第5話 ある秋の日
秋。
彼女は、赤くなっていく風景を見るのが好きだと言った。花見ばかり騒がれるけど、本当は紅葉狩りの方が好きなんだ、と。
だから俺は初めて、彼女を誘って何処かに行こうかと考えていた。初めて、示し合わせて会う日を作ろうかな。どんな顔をするだろうか、なんて。
生まれ落ちて初めて、心が踊る日々を過ごした。ネットで近場の紅葉スポットを調べたりして。
けれど俺は、忘れていた。
彼女は、俺とは違う人間なんだと言うことを。
「あのね、この間、幼馴染み達が紅葉を見に連れ出してくれたんだ。電車に乗って、旅行した」
嬉しそうに語る、彼女。「はいこれ!」とお土産だと言って栞を渡される。……本なんて、読まないんだけど……。
「……ふーん、」
彼女は、そうだ。
『皆に心配をかけてしまう』ことを憂いていた。そうか。『誰か』がこの人には沢山居て、彼女の『特別』は、俺じゃない。
彼女を特別だと思っているのは、俺だけじゃないかも知れない。
胸の奥が、不穏を感じてざわめいた。
「
ああ、嫌だ。
その赤らんでいく頬に、誰だって、分かるじゃないか。彼女が誰を『特別』に思っているか。
「………告白、しないの?」
いつだったか、彼女にやっとの思いでそう訊いた時、彼女は泣きそうな顔をして、言った。
「しないよ。この恋は、毒みたいなものだから」
何が? 何処が? 何で?
そう思ったけど、言及しない。彼女が、そう思っている内が俺にとっては都合がいい。そのまま、そいつは彼女の気持ちを知らないまま、どこぞの誰かと付き合ってくれ。と、初めて俺は、カミサマって奴に願った。
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