8.サイン会

「これは一体どういうことでしょうか……?」



 ジャンヌは突然目の前で土下座をしてきたリッチの存在に困惑していた。なんで彼がこんなことをしているのだろうか? まったくもってわからない。



「デスリッチ……なんでこんなところにいるの? しかも、ジャンヌ様っていったいどういうことなの?」



 隣のモナが怪訝な顔でつぶやく。そして、それは彼女だけではない。周りの人間や魔物たちも同じだった。まあ、サイン会にきたらいきなり作者がコスプレをしているジャンヌに土下座をしたのだ。無理もないだろう。

 だけど、ジャンヌが驚いているのは別のことだった。



「あなたは誰ですか……?」



 そう、だって、サイン会にいるはずの作者はデスリッチのはずなのに、目の前にいるのはデスリッチと同じ格好をした別のリッチなのである。

 よく似ているから他の人にはわからないかもしれないが、誰よりもまじかでデスリッチを見ていたジャンヌにはよくわかった。まず目のくぼみの形が違うし、歯並びも少し違う。その上、骨の光沢もわずかに弱い。何よりも目の前のリッチからは彼女が惹かれた強い意思を感じられなかった。

 まあ、違いがわかるのは心の底からデスリッチ様を愛している私だけかもしれませんが……



「あ、でも、あんたデスリッチに似ているけど別骨っぽいわね。同じ格好をしていたからわからなかったわ。あんたもコスプレしてるの? というか、なんで作者さんがデスリッチのコスプレをしているの?」

「……」



 モナが何か言っているがジャンヌは聞こえないふりをした。そんなことよりもならば本当のデスリッチは……と思っていると、会場全体にすさまじく禍々しい結界が張られるのを感じた。



「一体何が……?」

「この感覚、ジャンヌ大変よ!! 私たち閉じ込められているわ!!」



 隣のモナが騒いでいるのを聞きながらジャンヌは驚愕の声を漏らしていたのは別の理由があった。だって、この結界ただの結界ではない。

 


 これは私の絶対領域に近い……こんなことができるのは一人しかいません



 そして、次の言葉で自分の考えが正しいと確信する。 


 

『ふははははは、愚か者どもめ!! 貴様らは我の罠に引っかかったのだ!! 魔王よ、ここにいるのだろう!! この結界は内からは決して開けることはできぬ!! 魔王よ、エルダーを通して、四天王の座をジャンヌから我に返るように訴えるのだ!! あの聖女め……我が配下に下ったふりをして、人との共存を拒んでいた我から四天王の座を奪った上に奴隷のように扱うとはなぁ!! 絶対許さんぞ!!』



 魔法を使っているのだろう、会場内でデスリッチの声が響き渡る。それでジャンヌは彼の考えがわかってしまった。



「え、あの愛奴隷って本当にジャンヌだったの?」

「ええ……」



 信じられないとばかりに声をしているモナに答えながらこれからどうするかを考える。デスリッチがなぜこんなことをしたのかを……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る