第2話 side:舞乃七(なーちゃん)
「何? どういうこと?」
あんたが告白してもふられたり、
告白されたりしないのはそれを邪魔してる奴がいるから。
ラブレターを捨てたり、
告白しようとしてた奴を脅したり、
告白した相手を脅したり、
そんなことをする奴がいるから
華夷奈はモテないって勘違いさせられてるだけなの。
ほら、そんなこと考えてたらアイツのお出ましみたい。
「キャァァアアア!! カッコいぃぃ……っ」
「相変わらず、なんてタイミングなんだか……」
「なにか、おっしゃいましたか?」
背後におぞましい気配を感じて振り返ったときにはもう、
悪魔の顔はなかった。
「別に、なんにもないわーー」
「ねねねねねっっ、華乃さんその人誰なの!?!?」
うちの声を掻き消す甲高い声の主は 猛禽類のように
目をギラつかせていた。
(あーあ、自分から毒牙にかかりにいっちゃって)
だけど、粉かけてもどうせ意味もないんだけど。
「あたしの、お「彼氏です♪」」
「ええぇぇぇ!!!!」
だってその証拠にほら、
こんなことを言って周囲を困惑させた張本人は
にまにまと相好を崩してこの状況を楽しんでる。
(やっぱり相変わらずね)
「違う違う。あたしの弟です」
「華乃さんにこんなカッコいい弟さんがいたなんて……
ね、ねぇ華乃さん?
わたしたちっておともだちよね、よかったらそのぉ、」
「ごめんなさい。俺、あなたのこと好きじゃないです」
「まだ告白だってしてないのに、瞬殺……」
肩をすくめるクラスメートに
彼は笑顔で答える。
「すみません。だって、俺が好きなのは姉ちゃんなので」
「要するに、蒼はシスコンなの」
「はは、仕方ないですよ。
だって、姉ちゃん以上に素敵な人なんて、そんな人いませんから」
ほんの少しだけ照れたように頬をかく仕草も
わざとやっていることなのだろう。
口の端が卑しく持ち上がっていたのを
見つけてしまったから。
「~~にしても、小6とは
全く思えないほど成長してるよね、蒼」
「ええ~~!!
しょ、小6…………小6に告白しそうに、」
クラスメートは頭を抱えているけれど、
彼相手ならそれも仕方ない。
ずる賢さも腹黒さも社交力も大人顔負けで、
容姿だってそこら辺の中学生男子より
大人びていて整っている。
(外面だけはいいのよねえ、コイツ)
「はい、姉ちゃんのために成長したんです」
「んもぅ、そんなふうにおだててもなにも出さないよ?」
「それは残念」
冗談めかしに笑ってみせたのは
あながち本心だったかもしれない。
彼は本当に華夷奈のことを大事に思ってくれてはいる。
だけど、その愛情表現はひどく歪んでいて
他人事だとしても口を挟まずにはいられなくなるほどだった。
言わずもがな、
華夷奈の恋路を邪魔しているのは彼こと蒼夜。
けれど、彼のずる賢さと華夷奈の天然が相俟って
彼女はこのことに気がつかないでいる。
なにも知らず、
自分はモテないと思い込んでいる彼女を
憐れには思うけれど……、
「あ、蒼夜くん。
そろそろチャイム鳴りそうだから、
初等部に戻っていった方がいいんじゃない?」
「そうですね、そうします。
教えてくださりありがとうございます、ななさん?」
黒き脅威が立ち去り、
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、
「ちっ……あの女のせいで」
華夷奈や他のクラスメートたちには
聞こえていないようだったけれど、
うちは確かにその毒を耳にした。
(やっぱり、このままじゃダメだ)
「んぅ? どしたの、なーちゃん」
「なんでもないわよ、華夷奈」
あどけない顔して首を傾げる彼女を思って、
うちは決意を固めていた。
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