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デスリッチと別れたあと、俺たちは帰路についていた。



「ジャンヌとモナを仲直りさせるか……できますかね?」

「元は仲間だったんでしょう? でしたらちゃんと話せばわかってくれると思いますよ」



 俺の溜息交じりの言葉に、隣を歩くサティさんは俺を元気づけるように微笑んでくれている。



「だといいんですが……」

「うふふ、アルトさんは本当に優しいですね」

「え?」

「だって、今回の話は、デスリッチとモナさんやジャンヌさん勇者パーティーの問題です。なのに、あなたは本気で悩んで解決しようしている。素晴らしいと思います」

「でも、それは……」



 サティさんの言う通り勇者パーティーではない俺は、今回の件に関わらなくてもいいかもしれない。デスリッチとも別に友達じゃないし、勝手にしろよと言っても問題はないかもしれない。

 

 いや、本当にそうなのか? 

 

 俺は一瞬よぎった考えを即座に否定する。



「そんなことはないですよ。モナは俺の友人ですし、デスリッチとジャンヌは……なんだろ? まあ、他人ではありません。それにモナとジャンヌは王都で苦しんでいた俺の幼馴染のアリシアを支えてくれていていたんです。だったらもう、他人じゃないし、今度は俺が助ける番です」

「うふふ、アルトさんならそういうと思いました。そう思えるあなたは素敵です……あなたみたいな人が増えれば、魔物と人間の共存ももっとうまくいくと思うんですが……」



 そういうとサティさんは小さくため息をつく。魔王としての仕事はいまいちわからないが、人と魔物の共存は色々と問題がまだ山積みなのだろう。

 仕事を思い出したのか、ちょっと暗い顔をしたサティさん気を紛らわせようと軽口をたたく。



「サティさんだって優しいじゃないですか。それ重くないですか?」

「それ、なんてモナさんが可哀そうですよ。安心してください。私はアルトさんが思っているよりも力持ちなんですよ」



 そういってモナを背負いながらサティさんは得意げに力こぶをつくるポーズをとって「えへへ」と笑う。流石は戦闘力9999である。

 最初は俺がモナを背負おうと思ったのだが、複雑そうな顔をしたサティさんに「私が背負うので大丈夫ですよ」と言われてしまったのだ。

 嫉妬するサティさんは可愛かったとだけ言っておこう。



「とりあえずはどこかに行ったジャンヌを探してモナと話すように説得してみましょう。このさいです、デスリッチがあいつのことをどう想っているか話してやれば泣いて喜ぶでしょう」



 デスリッチのやつは内緒にしたがっていたようだが知った事ではない。俺達に任せたあいつが悪いのだ。



「その次はモナさんですね。もともとは勇者パーティーを組んでいたくらいなんです。ちゃんと話せばきっとわかってくれますよね」

「だといいんですが……モナはジャンヌがデスリッチの仲間になったことは知らないし、思い込みが激しいからなぁ……めんどくさい誤解しそう……」



 最初に会った時のことを思い出して俺がげんなりとしていると、サティさんが笑いかけてくる。



「私も説得するのを手伝いますから大丈夫ですよ。二人ならばきっとできます。これまでだって、色々ありましてけど、大丈夫だったんじゃないですか」

「そうですね。サティさん、ありがとうございます……ってうぉぉぉぉ!?」



 会話の途中でサティさんはなぜかモナを空中に放り投げて、俺を押し倒すように抱き着いてきたのだ。柔らかい感触と甘い匂いが俺を襲う。



「サティさん、積極的なのは嬉しいですけど、はじめてはベッドの上がいいです!!」

「ち、ちがいますよ。敵襲です!! これは結界魔法でしょうか?」



 サティさんのいうとおり、俺たちが一瞬前までいたところに、不可視のナニカが叩きつけられたようで、地面がえぐれやがった。

 くっそ、いい雰囲気だったのに!!



「一体誰だよ!!」

「犯人がやってきたようですよ」



 サティさんの言う通り目の前から一人の人影が歩いてくる。その人影は漆黒の法衣を身にまとって、正体を隠すように幻影の仮面を身に着けている。

 起伏の激しい体つきの少女だ。っていうかさ……



「ジャンヌじゃねえか!! 何やってんだよ!!」

「ふふ、流石ですね、アルトさんにはこんな仮面は無意味なようですね。ですが一つだけ、訂正させてもらいましょう!! 今の私はジャンヌではありません。嫉妬の力で新たな力に覚醒した存在!! そうでうすね、ジャンヌオルタとでも名乗らせてもらいましょうか!!」

「いや、それは色々と怒られそうだから名前かえてくれない?」



 目の前の聖女はそんなことをいってきやがったのだった。ちなみにモナはまだ落ちてこないんだけど、サティさんはどれくらいの力で投げたんだ?

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