第4話 にになる?
…ぷはっ。悪いな。ひと息に話したら、喉が渇いちまった。アンタも何か飲んだらどうだい?…そうかい。喉が渇いたら、好きに飲みなよ。
…えーっと、それでどこまで話したかな?
そうそう。オレたち
いや、会ったというか…。まさか怪異だなんて思わず、他の人間にするのと同じように成り変わっちまったんだけどな。
相手のDNAを取り込んで、本人は姿を見せつける。そうすりゃ、徐々に影が薄れて、いつの間にか、煙みたいに消えちまう。オレはそいつの振りをして、生きていきゃいい。
いつものことだった。
だが、そいつに成ったつもりが、そいつとは全然違う姿になっちまった。実はそいつ、別の人間の皮を被ってやがったんだ。そういう“成り代わり”方をする怪異でな…。たまげたね。オレたち以外の“成り代わり”の怪異に出会ったのは、初めてだったから。
オマケにそいつの中身、つまり心の中もオレたちとは違ってた。ハッキリ言って、ただの人間みたいだった。
…ん?なに、何でそいつの心が分かるのかって?
オレは成り変わった相手のことがツルンとバッチリ全部分かっちまうんだよ。さっきも言ったろ?
姿を映すだけじゃなくて、これまでの経験も記憶もお見通しなんだって。
で、そいつも何人、いや何十人もの人間を殺して、成り代わってきたんだけど、未だに殺すことに罪悪感を覚えてんだ。オレらと同じ、人を殺して成り代わる怪異のくせに、人間の都合まで気にしてやがるんだ。
それに、殺す相手もわざわざ現代の人間社会で“悪”とされるようなヤツばかり選んでやがった。しかも、そこまでしたうえで、まだ苦しんでんだぜ。馬鹿みたいだろ?
でも…。でも、何だろな。
…うん。そう…だな。うん、オレはアイツが……気になっちまったんだろうな。
オレたちにとっちゃ、人間なんて食料と大差ねぇハズなのに、必死になってるアイツがさ…。
それまでは、古い“成り代わり”の相手の情報をあんまり長く置いておかなかったんだがな、アイツに成って以来、全部忘れないようにしてんだ。おかげでいつでもいろんな顔に变化できるぜ!まさに佰貌怪よ!ははははは…。オレも馬鹿みてぇだろ?
でもな、それで気づいちまったんだよな…。
アイツが必死に守ろうとしてた人間自身は、対して他の人間を大事にしてねぇっことにさ。
なんか、可笑しな話だよな。
怪異のアイツが必死に守ろうとしてる社会は、人間たちにとっちゃ、対して大事じゃねぇんだよ。
むしろ、オレたち佰貌怪にとっての人間社会と対して変わらねぇ。自分が幸せに過ごせたら、何でもいいんだよ。
いや、間違っちゃあいねぇと思うんだ。弱えヤツが自分のことを守るので精一杯なのはしょうがねぇ…。
でも、オレが狙ってんのは所謂、富裕層だぜ?どうして、余裕ねぇんだよ…。どうして自分の利益を出すことが先に出るんだよ…。目に視えるメリットがなきゃ、何もしねぇってことかよ…。
アンタら悪魔だって、ウンザリしてんだろ?!
…悪い。熱くなっちまった。
…いや、その…まぁ、そんなこんなで、あっちこっちでつまみ食いを重ねてたってワケ。悪かったよ。
別に人間どもの社会をぶっ壊すつもりじゃねぇし、アンタら悪魔の仕事の邪魔するつもりもねぇ。
今後は控えるから、今回は見逃してくれ…って、何かアンタの髪…透けてねぇか?
いや、いくら銀髪だって言っても、さっきはこんなに……おいおいおいおいおい!身体も透けてきたぞ!?
まさか…。さっきオレの飲み物に血か何か混ぜやがったな!!やめてくれ!アンタみたいな大悪魔を食っちまったら、いくら何でもオレの自我が壊れ…。
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一陣の風とともに、占い師の女性の影は消え去った。美しい銀髪をはためかせて。佰貌怪の男は脱力したように机に倒れ込む。
その拍子に、彼女の商売道具のひとつらしき鏡が落ち、破片が飛び散った。夜道に散らばる無数の欠片。そこには夜空の星が映っていた。空の輝きには敵わなくとも、暗い道でも星は輝く。いくつかの欠片には割れた月もひっそり覗いている。夜が明けるのはまだ先か。
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