第6話 ある冬の日
冬。
彼女が、来年からはちゃんと学校に通うと言い出した。
「だからね、今までみたいには、会えない」
「……とか言って、また、いつぞやみたいに土手でぽけーっと座ってるんじゃないの?」
「ふふ、君ってほんと、意地が悪いね」
ちっとも気分を害した素振りを見せずに笑う。県内でも有名な進学校の名前を口にして、「そこに行きたいの」と言う。
「……じゃあ、俺も。学校、行く。俺、同じ高校を受けることにしたから。今決めた」
「ふぇ?」
「……別に。貴女に会えなくなるのが嫌だからとかじゃ無い。貴女が出来るのに、俺に出来ないわけがないから」
彼女はまた、俺を幸せにする笑顔をする。
「あのね、」と彼女は何故か照れたように俯いて、「今更だけど、」と細切れに、言い出し難そうに紡ぐ。
「………名前を、教えてくれない? また会えるように、しっかり、連絡先も交換しようよ」
「………また、会えるから。大丈夫」
それは明らかな強がりだった。
本当は、知っていて欲しいし、これからも繋がっていたい。だけど、
今の俺では、進み出そうとしている彼女の足を引っ張ってしまいそうだった。ーーー彼女に愛されたいと想う、叫び出しそうなこの気持ちを抑えるのも、そろそろ限界に近かった。丁度、良かった。
「さようなら、
そう言って、別れた。
「私達、お揃いだね」ーーー彼女はよく、そう言っていたけど、全然、似てない。
立ち去る道に、あの小道が見えた。彼女が“別世界に繋がってるんじゃないかと思っている”なんの変哲もない、小道。
『この先に行くと、世界は変わってしまうんじゃないか、別世界にでも行っちゃうんじゃないかって、時々、想像しちゃう。つい、走り抜けそうになるんだよね』
彼女がその小路を指差して笑うと、俺はその指の先を目で追った後、再び彼女の方を向いてから眉を寄せた。
『………俺、現実主義者なんで。あと、あんな小路、走り抜けるなんて危ない。ふつーに迷惑』
『いや、そこは『そうかも知れないね』って言おう?!』
『ソウカモシレナイネ』
『もうっ! 本当に可愛くないッ!』
俺が、くくっ、と息を潜めて笑うと、それが珍しいことだったので、彼女はただでさえ丸い目を更に丸めて驚いた顔をした。
ーーー幸せだった。
それを、一旦、此処で終わらせよう。
このままじゃいけない、と思ったからで。貴女を諦める為じゃない。
正規の道を逸れて、その小道を抜ける。
ほらやっぱり。
抜けた先には、何の変哲もない大通り。
現実の世界。
だから此処で、生きていくしかない。
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