蛇足その四 烈風VSヘルキャット
洗練された航空管制による迎撃態勢を確立、その恩恵を受ける第五艦隊のF6Fヘルキャット戦闘機は友軍艦隊からかなり離れた空域で日本の攻撃隊を迎え撃つことが出来た。
一方の烈風隊も同行している、あるいは前路警戒にあたっている複数の彩雲からの連絡によって情報戦で遅れをとることはない。
三一二機の烈風と三〇〇機のF6Fヘルキャット戦闘機は互いに同高度、そして正面からぶつかる。
F6Fの搭乗員に油断は無かった。
確かにF6Fの機体性能は零戦を凌駕するが、一方で日本の搭乗員は開戦からこのかた太平洋やインド洋、そして欧州で激戦を生き延びてきた手練揃いだからなめてかかれば痛い目に遭うことは間違いない。
だからこそ機先を制し、初手から主導権を握る必要がある。
低伸するブローニング機銃の高性能に物を言わせ、F6Fの搭乗員はかなり遠めから先手必勝とばかりに機銃弾を雨霰のごとく零戦の群れに撃ち込む。
一方、零戦はそれを軽々と躱しF6Fの背後をとろうとする。
F6Fの搭乗員もここまでは想定済みだった。
零戦の運動性能は明らかに自分たちを上回る。
だから、彼らはスロットルをふかし加速する。
あとは二〇〇〇馬力のR-2800がもたらす大パワーと太いトルクによって速度性能に劣る零戦を振り切ればいいだけだ。
だが、後方の零戦は引き離されるどころかぐんぐん近づいてくる。
信じられない思いでいるF6Fの搭乗員の目に後方の零戦の翼が光るのが見えた。
同時に、その正体に気づく。
後方の機体は全体のシルエットこそ零戦によく似ているが、明らかに別の機体だ。
「何が零戦の改良型だ! まったくのニューフェイスじゃねえか!」
罵声を吐きつつ急降下で後方の機体から逃れようとしたF6Fの搭乗員はそこで意識を吹き飛ばされる。
いくら防弾装備の充実したF6Fといえども、至近距離から吐き出される二〇ミリ弾の奔流をまともに浴びては持ちこたえられるはずがなかった。
技量に勝り、経験に勝り、そして機体性能で優越していれば、ほぼ同じ数の敵であれば負けるはずがない。
なによりF6Fの搭乗員らが烈風を零戦の改良型だと認識していたことがその勝敗を大きく分けた。
三〇〇機あったF6Fは最初の一撃で一〇〇機近くを撃破される。
このことで戦力比が一気に烈風側有利に傾く。
後は残敵掃討だった。
もちろんF6Fも反撃の爪や牙をもったれっきとした戦闘機だから不覚を取った烈風も少ないながら存在した。
それでも戦果は圧倒的だった。
F6Fはそのすべての機体が烈風に執拗に追い回された。
烈風の目的は戦闘機掃討だったから攻撃隊の護衛任務のように深追いが禁止されているわけではない。
最高速度も烈風が上回っていたから、その魔手からF6Fが逃れることは困難だった。
結局、助かったものは三四機にしかすぎず、二六六機ものF6Fが烈風が放つ二〇ミリ弾によって撃ち墜とされてしまった。
一方で烈風の被害はわずかに一四機。
キルレシオは一九対一だった。
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