第5話 貴方のことが思い出せない…

 勇志の話を聞いても、私が記憶を失った日の事をはっきりと思い出すことは出来なかった。

 それでも、イメージしながら聞いた場面の節々に、リアル過ぎる映像や感覚が過ったりした。

 夏の暑い日。

 夏祭りは彼女と行くと言う、最愛の人。

 頭を殴られたような衝撃。

 信じたくない。この場に居たくない。受け入れられない。泣きそう。泣き顔を見られたくない。飛び出した。クラクションの音。車。あ、と思った。立ち竦む。ドン、と鈍い音。次の瞬間には、朝陽がーーーー……。


 ああ。


 私のせいで、朝陽が……最愛の人が、死んだのかと思った。



「誰も愛してくれないなんて思ってるのなら、俺が貴女を愛すよ」



 なんで、今、その言葉を思い出すの……?

 あれ、違う。この言葉を紡いだのは、朝陽じゃない。


 ああ、朝陽が死んじゃう。

 死なないで。

 貴方には、生きていて欲しい。


「そんな無責任な言葉を紡いで、あんたはどう、責任を取るの?」


 ひねくれた。

 その寂しい、死にたがり屋。

 ああ、なんで、貴方の事が思い出せない。




 


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