蛇足その五 防空戦

 八隻の「エセックス」級空母からそれぞれF6Fヘルキャット戦闘機一二機にSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機三〇機、それにTBFアベンジャー雷撃機二四機。

 九隻の「インデペンデンス」級空母からそれぞれF6F一二機にTBF九機の合わせて七一七機からなる攻撃隊は零戦によく似た機体からの襲撃を受けていた。


 第一機動艦隊の一八隻の空母から発進した三六個中隊、四三二機の烈風だった。

 このうち第一艦隊と第二艦隊の一四四機の烈風が攻撃隊の護衛にあたる二〇四機のF6Fを抑え込みにかかる。

 搭乗員の技量と経験、それに機体性能に劣るF6Fは同数の烈風すら引きつけることが出来ない。

 味方の急降下爆撃機や雷撃機を護衛するどころではなく、それこそ自分の身を守るのに精いっぱいの有り様だった。


 その間に第三艦隊と第四艦隊の一四四機の烈風がTBFに襲いかかる。

 二八八機のTBFは烈風に対して防御機銃を振りかざして反撃するが、烈風は速度差を生かし次々にTBFに二〇ミリ弾を撃ち込んでいく。

 ただでさえ鈍重な機体のうえに腹に一トン近い魚雷を抱えているものだから、TBFの動きは見ていて同情を覚えるほどに鈍い。

 だが、それはそれとして烈風の搭乗員たちは容赦無くTBFに対して二〇ミリ弾を突き込んでいく。

 単発機としては破格の防御力を誇るTBFだったが、それでも二〇ミリ機銃を四丁装備する烈風に銃弾のシャワーを浴びせられてはさすがにもたない。

 烈風に対して二倍の数も何の意味もなく、わずかばかりの烈風を返り討ちにしただけでTBFはその戦力を消滅させた。


 二四〇機のSB2Cの末路も悲惨だった。

 第五艦隊と第六艦隊の一四四機の烈風に食いつかれ、SB2Cは次々に撃ち墜とされていく。

 先代のSBDドーントレスに比べて速度性能に優れるといっても、それでも烈風とは二〇〇キロ近い開きがある。

 それに上昇力も加速性能も雲泥の差だ。

 烈風は後方や直上、あるいは後ろ下方からまるで射撃訓練でもするかのようにSB2Cに二〇ミリ弾を撃ち込んでいく。

 それでも二〇機あまりのSB2Cが第一機動艦隊の前衛艦隊である第七艦隊上空にかろうじてたどりつく。

 同時に、烈風が次々に翼を翻してSB2Cから距離を取る。


 一方、SB2Cの搭乗員らはすでに空母への投弾を諦めていた。

 これ以上の進撃はどう見ても不可能だ。

 だから、狙うのは眼下にある艦隊、その中でもひときわ巨大な三隻の戦艦だ。

 その三隻の戦艦の中央部が明滅を開始する。

 従来の八九式一二・七センチ高角砲に代えて搭載された九八式一〇センチ高角砲が射撃を開始したのだ。

 「大和」と「武蔵」、それに「信濃」の三隻だけでその数は九六門にものぼる。

 さらに外周に展開する二四隻の「陽炎」型あるいは「夕雲」型駆逐艦もまたSB2C目掛けてすでに火ぶたを切っている。

 こちらは各艦八門、合わせて一九二門の同じく九八式一〇センチ高角砲による砲撃だ。

 これに「高雄」型重巡や「妙高」型重巡の合わせて三二門の八九式一二・七センチ高角砲、さらに「能代」と「矢矧」からは合わせて二四門の九八式一〇センチ高角砲が火を噴く。

 そして、それらは英国からぶんどった技術を流用した射撃レーダーをはじめとした火器管制装置によって照準されている。


 SB2Cからすれば災難だった。

 ようやくのことで烈風の魔手から逃れ、これから急降下に遷移しようかというときに鉄と火薬の正確極まりない暴風雨にさらされたのだ。

 二〇機あまりのSB2Cは一撃で半数を墜とされ、残った機体もまた弾片に切り裂かれ半死半生のような状態となる。

 生き残ったSB2Cは爆撃をあきらめ反転、帰路につくがそこへ多数の烈風がピラニアのごとく群がる。

 助かったSB2Cは一機もなかった。

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