第3話 最後の夜
ドキッとした。
「そこにいるのは誰だ!俺の両親を知っているだと?!」
(こんな事になるなら、帰り道に両親のことを考えるんじゃなかった。)
もし考えていなければ少しは鈍感でいられただろうに。
扉から誰か出てくる。
(俺、ここで死ぬのか?)
閉まった扉を背に俺は無意識に後退りをした。
ほんの一瞬の間に色んなことを思った。
ただ、俺が完全に安心するのも割と一瞬だった。
「何よ!おっきい声出して!」
扉から出てきたのは俺が想像していたイメージとは遥かにかけ離れた人物だった。
「え、、、あ、、瀬奈?!」
そこにはなぜか沙那恵さんと昭久さんの娘であるはずの瀬奈がいる
だが、俺が聞いていたはずの声は確実に瀬奈とは別人の声だった。男の声だ。
「神斗?どうしたのよさっきから。」
人懐こいコイツを危険に晒す訳にはいかない。
「瀬奈!危ない!こっちに来い!!」
すると俺の声の途切れた途端、またあの声がした。
「俺と一緒に来てもらおう。」
散々舐め散らかした演出だ。心底頭にくる。
「俺をどこに連れて行く!姿くらい見せやがれ!!」
すると急に瀬奈が俺を見て笑い出した。
まるで俺が滑稽であるかのように、、、。
「あっは!神斗なんでテレビと話してんのよ。」
一瞬、瀬奈がいったい何を言っているか訳が分からなかった。テレビ、、、?。
……
どうやら声の正体はリビングのテレビらしかった。ちょうど瀬奈が俺を迎えに扉を開けた時、サスペンスドラマが放送されていたらしい。
「ってことはつまりだ、、、。俺、玄関で大声でテレビと会話してたのか?」
「そうだよ!本当びっくりしたんだから!!」
本当にけしからんテレビだ。企業絡みで俺に羞恥心を植え付けようと、、、。
ってんなわけないか。
「ところで、神斗それ何?」
俺が学生カバンと重ねて右手につらさげていたコンビニの袋を指差して瀬奈は言った。
「今日アラームが鳴らなかったんだ。多分、電池切れだと思うからまぁ、あって困るもんでもないし買って来た。」
その瞬間、瀬奈は少し顔色を変えた。
やっぱりな、、、。
「そうだ、瀬奈の好きなこのお菓子も買って来てやったぞ。」
瀬奈は少し喜んですぐに顔を伏せた。
それから小さな声で「ありがとう。」とだけ言うと、お菓子も受け取らずにトイレへ駆けて行ってしまった。
現役高校生が言うのもおかしな話だが、まったく『お年頃』っていうのはけっこうなもんだ。
それから少し経って、俺が部屋で勉強をひと段落つけてくつろいでいた頃に部屋の扉を『誰か』がノックした。
「はいよー?」
俺がそう言うと、その『誰か』は俺の部屋に入って来た。瀬奈だ。
「どうした?」
大体話の流れは分かっている。
「あの、ごめん。時計のアラーム、止めたの私、、、。」
だろうと思ってた。
まぁ可愛らしいことだ。アラーム程度。
「そうじゃないかって思ってたよ。まぁそもそも確かに朝アラームは鳴らなかったけど、時計はしっかり時間を刻んでたからね。」
「ごめんなさい。」
こいつはいつからか俺の事を『お兄ちゃん』としたってくれていた。最近は歳のせいかその呼び方はあまり聞かないが、、、。
そして、それよりも前から隠し事がめっぽう苦手なやつだった。いわゆる正直者だ。
「大丈夫だよ。でも、どうしてこんなことしたんだよ。」
「一緒に登校しようと思って、、起こしに行ったの。でも全然起きてくれないから、、。」
なるほど、、。
それにしてももう泣きそうだな。そろそろ雰囲気を変えないと。
「そうだったのか!ごめんごめん。じゃあ明日一緒に行こう!」
「ありがとう」
大分掠れた声だったが、感謝の気持ちが抵抗なく俺の心に入って来た。
「おう!」
ちょうど一件落着し、ほっこりあったかい気分になった時、下のリビングから沙那恵さんの声がした。
「ご飯ですよ〜。」
俺と瀬奈は顔を見合わせた。
そこで俺は瀬奈にこう持ちかけた。
「よし瀬奈!どっちが先にリビングに着くか勝負な!!」
俺は瀬奈に今朝の古河のように言い放っては自分の部屋から飛び出した。
古河ほどではないが、体力にはそこそこ自信はあるししかも距離はそう長くない。
スタートダッシュがモノをいう『廊下ダッシュ』においてこの状況は勝ちも同然だ。
しかも相手は1つ下の女と来た。
「瀬奈さんよ!勝負ありだぜ!!」
階段を降りきり、リビングの前で立ち止まって後ろをみて言うと案外瀬奈はすぐ後ろにいた、、、。
「うおおぉぉ!神斗〜!!」
瀬奈はものすんごい剣幕で俺へ突進し、ぶつかりそうになったのを避けようとしたのだが、そのまま2人倒れ込んでゴールインした。
今日は倒れ込みゴールインの日かなにかなのだろうか。
「あらまぁ、あんたら今日はえらく元気じゃないのさ〜。」
部屋には、ほっこりした笑いと共にご飯のいい匂いが漂っている。
「ただいま〜。」
昭久父さんの声だ。
「あなたおかえりなさい。」
「おかえりー!」
「おかえりなさい父さん!」
本当の両親は失ってしまったが、せめてこの新しい家族だけは俺が自分の力で守りたいと、心の奥で強く思った。
でも、いつかは俺の本当の『父さん、母さん』がどこへ消えたのか、何があったかも俺の力ではっきりさせたい。
……
「あぁ〜、ほんと疲れた。」
部屋の明かりをけして、ベットに横たわって目を閉じ、一日の出来事を思い返していた。
不思議な日だった。
特にあの「お前の両親を、知っている」が頭から離れない、、、。
少し考えこんで、瀬奈との約束を果たすためにアラームをいつもより少し早く設定した。
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