょっとゾッとするような立地条件である。ひとつのコテージに寄った映像は、コテージの前でバーベキューらしきことをしている4つの影を映し出した。
容疑者は解答者8人のなかにいる。だからこそ、開示される情報は最低限に留められる。それに関して徹底していることを、再現映像を見て改めて実感した。
ドローンでの空撮は終わり、先ほど空から捉えた4人組へとカメラはフォーカスする。コテージの脇にてバーベキューをする光景は、夏などにはよく見るものであるが、炭火を囲む4人には、明らかに普通ではない部分があった。
――全員、全身タイツなのだ。下だけではなく上までも。それどころか、本来なら顔があるべき部分までタイツに覆われている。その色はとりどりであり、唯一目の部分だけがくり抜かれていた。黒、白、赤、青の全身タイツが、肉を焼く光景というのは、なかなかにパンチがある。
『この日、黒いタイツの
なんだか余計なナレーションが入ったような気がするのだが、とりあえずその辺は気にせずに状況を整理する。登場人物は黒井、青野、赤間、白川。タイツの背中にデカデカと名前が書かれているわけであるが、それぞれの色にちなんだ名前がつけられているようだ。むろん、これらは偽名。ここで本名を出してしまったら、クイズもへったくれもなくなる。
『キャンプ場に到着してバーベキューを楽しんだ後、それぞれが自由行動をするために、コテージから離れてバラバラになりました。時間にして、おおよそ午後8時くらいのことでした』
再現映像とのことであるが、なんというか――結構な手抜き感がある。映像が急に早送りされたかと思ったら、辺りが真っ暗になる。そして、4人は互いに手を振って、コテージの前から解散した。安っぽく見えてしまうのは、やはり登場人物が全身タイツ姿だからなのかもしれない。
『その後、自由行動を終えてそれぞれがコテージへと戻ってきました。最初に戻ってきたのは青野さん、続いて白川さんが戻り、赤間さんがコテージへと戻りました。この時点で時刻は午後9時を回っていました。しかしどういうわけか、黒井さんが戻ってきません。いずれ戻ってくるだろうと、改めて飲み直しを始めた3人ですが、しかしいつまで経っても黒井さんは戻ってきませんでした』
4人バラバラに散策へと出て、そのうちの1人が帰ってこない。この時点ですでに嫌な予感しかしない。
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