9.デスリッチの策略

サイン会場に響くデスリッチの言葉を聞いて俺は焦っていた。一体何がおこっているんだ? だって、計画ではサイン会でデスリッチがジャンヌに土下座して、モナには『ジャンヌは魔王軍の過激派であるデスリッチを倒すために『愛奴隷ジャンヌ』として潜入し、見事人と魔物の架け橋となることに成功した』と説明するはずだったのだ。



「あなた……これはどういうことですか? デスリッチは何を考えているのですか?」

「ぷるぷる……拙僧は悪いリッチじゃないよ……あれなんです。生サティさんを見れると聞いてデスリッチ様の身代わりをしていただけなんですぅぅぅ!! てか近くで見るとおっぱいでっか!! サインをもらっていいですか!!」



 こいつサティさんファンクラブの会員かよ!! 無茶苦茶申し訳なさそうに、だけど図々しいお願いをするリッチにサティさんはため息をつきながらもサインを書いてあげている。

 流石、俺の彼女優しいな!! でも、残念だったな。その胸はスライムだぜ!!



「おい、ジャンヌ、モナ、なんだかよくわからないが、デスリッチを捕まえるぞ!!」

「アルト!! あんた何でこんなところにいるのよ!!」

「アルトさん、オベ……じゃなかった。デスリッチは何を考えているのでしょうか?」



 二人が同時に質問してくるが、モナがいる以上本当のことを話すわけにはいかないんだよな……俺が苦い顔をしているとサティさんが、助け船を出してくれた。



「実は元四天王のデスリッチが反乱をおこす噂を聞いていたので、アルトさんと一緒にこの会場に潜んでいたんです」

「あいつ……最近は協力的だと思ったのに……」

「あの人がそんなことをするはずは……」



 サティさんの作り話に、モナとジャンヌが驚きの声を上げる。だけど、その二人の表情は全く違った。モナは悔しそうに……ジャンヌは困惑している。

 そして、俺はジャンヌと同意見である。デスリッチは小物臭のただようあほだが、ジャンヌの事を思ってたのは本気だ。大方俺たちの言いなりになるのはプライドが許さなかったので、自分なりに計画にアレンジを加えたといったところだろう。

 だったら、俺もあいつをサポートしてあげないとな。



「ジャンヌ、結界のスペシャリストのお前だったらこの結界も壊すことができるんじゃないか? わからないことがあったら本人に聞いてみろよ」

「アルトさん……そうですね、ありがとうございます」



 俺の意図が伝わったのだろうジャンヌは頷いて、結界に触れる。



「結界の鑑定だったら、俺だってできる。サポートするぞ!!」

「では、私は人々の避難をしてきます。モナさんはアルトさんとジャンヌさんを見守っててくれますか?」

「わかったわ!!」



 サティさんの後ろ姿を見送って俺は結界を鑑定する。なんだこれ……ジャンヌに絶対領域を魔力に置き換えて疑似的に似た効果を出してやがる。



「おいおい。神の奇跡の模倣かよ……」



 ジャンヌの結界は神の加護だっていうのに……あいつはそれを模したのだ。



「あいつ……魔法に関しては無駄に才能があってむかつくな!!」

「うふふ、流石はオベロン様です。でも、これはすごすぎて私じゃ……」

「アルト、モナ、こんなものを見つけたけど、意味はわかるかしら?」



 ジャンヌがデスリッチを讃えながらもその実力の差にあきらめかけた時だった。周囲を警戒していたモナが何かの紙の切れ端を持ってきた。



「なになに……『もしも、我の元にこれたら、一回だけなんでも願いをかなえてやろう』だと……」

「この筆跡……なんでも……ですか……? なんでもってなんでもですよね!!」



 俺が紙を読み上げると、ジャンヌが無茶苦茶目を輝かせて、にじり寄ってきた。しかも息がむっちゃ荒い。

 なにこの聖女こわい……



「うふふふ、だったら、まずは願い事を100回きくにしてもらって、そのあとはお散歩や、一緒にちょっととくべつなデートをしてもらうとしましょう!!」

「それってありなのか?」

「ジャンヌどうしたのよ……」



 突然本性を現したジャンヌにモナが引いた声をあげるが、デスリッチからのご褒美に目を輝かしている彼女はそれにも気づかない。



「いや、これはだな……」



 必死にフォローしようにもジャンヌは実はデスリッチが好きでドMなんだって言っても信じてもらえなさそうなんだよな……



「だけど……なんか活き活きとしているわね。よかった……楽しそうで」

「モナ……?」

「アルトさん、モナ見てください!! 一部ですが、結界を破壊しましたよ!!」

「まじかよ!?」



 ジャンヌの方を振り向くと、いつの間にか、結界の外側で得意げにピースをしていた。まあ、この二人の問題はもうちょい様子を見るか……

 そうして、俺たちはデスリッチの元へと向かうのだった。

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