第2話 勿忘の日

あの日も今日のような吐息も白くなるような寒さで、家に帰ったときの温もりを心から痛感するような、そんな季節のある日だった。


俺は突然、その温もりを失った--。


……


学校が終わったあと、いつも通り友達の家へ少し寄り道をして話して、重いランドセルも気にせず真っ直ぐに家へ走って帰った。


「あれ?」

ドアは鍵がかかったままだった。いつもなら母が開けておいてくれるが、たまに忘れている事もある。


「ただいまー。」

勢いよくドアを開けだが、そんなあの頃の俺の心とは相反するように、部屋は暗く寒かった。


「お母さーん。なんでストーブも電気も消してるの?」返事は愚か、うんざりするほど聞いていた洗濯機の音、食器を洗う音、テレビの音すらも一切聞こえない。


最初は買い物に出かけただけだと思っていた。ただ、その場合でも母は電気は必ずどこかつけて出て行ってくれる。


だいいち、そういえば帰ったとき家に車が止められていた。母は買い物に行く時は必ず車に乗って行く。


他の用事かもしれないから一応待った。でも、どこか幼いながらに嫌な予感はしていた。


結局、一日中帰ってこなかった。

母どころか父も、、、。


とりあえず父の職場に確認の電話をした。

しかし職場ではもう帰宅した事になっていた。


その次に警察へ電話をした。

あとは、おじいちゃん達、親戚にも。


突如として、たった半日の間に両親は俺の知り得る世界から忽然と姿を消した。


両親がいなくなってからは、すぐに田舎の父の兄妹である沙那恵さんとその旦那さんの昭久さんの所に預けられた。


沙那恵さんはとても綺麗で優しく、昭久さんも生き物にとても優しい寛大な心の持ち主だ。


父がこんな目にあって妹である沙那恵さん本人も大分辛いはずだが、俺の前ではその様子も全く見せなかった。その上この2人は俺を大切に養ってくれている。


それからは何不自由なく学校にも行かせてもらっている。


……


そうか、もうあれから6年経ったんだ。

本当、時間は残酷なほど早いよな。


「ただいま帰りましたー。」


古河に散々走らされたおかげで今日はもうヘトヘトだ。


靴を脱いで家へ上がった途端、リビングの扉が開いた。


中で誰かが話しているようだ。聞き覚えの無い声だがいったい誰だろう。


するとその声の主は扉の向こうでこう言い放った。



   「お前の両親を、知っている。」








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