基礎魔術理論概要

@ssaotome

第1話 魔術とは内的な行為である

「ここに来たもの達には最早言う必要は無いと思うが、魔法とはあくまで内的な物に過ぎない」

雑多な人々がひしめく講堂の中、私は少々早口になりながら吐き捨てた

見回すと、疑問を浮かべたままの者や、明らかな軽蔑を向けた者

はたまた怒りを顕にする者と、まるで何かの縮図のような多様性が見て取れた

それを見ながら、分かるように嘆息し言葉を続ける

「あなた達が魔法と呼んでる物は、その1部の側面だけを取り上げているに過ぎないのだ」

少し間を置き、魔法とは何かと言う事を、図示しながら話し始めた


「例えば、目の前に火のついたロウソクがあったとしよう

それを脳がどう認識するのか?

光、熱などの情報を、様々な感覚器官から受け取り、情報として処理される」

ここまでは良いかと見回すと、特に疑問は無いらしい

ここからどうなるか分からないと言った疑問は見えるが、それは特に問題ないためスルーする

「では、その受け取った情報のみが存在すれば、その本人にはあるものとして認識される

そして、その要素を分割し、単純化し、符号化及び概念化する事により、君達の知る魔法として昇華されているわけである」

疑問を浮かべたまま何か言いたげな女性が目に入った為、指名し質問をさせた

「私の習得している魔法と言うものは、現象であり、他者に対しても影響を与える事が出来るのですが、それでも内的な物と言えるのでしょうか?」

彼女の言う事はもっともである

この世界に於ける魔法とは、何らかの現象を起こす技術(アート)として認識されており、それが人の脳が感じる情報の延長とは、流石に納得出来ないのであろう

「勿論だ」

私は鷹揚に頷くと、全体を見回した

少しずつ視線が集まるのを感じる

ようやく…

私は確かな手応えを感じながら、噛み締めるように言葉を紡いでいった



今から二十年ほど前、私は魔法という技術を発動させた

それはあくまで何か色々な要因が重なり合って起こった、1つの現象だったかもしれない

だが、その事から始まった騒動の数々は、今思い返しても、あの狂ったような、何かに扇動されたような、酔った光を目に宿す人々の、根拠の無い賞賛と罵倒は、人という種の根本を考えさせる何かを、私に見せてくれた



「そもそも魔法には、効果が及ぶ範囲がある事については、皆さんもご存知だと思います

その範囲こそが、内的な物だからこそなのです

そしてその起点も、あくまで行使する者が中心となる事実から、魔法とは行使者、ここから魔法士と称しますが、魔法士を中心に起こす現象に過ぎないのです」

私は疑問を消すよう、一つ一つ例を上げつつ説明していった

それが進むにつれ、疑問が解かれるもの、逆に深まる者とわかれていった


「1つ説明を忘れていました

物理現象とは物体に作用させて起こすものであり、魔法とは結果を上書きする事により現象を引き起こすものです

但し、上書きするのは現象その物でなくその場の認識に上書きします

よって、魔法とは須らく過去に影響を与える物に過ぎないのです」

流石にさざなみのようなざわめきが、静かに広がっていくのを、私は奇妙な物を見る感覚で見つめていた

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