15.モナとジャンヌ

そして、ジャンヌが語った事実はモナには信じられないことばかりだった。

 例えば教会がジャンヌの聖女としての力を利用していたこと、そして、魔王の住む街でその力を暴走させようと企んでいたということなのだ。

 だって、これじゃあまるで魔王やデスリッチの方が正しくて、自分たちが守ろうとしていた人間の方が悪みたいではないか……

 だけど……



「電撃は発生していないようね……」

「はい……その……もうちょっと威力を強くてもいいんですよ」



 何かを期待するような目でジャンヌが見つめてくるが気にしないことにした。これが証明していることはジャンヌが語ったことが事実だという事である。



「それで……あなたはデスリッチに助けられたから恋をしたのかしら?」

「いえ……それは違います」

「え、じゃあ、なんで……」



 だって、あいつは骨である。骨なのである。大事なことだから二回言った。

 そもそも、聖女である彼女が最も憎むべきはずのアンデッドであり、かつては敵だったのだ。助けられて恋をしたというのならばわかる。


 だけど、彼女は違うという。



「あの人は私に触れてくれたんです。力に目覚めてから誰も触れることができなかった、私に……」



 ジャンヌはまるで宝物をみせるように、デスリッチに初めて触れられたであろう豊かな胸元を目を輝かせるように見つめる。そして、その顔は赤く上気しており、まるで……いや、まさに恋する乙女の表情で続ける。



「彼の体はひんやりとしていましたが、久しぶりに他人に触れることができたことは、私にとって何よりも嬉しいことでした。そして、彼はその後も私の我儘に苦笑しながらも付き合ってくれて……そして、私を助けてくれたんです」



 ここにアルトがいれば「いや、お前がしつこく付きまとったからデスリッチもあきらめたんじゃ……」と突っ込みをいれたであろう。だけど、そんなことを知らないモナはジャンヌの言葉を信じた。

 こうして外堀を埋められデスリッチの逃げ道はなくなっていくのである。



「だったら、私たちに前もって相談をしてくれればなんとかあなたに触れる方法も探したわ。教会からだってあなたを救うことはできたはずよ!!」

「そうですね……あなたもアリシア優しい。そして、ホーリークロスは私に負い目があります。ですが、その間、誰が魔王軍と戦うのですか? そして、勇者であるアリシアや、大貴族であるモナが教会を敵に回せば人々同士で争う可能性だってありました。それは私にとっても救いにはなっても、人類にとっての救いは遠のく可能性につながるでしょう」

「それは……」



 ジャンヌの言葉にモナはなんと返せばよいかわからなくなる。魔王が穏健派だった。それはあくまで結果論だ。少なくと四人で勇者パーティーとして冒険している時は、アグニは立った一匹で国を滅ぼす恐ろしい邪竜だったし、デスリッチもアンデッドを率いる厄介な魔物だったし、エルダースライムは分裂体を駆使して人類の情報を集めこちらの先手を取ってくる厄介な敵だった。ウィンディーネは……よくわからなかったけど……

 ジャンヌのいう通りあの時に自分たちが彼女を救うために動いていたらどうなっていたかなんてわからない。



「だから、これは仕方ないことなんですよ……」

「だけど、私はあんたに相談してほしかったわ!! 確かに私やアリシアじゃあ、余計なことをしてしまったかもしれない。だけど、私はあんたのために悩みたかったし、あんたのためにできることを話し合いたかった!!」

「モナ……」



 モナの悲痛な叫びにジャンヌも顔を歪める。



「私の……私たちの考えを勝手に決めないでよ!! 確かにあんたの言うように私たちは暴走しようとしていたかもしれない。だけど、そうなったらホーリークロスなら必死に止めてくれたと思うわ!! 知ってる? あなたを私たちのパーティーに誘ったのはホーリークロスがどうしてもってアリシアに頼み込んだから声をかけたのよ。教会は嫌がっていたけど、無理やり仲間に加えたの!!」

「え……? あの人が……」



 予想外の事実にジャンヌが聞き返す。だってアリシアたちは自分の力が魔王たちとの戦いに役に立つから声を掛けてきたのだと聞いていたからだ。

 そして、教会は聖女が勇者パーティーの一員となれば権威が高まる。だから、自分が勇者パーティーに入ったのだと思ったのに……



「ほら、あんたの予想外のことだっておきるのよ」

「ですが……私はあなたに……あなたに迷惑を掛けたくはなかったんです。はじめてだったんです。私を聖女として、ではなく一人の仲間として受け入れてくれたのは……だから、あなたたちに迷惑を……」

「迷惑なんかじゃないわよ!! だって、仲間なのよ!! 相談してくれたら嬉しいに決まっているじゃない!!」


 

 ジャンヌの言葉にモナはぜんぜんわかりあえてなかったのだと悔し涙を流しながら叫ぶ。そして、電撃が発動しないのを見ていたジャンヌは……



「モナ……私は……」



 自分が致命的な思い違いをしていたことに気づく。ああ、そうだ……自分は彼女たちに少しだが距離をおいていた。だけど、彼女は……彼女たちは自分と距離を詰めようと一生懸命頑張ってくれていたのだ。それに気づいて……自分を救おうとしてくれた人がいたという事に気づいたジャンヌは涙を流すとモナが優しく抱きしめてくれる。

 絶対領域を制御できるようになったので人に触れることはできるようになったジャンヌだが、過去のトラウマを思い出し、デスリッチ以外の人や魔物に触れることは避けていたこともあり、久々に触れる人肌は何とも暖かく優しく感じた。

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