第2話 でなし

 翌日。

 憑物が落ちたように、久々にさっぱりした朝を迎えたごんが教室へと向かうと、例のクラスメートはなぜか休んでいた。

 つい、ごんはホッとしてしまう。見なければ、彼のことを、彼を殺したこと思い出さずに済むと…。だって、あれは夢なのだから。

 ぶるっと彼は身震いした。

 人を殺した罪悪感は凄まじく、思い出したくはなかった。もう二度と殺人なんてしたくない。たとえ夢の中だとしても。


******************************


 そうして、平和な一日を終え、何事もなく帰宅した。しかし、自室に戻った彼は首を傾げた。

「…何かがいつもと違う」

 そう。匂いだ。つぅーんと鼻につくような…。気のせいだと思い直し、クローゼットを開いた彼の目の前に、それ原因はあった。


 はじめは、肌色のレインコートに見えた。買った覚えのない悪趣味な雨具。頭から爪先まで覆うことの出来るそれは、頭部に毛髪まで生えている。

顔にすっぽり空いた瞳の穴から暗闇がこちらを覗き、ダランと開いた歯の無い唇からはハンガーのフックが飛び出している。

 綺麗に剥ぎ取られたその皮は、まぎれもなく休んでいたクラスメートのものだった。


 ゆっくりと彼は昨夜のことを思い出す。

 冷たい血が静かに沸いて、頭蓋の中でチャポチャポ揺れる。鼓動と思考はバラバラに。

 ただの肉塊となった元友人を慎重に丁寧に剥いだ記憶。あれは夢ではなかった。

 夢はうつつで、人でなし。人をだまして成り代わる。人を真似して、嘘をつく。

 おのれすら騙くらかした天邪鬼はギュッと拳を握りしめ、じっとその場にしゃがみ込む。


 窓の外は逢魔が時。世界が藍に染まる前。不吉に染まる金の暮れ。

 彼はひとりの天邪鬼。人をかたる人でなし。彼は下の世界へ落ちる  Amano in Underground  

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