第3話【大きな秘薬】
真央は思っていた。
(……多少気分が悪くなるのみで済んでいるのは大きな秘薬……)
(ふつうは『大きな飛躍』とするところ……)
(……でもこれは脳内誤変換なんかじゃない。知らず知らずのうちに秘薬を。それも大きな秘薬を使えてしまうのがいまのわたし……)
(なぜならいまやここはわたしの結界。魔王結界ならぬ真央結界! 運さえも自在に操れるのがいまのわたし!)
息をゼエゼエさせながら声に出せないイタイ妄想にどっぷり真っ浸かり中の真央であったが、今この時これまで生きてきた中での最大級の運気に押し上げられている最中なのだからそれも無理からぬこと。むしろ真央は文筆業の端くれとして状況をより正確に描写できていたと言えた。
たゆまぬ自己改革の結果ここにたどり着いたと、そうした自負があれば『大きな飛躍』との表現で間違いない。
しかし真央的にはそれほどの自負は無かった。時々〝自己改革しなくては〟と思いつつも無理はできずふらふらと。〝これがもう限界〟と低めの値にセットされたリミッターを働かせつつたどり着いた場所がこの現在地なのである。
率直に、
(……の割に成果あがってんじゃん……)と感慨を込め思うしかなかった。
実際、『忍』という友人ができていたのである。あらゆることが上手くいき過ぎていた。
この状態が、まるでなにか〝魔法の秘薬〟でも使ったとしか思えなかった。
体力など無い。走ることはもちろん坂道を上に向かって歩くことさえ苦手。なのに急げ急げと急かされて無理にそのペースに合わせられているのに抵抗もできない。
朝から一生懸命に物理的にも背中を押してくれる友人がいる——
この友人は体力が有り余っていて付き合って行くには正直(手に余りすぎる)と思うところはあったが、これは真央にとって本当に嬉しいことだったから。
「ホラホラ真央真央急がないと」と、さらにぐいぐい忍に背中を押し上げられる。「一日たったの一回、一回しかないチャンスだよ真央〜」
実際今こうして急がされているのだって、れっきと理由がある。
(これはとってもありがたいことだから……)それを何よりも理解しているのは真央自身で、だけどありがたいんだけどとても恥ずかしくて、もうなにがなんだか解らなくなっていた。
息を切らしながら、
(……なん回やっても慣れない……)
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