第4話(本文〝西木 草成氏〟作)【恋の高身長】

「……し、死ぬ……」

「大丈夫、そう言ってるやつ大抵助かるじゃん」

「そうだけど……」

 と、真央が反論しようとしたところで。忍の動きが止まった、学校までの坂道のちょうど中腹。隣で隊列を作ってジョギングをしている集団。それは、バスケ部たちの朝練だった。

 大勢の男が走り去ってゆく中、その中でひときわ身長の高い男がそばで走っていた忍と真央に気がついた。

「よっ、相変わらず仲良いな。お前ら」

「よっ、相変わらず背がでかいな。勇太」

 勇太と呼ばれた男は軽く片手をあげ、軽く足踏みをしながら忍と真央に軽く挨拶をする。しかし、忍が挨拶しているのに対し真央は俯いたままである。

「……お」

「お? お腹でも痛いのか?」

「ち……あっ……」

 呂律が回らない、頭の熱が真上の太陽のせいではないことを真央は理解している。心配そうに覗き込む勇太の顔を直視することができない。しかし、次の瞬間。

(落ち着いて)

 耳元で、忍の優しい声が囁きかけてくれた。

 それが、真央の口の中で停滞していた言葉をなんとか紡ぎ合わせるきっかけになった。

「お……おはよう……勇太……くん」

「ん、おはよう。柊、それじゃ。教室でなっ!」

 たったそれだけの会話、たった十文字。一晩で四千文字を仕上げる売れっ子作家が頭をフルに回転させて紡ぎ出した言葉は、なんの変哲もないただの挨拶だったのである。

 そして、その挨拶とともに爽やかに彼は走り去って行った。



「ま、及第点かな」

「……ありがとう」

「何、いつも面白いもの読ませてもらってるお礼っさね」

 にこやかにグーサインを出す忍の顔を見て、彼女のように明るい性格だったらどれほどよかっただろうと心の奥底から思う真央だった。

「それにしても、勇者様は罪な男ですねぇ〜。こんな幼気な魔王ちゃんのハートキャッチしちゃうなんて。さっすが、自分の身の回りの人をモデルにして売れる小説をかけちゃうことはありますねぇ〜」

「……死ね」

「急に辛辣っ!?」

 忍を置き去りに校舎内に踏み込んでゆく真央。その姿は、少し臆病者のようで少し勇み足で。


 これは、何者でもない。ただのインキャなオタクの魔王が、勇者に恋をしそれを自分の物語で全力でプロデュース《表現》する物語。

 ドラゴンが出るわけでもない、

 世界が滅ぶわけでもない、

 人が死ぬわけでもない、

 ただの女の子が恋に落ちた人の言葉を紡ぐ物語である。

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