12.モナの叫び
しばらく歩いた広場のベンチでモナはいた。その後ろ姿はどこか寂しそうだ。
「モナ……」
「いつもそうなの……アリシアだって私に相談してくれなかった。ジョンだって、置手紙だけのこして、王都から出ていっちゃった……」
声をかけるとこちらをふりむくことなく震えた声でモナが放つ独白が響く。今の彼女はどんな表情をしているのだろうか?
全てを知って黙っていた俺の言葉は彼女に届くのだろうか?
「ねえ、私はそんなに頼りない? そんなに信用できないのかしら?」
振り向いていたモナは泣いていた。確かに俺たちはアンダーテイカー家特有の思い込みの強さを恐れて彼女にはきちんと説明をするのを避けていた。
それはモナに余計な誤解をさせないための優しさだった。いや、優しさだと思い込んでいた。だけど、彼女は誰にも相談されないことを傷ついていたのだ。
「だったら……話を聞きに行こう」
「でも……」
「モナだってこのままじゃいやだろ? ジャンヌの本音を聞きたいだろ」
「それは……」
「お前は今本音を隠されて傷ついているのに、誰かの本音から逃げるのか?」
「……」
モナの表情を見ればこいつが本当にどう思っているかなんて鑑定なんかしなくてもわかる。だから俺は彼女の逃げ道をふさぐ。
「私……聞きたい……あの子の口からなにを思っていたのか聞きたい……」
そして、ジャンヌも同様だ。あいつのことも逃がさない。俺は二人に真正面から話す機会を作りたいと思う。
「ああ、任せろ。だったらちゃんと話す機会をやるよ。だから、泣くなって」
俺は優しく微笑みながらモナのほっぺたをぷにぷにとする。マシュマロのような柔らかい感触に思わずほほがにやけそうになる。
「ぷにぷにしないで! だけど、サティさんやアリシアがあんたに心を開いた理由がちょっとわかった気がするわ」
「ふふん、俺っていい男だろ」
俺が得意げに笑った時だったらぞくりという寒気と共にすさまじい殺気を感じて思わず表情が固まる。この感覚は……
「そうでしょうか……? 大切な彼女が一生懸命仕事をしている時に他の女性のほっぺたをぷにぷにしている方がいい男だとは思いませんが……」
「「ひぃぃぃぃぃ!!」」
地獄の底からでてくる怨霊のようなサティさん声に俺とモナは思わず情けない悲鳴をあげる。いや、俺はともかくお前は元勇者パーティーだろうが、びびってるじゃねえよ!!
「違うのよ、私はNTRなんてするつもりはないわ!! 私の尊敬すべきオベロン様の名誉にかけて言えるわ」
「オベロンの名誉なんて、あんなのオークに宝石と同じで価値がないですよ!!」
「いや、これは泣いているモナを慰めるだけでですね……」
すっかり拗ねてしまっているサティさんを俺とモナが必死に宥める。しばらく唇を尖らせていたが、小さくため息をつく。
「……じゃあ、私も頑張ったので頭を撫でてください。そうすれば、ちょっとだけ許してあげます」
「はい……完全には許してくれないんですね……」
「えへへ……たくさんデートをしたら許してあげます」
サティさんの頭をなでるとむっちゃ幸せそうに顔をする。まあ、可愛いからいいか。そして、俺たちはモナとジャンヌの仲を取り持つ作戦をねるのだった。
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